海外人件費:戦略を持って熟考するか、安さを求め彷徨い続けるか

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尾身浩 SPECIAL

海外商談コンサルティング

株式会社源盛グローバル 代表取締役 尾身浩

海外商談に必要な専門スキルとノウハウを伝授する実践派コンサルタント。商社などに頼らずに、独立独歩で海外企業と取引したいと考える中小メーカー企業や個人事業主から高い評価。語学がほとんどダメでもOK 。商談の押さえどころと外国語のココだけ! を押さえることで、 小さな企業でも世界に売り、世界から買い付けられるようになる…と、注目のコンサルタント。


今週弊社にいらっしゃったアパレル関係の会社を営む顧客からこんなご相談を頂きました。

「オミさん、うちは長らく中国で生産拠点を構えてきましたが、人件費が本当に高くなってしまって。今はどこが良いいですか?バングラデシュなんかどうなんでしょうか?」

人件費問題はかなり真剣にお悩みのご様子です。

その話の前に、ちょっと話は逸れますが、中国は変わったという話です。

中国は今週まさに国慶節でのお休みですが、訪日外国人で最も多いのはご存知の通り中国人旅行者。昨年2016年は637万人で全体の26%。北米とヨーロッパ諸国を合わせても300万人程度ですから、その多さが理解できます。ちなみに2位は韓国で509万人とのことです。※日本政府観光局調べ 

少し鎮静化したとはいえ、大人数で来ては多額のお金を落としていくのですから大変有難いことです。

しかし先日ある記事を読んでいたら、最近の中国人富裕層の旅行者がこんなことを漏らしているのだそうです。

「せっかく日本に来ているのに。どこへ行っても中国人だらけだしね(笑)。次の休暇には別の国へ行くよ」

どこかで聞いたような台詞です。バブルの頃からでしょうか、世界中どこへ行っても日本人という時代がありました。観光のみならず、ビジネスでも、奥地の更に奥までいっても日本人がいた、と言って笑い話にしたものです。

それを今、中国人が感じているのですから時代は変わりました。それだけ豊かになったわけです。

20年程前には田舎の中国工場の前に毎朝、人が列をなして仕事を求めていました。若くて、安い給料で働ける人材がいつでも門の前でスタンバイしているようなものです。それを良いことに、経営者はパフォーマンスが落ちたと感じる従業員は簡単に解雇。そんなことが可能だった時代がありました。

しかし現在は大きく事情が変わり、一方的な不当解雇は出来ません。社会保障関連のコストも義務付けられ、毎年給与も上げるよう指導がありますから、こうして積みあがる固定費は当然のように自社製品の価格に反映されてきます。

人はいくらでもいるはずだった中国。若者も仕事を選ぶようになり、門の前に並んでまで単純作業の労働を求める子はおらず、求人も一苦労の時代。業界によっては人の採用まで難しくなってきているわけです。

こうした状況下、冒頭の経営者の方もこの先どうしたものか、という訳です。しかし人件費という木だけ見て、森を見なければ失敗の確率も高まります。

中国と比較して人件費は安くなっても、別の国へ行けば全て一からやり直し、という現実があります。

長らく安定した品質を築いてきたのに、何もかも最初から教えなければならない。クレームの確率が増え、余計なコストや心配事が増えるでしょう。

中国よりも距離的に遠くなったら、出張コストもあがり、簡単に行けるところではなくなるかもしれません。

 

日本からのアクセスである航空便数、インフラが整わず不便になれば同時にこれは製品の納期、品揃え、在庫のタイミングにも影響し、結局コストになります。

国際情勢によりその国の為替が大きく動いたり、課税の問題が出たり、新たな経済圏が形成されたり撤退したりすれば当初の目論見はやはり崩れます。

中国にもあることですが、その国特有の国民感情を含めた地政学的なリスクや気候なども考慮せねばなりません。言うまでもなく、現地の人との関係構築も一から、です。

まさに真剣に移設を考慮し始めたら小さな会社では大変な労力と負担になります。

結局膨大な身銭を切ったり切らされたりし、新しい国で工場が安定してきた頃にはまた給与が高くなりました、などという可能性も十分考えられます。変化のスピードは速く、今その国の平均給与が安いと思っても、中国が20年前と比べて大きく変化したのと同様、もっと速度を速め、あっという間に上昇してくることでしょう。

最適地で生産することがセオリーであっても、人件費が安いことがイコール最適とは限りません。

実際に日本を代表する衣料品メーカーでさえも、一度は脱中国をしてみたけれども、新たな戦略を取る場合、やはり中国のほうがやり易かったとして、一部中国へ回帰しています。最近では海外自体から引き揚げて、生産拠点の日本国内への回帰も見られるようになりました。

安さだけを求めてどこまでも彷徨い続けるのがいいのか。これはメーカーだけの話ではなく、海外事業に携わる限り付きまとうものです。

戦略を持ち、考えられる要素を洗い出し、しっかり精査していく必要があります。

 


世界に売る、世界から買う! 小さな会社の商談術
尾身浩

海外商談コンサルティング

株式会社源盛グローバル代表取締役

尾身浩

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