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実績がないことをやる?やらない?その姿勢が問われる。

SPECIAL

キラー技術開発コンサルタント

株式会社如水

代表取締役 

キラー技術創出コンサルタント・弁理士。成熟ものづくり企業の新商品・新事業を粗利50%以上の高収益にするノウハウでクライアントを支援し実績を上げている。
 中には、ほとんど手間をかけずに、粗利90%以上の事業と優良な知財を両立させるクライアントも輩出するなど、超効果的なR&Dを実現するノウハウには定評がある。

「その方法は実績があるのですか?」と疑わしい表情で発言者の私に問いかけたのは、とある部長でした。

時は数年前、場所はとあるメーカー(A社)の会議室でした。コンサルタントの私は、A社社員が参加する会議にて、A社の「技術マーケティング業務」についてのコンサルティングをしていました。A社社長、部長、社員の方々で、全部で7人だったと思います。当時、2回目の会議でした。

第1回目では、A社の現状業務の問題点を指摘して処方箋の概略を提示しました。コンサルタントとしては、現状の問題点や処方箋でさえも、社員の方々に理解してもらうのには気を使います。A社でもそうでした。なぜなら、社員の方は正しいと思ってやっているからです。

横道にそれるようですが、コンサルタントはクライアントの現状の問題点や処方箋を指摘するのが仕事です。とはいえ、ストレートに言っては嫌われてしまう場合があります。そのため、「オブラート」に包みながら言うわけです。嫌われてしまっては目的を完遂することもできません。

さらに蛇足ですが、そもそも筆者は嫌われることを厭わない図太い性格ではありません(笑)。同じコンサルタントでも嫌われることを厭わない人もいますが、嫌われるのを恐れすぎてクライアントに順応してしまう人もいます。

話を本論に戻します。第1回目で、現状の問題点や処方箋についての理解を得ましたので、第2回目では、処方箋の詳細を詰めていくことになっていました。第1回目で「総論賛成」を得た話の続きです。お医者さんに例えると、薬の配合を決める感じでしょうか。

2回目の会議で私が詳細な処方箋を話し終えると、各位の発言が出始めました。A社長はあえて発言せずに社員が話し始めるのを待っていました。そうしたところ、出た発言というのが、冒頭の発言だったというわけです。

「実績があるのですか?」という質問はよくある質問ですので、答えもある程度決まっています。ただ、このコラムでお伝えしたいのはその答えではありません。もっと別のことです。

表情の裏には

コンサルの現場では、総論賛成であって、各論反対というのはよくある話です。なぜなら実践には痛みを伴う場合もあるからです。そのため反対そのものには驚きはありません。

例えば、「現業が忙しくて処方箋を実践する時間がない」というのは一般的な反論です。言い換えれば「短期仕事が多すぎるため、中長期の仕事(処方箋)はできません」という言い分です。よく分かる理由です。

しかし、A社部長の反応は違いました。「実績があるのですか?」という質問をした部長の表情には、明らかに疑わしい気持ちが表れているように私には感じられました。言外に「実績のないことはしない」という含意があるようにも。

一瞬答えに窮しましたが、私の中で答えは決まっていましたのでどう伝えようかと思いました。部長の頭の中がどうなっているのか気になったのです。

当然ですが、処方箋は会社ごとに違います。ただ、大きく違うかといえばそうではありません。風邪だったら飲む薬がある程度決まっているように、会社でも症状に応じて処方箋もある程度決まっているのです。そのため実績豊富と言えば豊富です。とはいえ個別には違いますから、ないといえばないのです。

一瞬、「他社で実績豊富です」と言えば部長は安心するのかな、とも思いましたが、それでは私の考え方が勘違いされてしまいそうなので、以下の答えを口に出しました。

「全く同じ実績はありません。しかし、他社でやっていないからこそ価値があると、私は思いますが、いかがですか?」

コンサルタントの心理

横道に逸れるようですが、コンサルタントとしての微妙な心理について開示しますと、上記のようなことを言うようになるのに、私には経験が必要でした。というのも、部長のような方を前にして実績のないことを提案するのに、若い時は怯んで(ひるんで)しまっていたのです。

「実績のないこと」という言葉を年長者が口にすると、どこか上から目線の響きがあります。実績を前提にすれば経験がものを言いますし、年長者の意見が優先されると、私は思っていました。このメンタリティは日本人や韓国人なら理解できると思います。

しかし、コンサルタントとして経験を積むにつれて、「実績のないこと」を長年しないで低収益になる会社をよく見るようになりました。また、「実績のないこと」をしない会社は、他社同様の取り組みしかしないことと同じで、結局差異化はできないことを知るようにも。

「実績のないこと」と言っても、コンサルの私がいわゆる飛び地の事業を提案することは極めて稀であって、ほとんどは本業強化・地続き感のある提案をします。そのため、私には「実績のないこと」には見えないのですが、A社部長のように、見方によってはそう見えてしまうことを知るようになりました。

A社部長に話を戻します。部長の回答はこのようなものでした。

「社内事情にも配慮して提案をしてほしい。」

若干、うしろめたそうに話をされたこともあったので、私は「承知しました」と言い、それ以上話を続けることはしませんでした。この部長は後日コンサルティングの会議には現れなくなりました。A社長が外されたと聞いています。

ここでA社部長を、「改革の抵抗勢力」とレッテルを貼ってバッサリやればこのコラムは分かりやすいです。ただ、お伝えしたいのはそういうことではありません。

というのは、A社部長の心理を慮ると、このようにも見えます。A社部長は調整型のスタイルだったと聞いています。調整役の部長にとって私の提案が唐突だったのではないかと思うのです。今でも、A社部長に根回しをしなければならなかったのかもしれないと思うところがあります。

配慮をすればよかったのかもしれない

少なくとも昭和の時代は、A社部長のような調整型の方が会社での実力を発揮しやすかったのは事実です。平成後半には改革が必要になった時代に変わったとは言え、このような方には年長者というだけでなく肩書もある方がおられるでしょう。

このコラムを読んでおられる方は、社内ではA社部長タイプではないでしょう。逆に改革者であることが多いと思います。このコラムで言えば私の立場に近く、周辺にA社部長のような方がおられるのではないでしょうか。

今日のコラムでお伝えしたいのは、「抵抗勢力に負けるな」とかそういう単純な話ではありません。むしろ、彼らの育ってきた時代背景や存在意義を積極的に認めつつ改革を進めようではないか、ということです。

「実績はあるのですか?」という問いかけに対して、「実績がないからやるんです」とバッサリやることではありません。「実績がないことをやらなかったから業績が低迷している」と丁寧に説明する姿勢を示すことです。

なぜなら、こうした姿勢は必ずや抵抗勢力にも響くものがあるだろうと思うからです。バッサリやれば嫌われる。嫌われても良いのですが、嫌われる前に最大限人間としてすべきことをしたい。そうした上で嫌われるのならば構わないし、むしろ自信を持って改革を前に進められるようになるのではないかと思います。

自信を持って進めるためにも、支持を得るのは重要です。そのためには突っ走ることなく、丁寧に説明することです。結果として理解が得られなくても良いではありませんか。説明する責任を果たすことで自分の自信になるのですから。

さて、読者の中には、バッサリといける改革者の方もおられるでしょう。私のようにクヨクヨ悩むタイプの改革者もいるでしょう。しかし、どちらにしても目的は同じです。会社を変えることです。

若い時の私のように、改革者に自信がなくなれば改革は前に進みません。正論を正々堂々とぶつける。説明の責任は果たす。そうして、自信を持って改革を前に進めようではありませんか。

この記事は日経テクノロジーで連載しているものです。

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