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忘れかけていた『ルーツ』を思い出す

SPECIAL

住宅・工務店コンサルタント

株式会社 家づくりの玉手箱

代表取締役 

住宅・工務店コンサルタント 。規格住宅を高付加価値化させ、選ばれる工務店となる独自の展開手法「シンボルハウス戦略」を指導する第一人者。
営業マンとして自分が欲しいと思わない住まいをお客様にお勧めする仕事に疑問を持ち、ある工務店でどうしても家を建てたくて転職、鹿児島へ 。15年間で173棟の住まいづくりをすまい手目線で担当。そこから編み出された、選ばれる工務店となる具体戦略を、悩める中小住宅会社ごとに実務指導中。

建築家と建てる、某「全国VC(ボランタリーチェーン)」のYouTube配信に渡辺篤史さんが登場されていました。「渡辺篤史のオンライン探訪」というタイトルで毎月やっているようでした。鹿児島に移住する前に「渡辺篤史の建もの探訪」という番組を毎回楽しみに見ていて大好きだったので、思わず申し込んで視聴してみました。

 

渡辺篤史の建もの探訪(テレビ番組)

ご存知ない方のために番組の紹介をしておきます。

テレビ朝日のホームページによりますと「渡辺篤史の建もの探訪」は1989年春、沖縄を皮切りに桜前線と共に北上しつつ日本全国の名建築を訪ねる旅番組として企画されました。つまり3か月で終わるはずだった…のですがいつしか評判を呼び、現在に至る日本有数の長寿番組になりました。取材対象も公共建築から徐々に住宅へとシフト、今日では住宅専門番組となったそうです。誠に残念ながら、また嘆かわしいことに現在鹿児島では放送されておりません。。。

1989年といえば、まだ子供服の仕事をしていました。昔から好きだったので建築や住宅の雑誌を買ってきては趣味で読み漁っていた頃です。素敵な空間の写真を見るとそれだけで夢が持てるというか、幸せ感じれる気がしていたのです。当時はインターネットでじゃんじゃん見れる時代ではありませんでしたのでテレビ番組や雑誌をめくるときが、いこいの場、いこいの時間であったのです。

朝早い時間に確か神戸の地方放送局のチャンネルでやっていました。それぞれのお施主さんと建築家が理想を追求した力作は、その回ごとに視聴者へキラキラとした「あこがれ」を誘い、毎回表示される坪単価でドッと「ため息」をつかせるのでした。番組は毎回「建てたいなあ」「やっぱ無理」と、上げて下げてジェットコースターのような落差を提供してくれていました。

ご覧になったことのある方はご存知かと思いますが、番組進行は見事に型になっています。収録時には実際にぶっつけ本番で家の中を探訪するという渡辺さんは、建築家の意図した見せ場を紹介しつつもお施主様のこだわりの一品を目ざとく見つけ、必ず「いやいやいやこれは!…」と誉めます。そうすると、お施主様は謙遜しつつも「したり顔」です。このあたりの「呼吸」は円熟したものを感じさせます。そうして最後には「あの至福の時間を!がんばって働こう!」と思わせてくれるのでした。

いまの時代よりはずっと家を持つということに「ゴール感」や「ステイタス感」の強い物質的時代でしたし、家を持つためにできるだけ大きな会社、待遇の良い会社に勤めるといった空気感の漂う時代でした。言い換えると、ローンの借り入れ条件を確保するために就職先や仕事そのものを選択するのが普通でもある時代であったと思います。

 

↑渡辺篤史の建もの探訪(ホームページ)

 

https://www.tv-asahi.co.jp/tatemono/

 

番組のホームページもなんだか懐かしいつくりのものです。こういうサイトにはレスポンシブデザイン(スマホのときには縦一列に並べ替えられて見やすくなるやつ)は合わない気がします。スマホで見る際は不便ではありますが、紙面のような表示がいいような。渡辺さんらしい気がするのです。番組ホームページには2003年の放送分からのバックナンバーが全て掲載されていて、見ごたえがあります。まさに渡辺さんのライフワークとも言える佇まいです。

 

渡辺篤史の建もの探訪(書籍)

この長寿番組「渡辺篤史の建もの探訪」のコンテンツは書籍にもなっています。かれこれ7冊も出版されています。初期の頃にはフランク・ロイド・ライトやレーモンド設計事務所をはじめ、大御所のクレジットがずらりと並びます。

 

1996年 7月 単行本『渡辺篤史のこんな家を建てたい』発売(講談社)
1998年 11月 単行本『渡辺篤史のこんな家に住みたい』発売(講談社)
2001年 5月 文庫本『渡辺篤史のこんな家を建てたい』 発売(講談社文庫)
2002年 11月 単行本『渡辺篤史のこんな家で暮らしたい』発売(講談社)
2004年 11月 単行本『渡辺篤史のこんな家を創りたい』発売(講談社)
2009年 4月 『渡辺篤史の建もの探訪BOOK』発売(朝日新聞出版)
2014年 10月 『渡辺篤史の建もの探訪BOOK 25周年スペシャル版』発売(朝日新聞出版)

 

建もの探訪関連書籍では、事例紹介に以下のような項目が記載されています。

 

■設計=○○建築設計
■所在地=東京都○○区
■家族構成=夫婦+子供1人
■構造・規模=鉄骨造+木造3階建(地下・基礎RC造)
■敷地面積=○○.○○㎡(約○○坪)
■建築面積=○○.○○㎡(約○○坪)
■延床面積=○○.○○㎡(約○○坪)
 1階=○○.○○㎡(約○○坪)
 2階=○○.○○㎡(約○○坪)
 3階=○○.○○㎡(約○○坪)
■坪単価=○○万円
■総工費=○○○○万円
■建築完成年=○○○○年○月
■施工=○○工務店

 

2004年までの単行本までは「施工」として施工した工務店の名前も必ずクレジットされていましたが2001年の不思議な小さい変形版を経て、2009年以降の大判ムック本ではなぜなのか省かれています。また、「総工費」「坪単価」欄が非公開とされている物件も目立ち、読者としてはつまらない。「だったら載せるなー」と言いたくなる人もきっといるでしょうね(笑)大判ムック本は写真や図面が大きくて見やすい反面、紹介建物とは関係のない有名人やタレントと渡辺さんの対談に多くのページが割かれていて、当初のコンセプトよりも「本をより多く販売する」という目的が強まっていることが伺えます。そういう点でも時代の変遷を感じさせるシリーズです。

すっかりネット全盛の現在では考えられないことですが、2009年のものより前のものでは白黒ページも結構あるのです。初期の頃の書籍化では多くの実例紹介の中でどの家をカラーにして、どの家を白黒で我慢するかはかなりの議論があったものと想像します。白黒ページのお施主様と建築家の方の無念の思いは、察するに余りあると言っても決してオーバーではないぐらいであったと想像できます。そのぐらい、当事者にとっては「全身全霊」の「一球入魂」の住まいであろうと思うのです。

 

↑「渡辺篤史の建もの探訪」関連の書籍は全部持っています!

 

 

「建もの探訪」と「オンライン探訪」は大違い

 

冒頭での「渡辺篤史のオンライン探訪(YouTube)」を視聴してみて、ちょっとがっかり…
長年の渡辺篤史ファンとしては残念至極でありました。これまでのテレビ番組や書籍では、ご本人がいい意味で「公私混同」してしまうような感じが好きだったので、ここではそういうものはないように思いました。言葉は良くないかもしれませんが、よく昔の芸人さんやタレントさんが「余興」とか「ドサまわり」とか言っていた「アルバイト」「地方営業」のような印象を持ってしまいました。

その後、こんなことを感じました。

長寿番組の「渡辺篤史の建もの探訪」は全国の住宅からテレビ朝日が番組コンセプトや視聴者に合ったものを選んで取材、放送しています。その時代その時代のスポンサーもいることでしょうが、30年以上のキャリアから番組に相応しいものが選ばれています。渡辺篤史さんが個人的にも住宅や建築、その中での時間を楽しむ嗜好に深い造詣を持つ方であったので、ある種の「公私混同」が生まれ3か月で終わるはずだった番組が日本有数の長寿番組になったのではないかと思います。

いっぽう、YouTube配信の「渡辺篤史のオンライン探訪」はいち企業がプロモーション用に製作しているものです。「渡辺篤史さんが登場する」「全国の建築家の作品から選ばれている」という点で見た感じは同じようですが、目的もコンセプトも違います。渡辺篤史さんと長寿番組の「渡辺篤史の建もの探訪」の築き上げてきたブランドイメージを活用した手法であり、永年のファンである私の目には「フェイク」に映りました。不思議なもので渡辺篤史さんが褒めると無条件にいいものに感じてしまう気がするのですが、対価を払ってそのことを活用した「別物」だからです。

同じ渡辺篤史さんが登場するものでも、

「オンライン探訪」(YouTube配信)ではブランドの「拡散」

「建もの探訪」(テレビ番組)ではブランドの「体現」

にフォーカスされているのだと感じました。

文字に書けばちょっとした違いですが、これを自社の経営やブランドに置き換えてみてください。全く次元の違う、似て非なるものであり、とても大きな違いです。この違いを意識しないで経営をやっていると、先に行ってから雲泥の差となることは自明の理であります。

 

社長は自社のコンセプトやブランドを「拡散」することに意識の中心がありますか?それとも「体現」することに意識の中心を置いていますか?

 

 

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