工期を制する経営
「西田先生、工程管理は簡単じゃないと思いますが、なるほどやりようはあるものですね。」支援先の経営者が改めてそんな感想を示してくれました。まだ正月気分も抜けきらない年明け早々の工程会議で、どうしても1か月ほど工期が足りない案件についての対策をご案内したときのことです。
そもそも、工事における工期とは、施主と業者のあいだで取り決められた約束事にすぎません。ではここで一つ、素朴な問いを投げかけてみたいと思います。だいたい3日あれば終わると思われる仕事があるとき、皆さんなら工期をどのくらいに設定されるでしょうか。
実はこの問いに対する答えは、経験を積めば積むほどしっかりした余裕代を設ける傾向があります。ベテランの管理者ほど、「何が起きるかわからない」という前提に立ち、用心深く時間を見積もります。5日、あるいは6日。もっとも、何事もなければ3日で終わるはずの仕事です。
ところが、無事に3日目で工事が完了したとしても、ベテランになるほど、すぐに施主へ引き渡すようなことはしません。なぜなら、「次からも3日でやってくださいね」と言われてしまうと、せっかく確保した余裕代を自ら手放すことになってしまうからです。検査や養生など、妥当な理由を添えて工期いっぱいで引き渡す。どこでも行われていること、ですが「工期短縮」とは相容れない慣習であることに間違いはありません。
ここにこそ、工程が延びやすくなる構造的な問題が潜んでいます。たまたま予期せぬトラブルが発生して余計な時間を取られてしまうと、その遅れをほかの工程で取り戻すことは、ほとんど期待できません。なぜなら、他の工程を担当する人たちも、同じように余裕を抱え込んでいるからです。
こうして、誰も悪気はないのに、ちょっとしたトラブルによる待機を取り返すこともできないまま、全体として工期はじわじわと伸びていきます。もしそうだとするなら、発想を少し変えてみる余地があるのではないでしょうか。最初から見積もり工期の半分程度で工程表を引き、各工程が抱え込んでいた余裕代を、全体を管理する責任者に預けてしまう。本当にトラブルが発生したときだけ、その余裕代を使う。そうした全体最適の考え方に立てば、結果として工期短縮が実現しやすくなります。
この方法は、クリティカルチェーン・プロジェクトマネジメントと呼ばれる手法で、平成の初め頃に一度脚光を浴びました。新しい理論ではありませんが、「余裕は個別に持たせず、全体で管理する」という基本的な考え方は、今でも十分に通用するものです。
もちろん、この手法を実践するには、それなりの覚悟が必要です。業者さんとの信頼関係に基づく密なコミュニケーションが欠かせませんし、管理者には全体を俯瞰して判断する力量が求められます。形だけを真似してもうまくはいきません。
それでも、遅れがちだった工事の工程管理を「強み」に変えたいと考える経営者の目線に立てば、これほど魅力的な方法論はそう多くないように思います。工程を守る会社ではなく、工程をコントロールできる会社になる。その違いは、やがて価格競争力や信頼性となって、確実に経営に跳ね返ってきます。
工程管理は、現場任せにしておけば何とかなる類の話ではありません。しかし、だからこそ経営者が一歩踏み込んで構造を見直すことで、大きな差別化の余地が生まれます。限られた時間をどう配分し、どこに余裕を持たせるのか。その意思決定こそが、経営者の仕事です。ぜひ皆さんの会社でも、「工期は短縮できないもの」という思い込みを一度疑ってみてください。そこから、新しい強みづくりが始まるはずです。
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