循環経済が拓く日本の明日
「西田さん、日本の将来はなかなか厳しいということですか。」
先日、頼まれてアドバイザーを引き受けている某研究機関の方々と意見交換する機会がありました。その中で、先方の責任者が思わずそうつぶやいたのです。少子高齢化、人口減少、働き手不足、自動車の次の核となる産業の不在、差が開く一方の中国との産業競争力比較、さらにはトランプ関税の影響にも目配りする中で、思わず漏れたつぶやきだったと思います。
確かに現実には厳しいものがあります。繰り返し報道されるニュースには悲観的なものが目立ちます。特に気候変動に関する話題は深刻で、牧之原の竜巻、日本近海で発生した台風15号、9月を過ぎても収まらない猛暑、都心を襲う集中豪雨など、これまでの常識を超える現象が次々に起きています。
しかし、目立ちませんがそこには新しいビジネスチャンスが生まれていることも事実です。酷暑に耐える農作物の開発や、涼しい場所での滞在需要を取り込むショッピングモールなど、気候変動を逆手にとったビジネスは確実に芽を出しつつあります。環境の厳しさは、創意工夫の余地を広げるきっかけにもなるのです。
一方で特に少子高齢化と人口減少、人手不足は長期的に続く構造的課題です。こればかりは好むと好まざるにかかわらず、私たちが向き合わざるを得ない現実です。ただ、ここにも希望の芽はあります。AIの進化によって、ほどなく人手不足の一部は補われるでしょう。さらに将来的には「人間は経営者一人だけ、その他はAIが数千人」という組織の姿が現実化するかもしれません。
そして日本が持つ強みを改めて見直してみると、その一つに「重層的で複合的な産業構造」が挙げられます。世界を見渡しても、ほぼすべての産業を網羅的に抱えている国は、日本とドイツくらいでしょう。中国は確かに巨大な産業規模を誇りますが、きめ細やかな産業の積み重ねという点では日本に及ばない部分があります。この構造こそ、日本が次の成長を描くための大きな資産なのです。
この構造下で事業を担うのが人間だけだった頃、無用なリスクを引き受けたがらない人間たちは「自前主義」という考え方を前面に押し立てて、外部との協業には極めて否定的でした。しかしAIは違います。新たな連携による価値創造を責務として与えれば、むしろいとも簡単に、これまでなかった新たなコラボを提案してくることでしょう。
そしてその可能性を最大限に生かす考え方が「循環経済」です。資源を使い捨てるのではなく、その価値をできる限り長く利用する仕組みです。循環の輪を業界の垣根を超えて重ねていけば、CO2排出量の継続的な削減にも直結します。これこそ、環境課題の解決と経済成長を両立させる道筋ではないでしょうか。
この発想は、新しいバリューチェーンの創出につながります。例えば、食品業界の副産物を化学産業で活用する、あるいは建設廃材をエネルギー産業で資源化する、といった具合です。異なる業界が連携することで、これまで眠っていた価値が新しい市場を拓く可能性が出て来るのです。
確かに課題は多く、変化は一筋縄ではいかないかもしれません。しかし、危機の陰には必ず機会が潜んでいます。人口減少や気候変動といった難題は、同時に新しいビジネスの呼び水でもあるのです。
AIの可能性を生かす舞台として循環経済を考えるという視点を持つことで、私たちは悲観にとらわれず、前向きに未来をデザインすることができます。日本の強みを生かしながら、世界に先駆けた新しい経済の姿を描く。その挑戦こそが、日本の明日を切り拓く鍵なのです。
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