第97号:「点の思考」が会社をすり減らす。場当たり的な事業から抜け出すための構造設計
「シライ先生、先週は取引先から大口の話がありました。それから先月はWEBサイトの見直しを始めました。それから・・・」
こう切り出されたのは、コンサルティング前の個別相談でお越しになられた製造業I社長です。
最近の動きをお伺いしたところ、取引や営業活動に関するお話を次々と話してくださるI社長。とても精力的に事業を推進されている様子が伺えます。
一通りお話を伺った後、私は質問します。「I社長、それらの動き全体の循環導線はどう描いていますか?」
「え?」一瞬、虚を突かれたような表情を浮かべるI社長。
続けて、「そうですね、、、これがこうなって、次はこうで……」先ほどまでの勢いとは違い、やや歯切れの悪い話し方ながらも、必死に頭の中でパズルを合わせようと考えている様子が伝わってきます。
――こんな話が来ています、それからビジネスマッチングに参加して、ホームページをリニューアルして――。
思いつくことはやる、できることは何でもやる、来た話には何でも乗る。それ自体は悪いことではありません。行動力は経営者の武器です。
しかし未来を見通して永続的に利益を生み出せる体質になることを目標とするならば、この延長ではたどり着くことができません。精力的に動いているのに安定が手に入らない経営者の多くが、この構造の中にいます。
厚利安定化で重要なことは、将来に渡って利益や受注確保の「見通し」を持てる状態にすることです。
では見通しを持てる状態とは何か?それは、「確率の世界」で事業を語れるようになることです。
強い営業マンがいるとか、会合でビジネスチャンスを掴むといったことは、確率の世界ではありません。特定の人や能力に依存した「単独の世界」です。その営業マンがいなくなれば、社長が会合に行けなくなれば、それで終わりです。
思いつきの単発施策の繰り返しも同様です。HPを作っても、そこへ見込客を呼び込む導線、自社の価値を伝える受け皿になる導線、そして商談を確実に受注へと進ませる導線がなければ、そのHPはインターネット上の単なる名刺代わりにしかなりません。
イベント、コラボレーション、SNS活用・・・大いに結構です。しかしイベントで集まった顧客、コラボレーションで生まれた関係性、SNSのフォロワー、そうした人たちを次どうしていくのか?着地までの論理的繋がりと物理的道筋があるか?
たまたま来た大口の話も、それが自社独自の「ビジネス」を強くしていく要素の一つとして、受注の後にビジネスを強くする導線が設計されているかどうかによって、まぐれで終わるか再現性に変わるかが分かれます。ただその大口受注をこなすだけであれば、単なる単発受注でしかなく、その場の売上は上がっても将来の業績は何も変わりません。
「施策」や「降って湧いた話」というものは、必ず「導線」という仕組み上で動くものでなければ、確率の世界で将来的な利益を確保する状態にはなりません。単発施策をヒットさせることと、永続的に利益が生まれ続ける仕組みを構築することは、完全に別次元の話だからです。
単月勝負、単年勝負を繰り返してしまい、事業としての強さが積み増しされていかない理由は、まさにこういった「物事を点で思考する癖」にあります。
どれだけ点を乱発しても、その瞬間の利益にはなっても永続はしません。特に「価格」に関する点の思考は危険です。
今安くして販売できればいい、いま仕事が受注できればいい、という発想の繰り返しでは、絶対に価格の決定権を握ることはできず、いつまでも薄利多忙の短期勝負を繰り返すことになり、永続的なゆとりは生まれません。
重要なことは、自社ならではの独自価値を中核とした、目指すべき収益構造を設定し、確率論でその実現可能性を語れる「導線」を設計することです。
この基本的な導線という土台があればこそ、様々な施策のアイデアや、単発的な受注チャンスが連鎖連動し、再現性を持った好循環が構築され、未来の数字を確率論で生み出せるようになるのです。
貴社に必要なのは、手当たりの次の一手ではなく、全てを繋ぐ導線設計図です。
I社長の行動力と熱量は本物です。しかしその力が本当の安定をもたらすためには、個々の施策を繋ぐ導線の設計が不可欠です。施策を増やす前に、導線を描く。その順番を変えるだけで、同じ行動量が生み出す将来の景色は、大きく変わっていきます。
あなたの施策は今、どの導線の上に乗っていますか?
著:白井 康嗣
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