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勝敗を分けるのは「準備力」――全米オープンに見る経営の勝ち筋

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循環経済ビジネスコンサルタント

合同会社オフィス西田

チーフコンサルタント 

循環経済ビジネスコンサルタント。カーボンニュートラル、SDGs、サステナビリティ、サーキュラーエコノミー、社会的インパクト評価などへの対応を通じた現状打破と成長のための対案の構築と実践(オルタナティブ経営)を指導する。主な実績は、増客、技術開発、人財獲得、海外展開に関する戦略の構築と実現など。

 先週までアメリカで開催されていた全米オープンテニス大会で、女子の大坂なおみ選手が久しぶりにベスト4まで勝ち残るという好成績を残しました。もうだいぶ前になりますが、私も全米オープンテニスを会場で直接観戦したことがあります。熱気あふれる会場の雰囲気をまだ何となく覚えている気がして、他のテニス大会以上に親しみを感じています。

 

 さて、このたびの大坂選手の快進撃は、何が要因だったのでしょうか。もちろん、彼女の持って生まれたアスリートとしての資質は言うまでもありません。しかし、それだけで準決勝まで勝ち残れるほど、世界のトップレベルは甘くはありません。私は、今回の成果は周到な「準備」に支えられたものだと考えています。

 

 第一に、出産を経て生活パターンが落ち着き、テニスと正面から向き合える環境が整ったことが大きかったのではないでしょうか。アスリートは競技に集中できる環境をいかに確保するかが勝敗を分けます。育児と並行しながらも、日常生活のリズムを整え、余計な不安要素を減らしたことが、彼女の落ち着いたプレーにつながったと感じます。

 

 第二に、トレーニングを重ねてシェイプアップできたことです。以前は試合中に動きが鈍く、ラリー戦で相手に振り回される場面も少なくありませんでした。しかし今回の大会では、俊敏な動きで粘り強くボールを拾い、相手に動き負けすることがほとんど見られませんでした。体を作り直した結果、フットワークに余裕が生まれたのだと思います。

 

 第三に、新しいコーチの存在が挙げられます。ラドワンスカ選手やシフィオンテク選手を育てた実績のあるコーチとの相性は良さそうで、特にメンタル面での安定感に違いが表れていました。これまでの大坂選手は、試合で追い込まれると感情の起伏が激しくなり、集中を欠いてしまうこともありました。観客のブーイングや判定への不満で泣き出してしまう、といった場面を記憶している方も多いのではないでしょうか。そうした過去の弱さを乗り越えられたのは、メンタルを整える支えとなる指導者の存在が大きいと考えられます。

 

 第四に、技術面ではサービスリターンの強化が光りました。大坂選手はもともと強力なサーブで知られていますが、リターンの安定感が加わったことで、相手に常にプレッシャーをかけ、試合全体を優位に進められるようになりました。サーブとリターンの両輪がかみ合ったことで、彼女の強みが一層際立つ展開が増えたのです。

 

 これらはすべて、試合当日のコートの上で急にやれるものではありません。日々のトレーニング、環境の調整、信頼できる人材の起用など、地道な準備の積み重ねがもたらした成果にほかなりません。

 

 実際、一時期の大坂選手は、明らかに体重が増えて動きが鈍り、厳しい場面では気持ちの弱さが顔を出していました。才能豊かなプレーヤーであっても、準備を欠けば結果はついてきません。今回の彼女の大きな成長は、最大のエネルギーを「準備」に注ぎ、勝てる「仕組み」を自ら作り出したことにあるといえるでしょう。

 

 むやみにパワーをつけること、ある特定の技術だけを磨くこと、あるいは弱点補強のためだけにコーチを雇うことは、いわば「点」の対策に過ぎません。しかし大坂選手は「線」あるいは「面」でテニスを捉え、勝つための「仕組み」を整えるという発想を選びました。その答えが「準備」だったのです。

 

 そして注目すべきは、準決勝で敗れた後の彼女の言葉です。「ベストを尽くせた」「さらに成長したい」。この前向きな姿勢は、学びを次の準備に生かそうとする意志の表れです。負けを単なる失敗として終わらせるのではなく、未来への糧に変えていく。その姿は、経営者にとっても大いに示唆に富んでいます。

 

 経営の現場でも同じことが言えます。たとえば新しい市場への挑戦や技術開発は、すぐに成果が出るとは限りません。むしろ最初は失敗や挫折がつきものです。しかし、それらを学びとして取り込み、次の準備に活かすことができれば、必ず成長につながります。大坂選手の「準備の力」は、まさに経営における勝利の秘訣を体現しているのです。

 

 次なる舞台、全豪オープンではさらに進化した姿を見せてくれることでしょう。彼女の挑戦は、経営者にとって「準備こそ未来を切り開く力である」ことを改めて教えてくれるのです。

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