第89号:1年かけて進まない現場改善に欠けているもの
「シライ先生、いま、SEに依頼して工程改善を進めているところです」。コンサルティング導入前の面談でこう切り出されたのは、加工業を営むZ社長です。
現場が好きで技術に誇りを持っているZ社長のお話を伺うのは楽しい時間です。一通り加工現場改善のお話をなさったZ社長に、弊社は質問します。
「いつ頃その改善構想は完成しそうですか?」すると社長は苦笑いしながら「まあ多分3か月くらいでしょうかね」とお答えになります。
その反応が気になり、続けて質問します。「専門家とのご契約はいつから始まったのですか?」すると驚きの回答が返ってきます。「1年くらい前です」。
もちろん、現場のあり方を抜本的に変える新たな仕組み作りは大きな仕事です。困難も多いでしょう。しかし売上数億円の加工会社において、1年前から取り組んでいて具体的な成果がないというのは、ちょっとした”異常値”です。
そして完成形は「多分」3か月後――素直にここまでの流れを見れば、3か月後に仕組みが出来上がっている可能性は、残念ながらかなり低いというのが大方の見方ではないでしょうか。
色々なご事情はあるでしょう。毎日の加工業務で現場のキャパが埋まっている、現場の作業を測定しきれていない、見積原価の算定基礎が何十年も前の金額のまま、システム作りの専門家が必ずしも工程の専門家ではない、手慣れたやり方が変わることへの抵抗――
などなど、Z社に限らず「良くしたいけど進まない」は現場のよくある姿だったりします。進まない理由はいくらでもあるでしょう。しかし専門家も協力していて、社内リソースもないわけではないのに進まない状況には、資源ややり方の問題以前に根本的原因があります。
それは、「会社にとって良いとされる基準」が不在のまま、「工程改善すれば良くなりそう」という感覚で仕組み作りを始めていることにあります。
仕組みそのものを新しいものに変えたら「良くなるだろう」という気はします。しかし「良くなる気がすること」と、「良くなるはずだという確信」の間には大きな隔たりがあります。
工程改善すれば確かに「何かが」良くなるでしょう。しかし、では何が良くなるのか、何を良くしたいのか?
品質?納期?・・それとも利益?現預金残高?・・・何が望みでしょうか?・・つまり、経営者が本当に良くしたいと思っている指標に、現場改善がどれだけ結びついているのか――この視点が抜け落ちているのです。
極端な話、品質を良くする、不良を減らす、短納期化する、そして工程改善で時間コストを下げたとしても、それ”だけ”で利益やキャッシュフローが良くなるとは必ずしも言えません。会社の儲けに繋がってはいるものの、必ずしもイコールではないのです。
品質を良くした、だから次はその品質の良さをどう儲けに繋げていくのか?
時間コストを下げた、だから空きの稼働に対してどんな手を打つのか?
標準原価を決めた、だから欲しい利益を生むための時間粗利をいくらに設定し、その価格で受注するためにどうするか?
このように、工程改善のその先まで繋がってはじめて利益もキャッシュフローも付いてくることは、実際多くの経営者が頭では分かっていることです。
頭では分かっている。しかし分かっていることと、動けることの間にもまた、大きな隔たりがあります。その隔たりを埋めるものが「確信」です。
新たな仕組み作りという”未来を作るプロジェクト”を前に進めるには、推進力が必要です。推進力は「確信」が無ければ生まれません。その確信とは、「この利益基準、このキャッシュフローを達成することが全ての仕組みの目標である」というゴール設定から生まれます。
「利益やキャッシュフローの創出に繋がるという論理的繋がりに対する確信」がないまま、「製造現場は良くなるだろう、だから利益もお金もついてくるだろう」という勘に近い感覚で始めてしまうと、日常業務に優先順位を奪われます。
「現場指標は改善するかもしれない、では経営指標はどうなるんだ?」というところに対して、確たる論理的つながりを信じられているかどうか?これが推進力を左右するのです。
逆に、大きなゴール(利益やキャッシュフロー)と現場の論理的つながりが見えれば、「生産現場のこの部分は、この水準でできる仕組みを作るのだ」という改善対象の具体基準が決まります。
基準が決まるから完成形のイメージが鮮やかに描かれます。基準のない状態で完成形を作ろうとすることは、完成形が分からない状態で完成形を作ろうとしているのと同じです。
ゴール基準があれば、工程改善だけを進めても望むゴールに届かないことも明らかになります。
効率化で生まれた余力で何をするのか、どんな単価の仕事をどれだけ安定受注するのか、受注の波をどう吸収するのか――「工程改善」だけでなく「事業作りとの連鎖連動」もセットで考えるようになります。
新たな仕組み作りというプロジェクトに推進力が発揮され、プロジェクト計画が絵に描いた餅でなくなる時は、「改善対象の変化によって、いつまでに、利益とキャッシュ残高がどこまで引き上がるか?」が論理的つながりとして見えた時です。
その時初めて仕組み作りのプロジェクトは、期日と完成形を持った計画として生き始めるのです。
御社の現場改善は今、その確信の上に立っていますか?
コラムの更新をお知らせします!
コラムはいかがでしたか? 下記よりメールアドレスをご登録いただくと、更新時にご案内をお届けします(解除は随時可能です)。ぜひ、ご登録ください。

