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情報共有と経営

  知見発掘の経営 西田純 SPECIAL
西田純 SPECIAL

知見発掘の経営コンサルタント

株式会社FSコンサルティング 代表取締役 西田純

経営コンサルタント。社員の見たものをお金に換えるしくみづくりの専門家。企業が社内各所に埋もれさせている「有用な知見」を発掘し、共有知・組織知として業績向上につなげる。国内外のさまざまな経営事例を通じ、30年以上にわたり一貫して小集団活動やプロジェクト現場における共有知の価値を研究してきた、知見活用のスペシャリスト。

当コンサルタント開催セミナーがあります。

企業を巡るさまざまなスキャンダルは、古今東西絶えることがありませんが、スルガ銀行を巡る乱脈融資問題は、その特殊性も手伝ってテレビのワイドショーなどでも取り上げられているようですね。いささか旧聞に属しますが、最近では東芝の不正会計問題も世間の耳目を集め、連日「これでもか」というくらいメディアを賑わしました。

これらと同根の問題は、規模の大小こそ違うものの毎日のようにどこかで発生しています。ではなぜこのような問題がなくならないのか、どうしていつもどこかで発生するのか、今日はその点についてお話しします。

会社組織にあっては、それがトップダウンの場合でもボトムアップであっても、最終的には経営の意思決定に基づいて前線部隊が活動するわけですが、経営と前線部隊の間には、営業の現場で起きていることを巡って情報量に決定的な差異が生じます。というのも前線部隊は現場をよく知っており、経営は前線部隊から上がってくる情報のみを判断の基準にせざるを得ない立場に立つことが多いからです。

ここで発生している状況を「情報の非対称」と言い、この関係を経済学では「プリンシパル・エージェンシー理論」という考え方で説明していますが、どの情報をいつどれだけ上に伝えるか、について決定権限を持つのは前線部隊、ということになります。最終的にはすべての情報を報告する義務があるとしても、その順番やきめ細かさ(情報の粒度といいます)は一義的に前線部隊の裁量に負うところが大きいのです。
 
 エージェンシーたる前線部隊は、プリンシパルたる経営者の代理人として業務の遂行を通じた収益の最大化を期待されていますので、プリンシパルが示した経営理念や経営目標に沿って最大限の努力を果たすのがその役割のはずです。

ではなぜそこで、最終的には乱脈経営と批判されるような暴走やトラブルが起きるのか?スルガ銀行の事例でも東芝問題についてもそうでしたが、前線部隊にとってはきわめて尖った経営目標があり(スルガ銀行の場合はこのご時世にあって突出した利益の確保、そのための個人融資を中心としたビジネスモデル、東芝の場合は過重な収益目標設定)、彼らはその達成を期待されたエージェンシーの立場にいたわけです。

そうなると、目標の達成が難しい場合は特に、「要は○○さえすれば良い」という、前線部隊による目標の絞り込みが発生します。この結果がスルガ銀行の場合は「要は(リスクがあっても)個人が運営するハイリターン物件への融資金額が確保できればよい」であり、東芝の場合は巨額損失も手伝って「要は報告用の数字が出ればよい」という、エージェンシーとしてのタスクの単純化だったわけです。

このプロセスが、「手段の目的化」です。すなわち、本来であれば融資金額を高めるのは収益向上という目的達成のための手段にすぎなかったはずなのに、難しい目標を達成するための対策によって、手段を採用すること自体が行動の目的になってしまっているのです。

常にプレッシャーと対峙しなければいけないビジネスの現場ではよくありがちな話だと思うのですが、経営者はそれがもたらすリスクをしっかりと管理することが求められます。なぜなら過剰なリスクによって目的を損ねるようでは全く本末転倒と言わざるを得ないからです。

その意味で報告用の数字の確保などは、ずいぶん下位の手段にすぎず、そこまで譲歩しないと仕事ができなかった東芝の前線部隊は誠にお気の毒と言わざるを得ませんが、いずれにせよ前線部隊についてはプレッシャーの存在が、「手段の目的化」などタスクの絞り込みの誘因となり、最終的には「情報の非対称」を使ってプリンシパルたる経営との間に情報共有の隙間を作らせるきっかけになるのです。

経営も前線部隊も、事業を通じた会社の繁栄と社会の発展を願っていることに変わりはないのに、現実問題としてなぜこういうことが起きるのか。そういう現実を目の前にして、経営者が取らなければいけない行動は何なのか。二つの事例は大変重要なことを示唆してくれているのではないでしょうか。

あなたの会社では、前線部隊との情報共有に隙間が生じていることはありませんか?

 

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西田純

知見発掘の経営コンサルタント

株式会社FSコンサルティング代表取締役

西田純

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