中期経営計画は本当に必要なのか?
「変化の激しい時代だし、中計なんていらないと思っていたんだけど…」
先日、ご支援先の中期経営計画(中計)発表会に立ち会った際、発表後の雑談で社長がふと漏らされた言葉です。
中計は本当に必要かー 経営者や経営企画に携わる人々の間ではよく話題に挙がりがちなテーマです。実際、効果を認める人もいれば、不要だと考える人もいる。立場によって意見は分かれます。
冒頭の社長の言葉の続きは、
「作ってよかった」
でした。当社では中計策定のご支援を行うことも多く、支援者冥利につきる大変うれしいお言葉でしたが、それはさておき今回は、中計の必要性について改めて考えていきたいと思います。
■不要論にもうなずける理由
中計が不要だとされる最大の理由は、環境変化があまりに速く、計画を立ててもすぐ役に立たなくなるからでしょう。
確かに業界によっては、3〜5年も経てば前提条件ががらりと変わることがあります。技術革新、海外情勢の不安定さ、原材料価格の乱高下、技術革新や消費者ニーズの急速な変化。こうした環境下では、精緻に作った計画が数年後には役に立たなくなることも珍しくありません。
実際、過去に中計を作ってみたものの、「すぐに陳腐化した」「机上の空論にしかならなかった」と感じた経営者も少なくないでしょう。実態と乖離しているのに形骸化した計画が残り続けることで、現場に“計画に縛られる息苦しさ”を押し付けてしまうこともあります。
こうした点で、中計不要論は決して的外れではありません。むしろ、変化のスピードを肌で感じているからこその現実的なものの見方であるとも思います。
■それでも残る中計の価値
それでもなお、中期経営計画には無視できない価値があります。
例えば、社員全員が共通の目標を持てること。これが明文化された形で存在することで、社員一人ひとりが「いま何のためにこの仕事をしているのか」、「次は何をすればよいのか」を理解しやすくなります。
他にも、リソースを前もって準備できることも見逃せないメリットです。人材採用や育成、設備投資や資金手当てなどについて、「必要になってから慌てる」のではなく「必要になる前に備える」ことが可能になります。さらに金融機関や取引先に対しても、会社の姿勢を示す資料として中計は機能します。
ただ、冒頭の発表会で私が強く感じた価値は、こうした実務的な効用とは別のところにありました。それは、計画が描く未来像の実現に対する経営者の決意や本気度を、周囲に明確に示せるという点です。
もちろん、中計を印刷して配布するだけでは不十分です。経営者自らの言葉で語られることでこそ、その本気度は聞き手に伝わります。社員や取引先は、プレゼンの巧拙ではなく、自社の現状や経営者の日々の言動、人となりなどを総合的に見ながら、「この中計は本気で語られているか」「将来を託すに値するか」を敏感に感じ取るのです。
冒頭のケースでは、見栄や偽りのない、経営者自身の言葉で、聞き手である従業員に対し誠実に語っていることがはっきりと伝わる話し方になっていました。そこには派手な演出や、センセーショナルな発表などはありませんでしたが、経営者の真剣さに引き込まれる形で、皆が聞き入っていました。
経営者の熱意が伝わった瞬間に生まれるのは、数字以上の共感、期待、信頼です。経営者が何を大切にし、どんな未来を目指しているのかが伝わるからこそ、周囲は「この方向についていこう」と思えるのです。
つまり、中計の本当の価値とは「未来を当てること」ではなく、「関係者の共感を引き出し、期待と信頼を積み上げる」ことにあり、それによって経営の基盤を大きく強化できるのだと今回強く感じました。
■中計を変化に合わせて進化させる
もし中計を立てるのであれば、社内外の環境変化に合わせ、その中計を変えていかなければなりません。だからこそ大事なのは、変化に合わせて計画自体を更新できる仕組みを持つことです。月次の予実管理で現状との差を把握する、四半期ごとに重点施策を見直す、撤退条件や投資上限といったルールをあらかじめ明文化しておくなど、先が見通せないからこそ、仕組みやルールをあらかじめ作って運用することが大切です。逆にこうした仕組みやルールがあれば、変化に応じた修正も迷わず行えます。
この意味で、中計においてより重要なのは「的中率」ではなく「修正速度」であるともいえます。会社によっては、重厚長大な書類を中計と呼び、作成後は顧みられることがないまま、そのまま忘れ去られていくということも少なくありません。しかし、中計は固定的な書類ではなく、状況に応じて更新される羅針盤であるべきです。これを意識した運用を重ねることで、計画は環境変化に耐え、経営の軸として機能し続けるはずです。
いかがだったでしょうか。今回は、中期経営計画は有効という観点からの文脈となりましたが、依然として不要であるという主張も十分ありえます。結局のところ「必要か/不要か」という単純な二択ではないということです。
しかし、中計を未来を“当てる”ためのものではなく、未来へ“向かう”ために全員が同じ方向を見られるようにするための仕組みだと捉えれば、可能性は広がります。更新を前提とした中計の運用は、経営者の本気度を伝え、周囲の信頼を積み重ねる営みとなります。
変化が激しい時代だからこそ、未来像を言葉にして共有し、共に歩む。私はそこに、中期経営計画を持つ意味があると考えています。
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