売上至上主義が事業承継を失敗させる理由
多くの社長は、「売上が好調なうちに、息子に会社を引き継ぎたい」と考えます。確かに、一見すると理想的な事業承継の形です。
しかし、売上が好調だからといって、会社にお金が残っているとは限りません。むしろ、売上至上主義で経営してきた会社ほど、「売上は伸びているのに、なぜか手元にお金がない」という状態に陥っていることが多いのです。
なぜなら、売上至上主義の会社ほど、売上を追いかけることに夢中になり、会社にお金を残す仕組みが作られていないからです。
さらに問題なのは、先代社長の「売上至上主義」の考え方そのものが、後継社長にも引き継がれてしまうこと。
後継社長は、「父が成功したやり方なら間違いない」と考え、同じように売上を追い続けます。しかし、時代は変わっています。バブルや高度経済成長期のように、モノやサービスがどんどん売れる時代ではありません。
その結果、後継社長は事業承継後、「売上は伸びているのに、毎月お金が足りない…」「銀行借入が減らない…」「資金繰りに追われて、新しいことに挑戦できない…」という状態に陥ってしまうのです。
事業承継で最も大切なことは、売上が好調な会社を引き継ぐことではなく、会社にお金が残る仕組みを引き継ぐことです。
事業承継の準備と聞くと、多くの社長は「株式の承継」や「税金対策」をイメージします。確かに、これらも重要な準備の一つです。
しかし、事業承継の準備で最も時間がかかり、最も重要なことは、「財務中心の会社づくり」です。
なぜなら、財務の実務は、時間が経てば経つほど、その効果が大きくなるからです。
例えば、財務中心の会社づくりに取り組んだ結果、毎年1,000万円の現金が会社に残る体質になったとします。3年経てば3,000万円、5年経てば5,000万円、10年経てば1億円と、時間の経過とともに、お金が積み上がっていくのです。
ところが、多くの先代社長は、引退間際の60歳を過ぎてから、事業承継の準備を考え始めます。しかし、それでは遅いのです。
できれば、40代、50代のうちから事業承継を見据えて、財務中心の会社づくりに取り組むべきなのです。事業承継の準備は、「早すぎる」ということはありません。
そうすることで、後継社長に引き継ぐ時には、会社に潤沢な資金があり、銀行からの評価も高く、後継社長が安心して経営に専念できる状態を作ることができます。
先代社長が財務の実務を実践していれば、その姿を見た後継社長も、自然と財務の重要性を理解するようになります。
大切なことなので、何度もお伝えしますが、同族会社の事業承継では、株式や不動産、資金などの「目に見える財産」だけでなく、経営理念や会社経営の考え方など、「目に見えない部分」も先代社長から後継社長に引き継がれます。
だからこそ、先代社長が「売上至上主義」のまま事業承継を行ってしまうと、後継社長も同じ考え方で会社経営を行い、間違った経営判断を繰り返してしまうことになるのです。
その結果、どんなに頑張っても、借入依存・資金不足・赤字体質の悪循環から抜け出せなくなります。売上を追いかけ続けても、会社にお金が残らず、いつまで経っても資金繰りに追われる経営が続くのです。
財務至上主義の会社は、会社にお金が残り、銀行からの評価も高く、後継社長が自由に経営判断できる環境が整います。一方、売上至上主義の会社は、いつまで経っても資金繰りに追われ、後継社長が新しいチャレンジをする余裕すらない状態になってしまうのです。
それこそが、後継社長が安心して経営に専念でき、強く永く続く会社づくりができる土台となるのです。
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