第70号:ホルムズショックでこそ自社を飛躍させる!「攻め」と「守り」の政策・税制6選

昨日、健康食品の素材メーカーを経営している“あるオーナー社長”が私のもとに相談にこられました。
その社長曰く、ホルムズ海峡封鎖問題で、粗原料の価格高騰と納期遅延が深刻で、業績が苦しいとのことでした。
そのオーナー社長曰く、
「同じく苦しんでいる中小企業は多いはず」
「コロナ禍を上回る中小企業支援策が次々と打たれることを期待していた」
「ところが、高市内閣は、何一つこれと言った政策を打ち出さない」
「どうなってるんだ!」とのことでした。
こちらのオーナー社長は、私のところに相談に来られる度に、
「何か良い補助金はないか」が口癖になっている方です。
普段であれば、私は、
「経営資源に制約のある中小企業は、国の施策を探し回る暇があるのであれば、自社の経営力向上にエネルギーをさくべき!」
と言うのですが。
今回のホルムズ海峡封鎖に関わる中小企業の苦境は、
私自身もコロナを超えるものがあることを実感していますので、
こういう時には、中小企業は、
既に、公が打ち出している中小企業支援策を外部環境の一部として整理し、
生き残りにかけて行動すべき時なのです。
ただし、オーナー経営が自らの生き残りにかけて公の施策を活用する際、
一つだけ守らなければならないことがあります。
それは、自社が活かすべき政策は、自社の経営判断に制約を与える政策であってはならないという点です。
自社の経営判断の可能性を広げる政策を選ぶべきなのです。
そこで、今回のコラムでは、
ホルムズショックのようなショック時にこそ活用しうる政策と税制を、
次回のコラムでは、ホルムズショックのようなショック時にこそ活用しうる補助金と助成金を、
次々回のコラムでは、ホルムズショックのようなショック時にこそ活用しうる外部資金呼び込み策について、お伝えして参ります。
ここまで、私は三回にわたり、ホルムズショックをチャンスに変えるオーナー経営について、お伝えして参りました。
第66号では、数字で自社への影響を見極める経営を。
第67号では、供給順位を高める社長直轄の調達を。
第68号では、消費行動の変化を捉えた事業ミックスの転換を。
そして前回の第69号では、そうした自社の方向性を外部の資本へ語れる企業こそが、
危機のときに外部資本を引きつけるということを、お伝えいたしました。
今回からは、その「語れる方向性」を、実際に前へ進めるための「手段」のお話に入って参ります。
ここで、私が長年の現場で確信していることを、一つお伝えします。それは、「国の制度は、経営を“縛る”ために使うのではなく、経営を“広げる”ために使う」ということです。
私のコンサルティングでは、認定を受けるために、
扱う商品、仕入先、販売先、設備、雇用といった経営判断が縛られてしまう制度は、
原則としてお勧めしません。
会社を国の制度に合わせるのではなく、
会社が本来やるべき投資や経営改善に、国の制度を後から重ねる。
この順番こそが、何より大事なのです。
今回ご紹介するのは、①止まらない会社をつくる、②生産性を高める、③人材を守る、④新しい収益源を育てる。
この四つの目的に沿って、会社の可能性を広げる六つの政策・税制です。
1 事業継続力強化計画・中小企業防災・減災投資促進税制
ポストホルムズでは、戦争、物流停止、燃料高、停電、自然災害が、いつ重なってもおかしくありません。
仕入れが止まる。製造が止まる。配送が止まる。そして、一社の停止が、取引先全体の生産を止めてしまうのです。
こういう時代に信用を生むのは、価格の安さではありません。
「非常時にも供給を止めない会社」であることです。
そこで活かしたいのが、中小企業庁の「事業継続力強化計画」です。
災害リスク、初動対応、設備対策、資金調達、復旧手順を計画にまとめ、
経済産業局へ電子申請します。
認定を受ければ、低利融資、信用保証、補助金審査での加点などが受けられる場合があります。
さらに、2027年3月31日までに認定を受け、対象設備を認定後1年以内に取得すれば、
「中小企業防災・減災投資促進税制」により、取得価額の16%を特別償却できます。
例えば1,000万円の自家発電設備なら、通常の償却に加えて160万円を早期に費用化でき、
初期の税負担を後ろへ繰り延べられます。
この制度の本当の価値は、設備を買うことではありません。
「非常時に、誰が、何を、どの順番で動かすか」が明確になることです。
「安い会社」から「止まらない会社」へ。
それが、既存取引の維持にも、新規受注にもつながっていくのです。
2 中小企業経営強化税制
ポストホルムズでは、原材料高、電力高、物流費上昇、そして人手不足が、同時に押し寄せます。
人を増やして売上を伸ばす経営には、もう限界があります。
同じ人数で、より多く、より速く、より高い粗利を生み出す。
この体制づくりが欠かせません。
そこで活かしたいのが、中小企業庁の「中小企業経営強化税制」です。
「経営力向上計画」を作成し主務大臣の認定を受けたうえで、
生産性を高める設備を取得すると、取得価額の全額を初年度に費用化する「即時償却」か、
取得価額の10%の「税額控除」かを選べます(適用期限は2027年3月31日)。
例えば3,000万円の自動包装設備であれば、即時償却なら初年度に3,000万円を費用化。
税額控除を選べば、最大300万円を法人税から直接差し引けます。
大事なことは、これを単なる節税で終わらせないことです。
省人化や自動化で、値上げだけに頼らず原価高を乗り越える会社へ。
それが、この制度の正しい使い方なのです。
3 先端設備等導入計画・固定資産税特例
設備投資は、買って終わりではありません。
減価償却費だけでなく、固定資産税、保守費、電気代が、毎年、確実についてまわります。
だからこそ、値札の金額だけでなく、導入後に毎年出ていくお金まで含めて、
投資を設計しなければなりません。
そこで活かしたいのが、中小企業庁の「先端設備等導入計画」と固定資産税特例です。
労働生産性を年平均3%以上高める計画をつくり、
認定支援機関の確認を経て、必ず市町村の認定を受けてから設備を取得します。
賃上げの表明に応じて、固定資産税の課税標準が、3年間2分の1、
または5年間4分の1に軽減されます(対象設備や地域は市町村により異なります)。
例えば評価額1,500万円・税率1.4%なら、2分の1で3年間およそ31万円、4分の1が5年間続けば、単純計算でおよそ78万円を抑えられます。
一台ずつ、投資効果を確かめながら、競争力を高められる。
大きな一括投資が難しい中小企業にこそ、ふさわしい制度なのです。
4 中小企業向け賃上げ促進税制
燃料費も、電気代も、食料品も上がります。
その痛みは、まず従業員の暮らしを直撃します。
賃金を上げられない会社から、人は離れます。
人が離れた会社は、受注があっても、物をつくれず、サービスも出せなくなるのです。
そこで活かしたいのが、中小企業庁の「中小企業向け賃上げ促進税制」です。
前年度より給与総額を増やせば、その増加額の一定割合を、法人税から控除できます。
事前の申請ではなく、申告のときに明細書を提出する仕組みです。
ただし、2026年4月以降に始まる事業年度は改正後の制度が適用され、
教育訓練費による上乗せは廃止されました。
決算期に応じて、その年度のガイドブックを必ずご確認ください。
例えば給与総額を1,000万円増やし、控除率が30%なら、300万円の控除。
賃上げの実質負担は、700万円まで軽くなります。
大事なことなので申し上げます。
賃上げは、利益の流出ではありません。
人材の流出を防ぎ、生産能力を守るための「投資」です。
賃上げできる会社こそ、回復局面で、いち早く受注を取り込める会社になるのです。
5 オープンイノベーション促進税制
ポストホルムズでは、物流網も、エネルギーも、原材料も、販売先も、短い間に大きく姿を変えます。
既存事業を続けるだけでも、物流DX、省エネ技術、代替素材、AI活用への対応が欠かせません。
しかし、それを全て自社だけで開発していては、時間も資金も、とても足りません。
そこで活かしたいのが、経済産業省の「オープンイノベーション促進税制」です。
要件を満たす国内スタートアップへ新規出資し、共同研究や販路開拓などの協業を行うと、
取得株式価額の25%を所得控除できます(中小企業は原則1件1,000万円以上)。
例えば物流DX企業へ1,000万円を出資すれば、250万円が所得控除。
実効税率30%なら約75万円の税負担軽減となり、
さらにAI配車で物流費を年300万円削減できれば、
初年度だけで約375万円の効果になります。
これは、新しい事業を始めるための制度ではありません。
「今ある本業」を、社外の技術・人材・販路を取り込んで強くするための制度なのです。
6 エンジェル税制
最後に、私が、オーナー経営者に最もお伝えしたい制度です。
ポストホルムズでは、燃料高、物流混乱、原材料高により、既存事業「一本足」の会社ほど、利益が大きく揺さぶられます。
本業をどれだけ磨いても、それだけでは守り切れない場面が、必ずやってきます。
そこで活かしたいのが、経済産業省の「エンジェル税制」です。
要件を満たすエンジェル税制認定企業へ個人投資家が出資すると、
優遇措置Aでは「投資額−2,000円」を総所得から控除でき、
優遇措置Bやプレシード・シード特例では、株式譲渡益から投資額を控除できます。
例えば、本業がホルムズショックで営業利益1,000万円を失っても、
別会社で粗利率30%の新規事業を年商5,000万円まで育てれば、
粗利1,500万円という、新しい利益の柱が立ちます。
オープンイノベーション促進税制が「既存事業を強くする制度」であるのに対し、
エンジェル税制は「新しい事業を創り、事業ミックスを築く制度」です。
オーナー家の資産を一社に集中させず、会社と資産を同時に守るセーフティーネット。
そして、これまで私が繰り返しお伝えしてきた、永続不滅のファミリービジネス群を構築する、その土台となる制度なのです。
ポストホルムズでは、これまでと同じ事業を、同じ設備、同じ人員、同じ仕入先、同じ資金構成で続けるだけでは、利益を守れません。
かといって、国の制度を使うために、経営方針そのものを曲げては、本末転倒です。
先に、やるべき経営判断を決める。
そのうえで、設備を入れるなら税負担を減らす制度を。
賃上げをするなら税額控除を。
新しい技術が要るなら外部企業と組む制度を。
新規事業を育てるなら、エンジェル税制認定企業を。
こう選んでいくのです。
制度に会社を合わせるのではなく、会社の可能性を広げるために制度を使う。
これこそが、ホルムズショックを経営改善と事業再編の契機に変える、政策・税制活用の基本なのです。
今回ご紹介した六つの政策・税制のうち、あなたの会社では、いくつ活用できそうでしょうか。
「これらの制度があること」は、多くのオーナー社長が知っていることと存じます。
しかし、「自社の外部環境」「自社の経営指針」を見据え、その目的に合わせて制度を選んでいる会社は、決して多くありません。
だからこそ、ホルムズショックのような大きな外部環境の変化が起こりますと、
こうした制度を外部環境の一つとして活かせるか否かが、
その差は、このようなショック時の後にこそ、大きく開いていくのです。
自社の経営判断の自由度を広げる制度を選び、制度を経営戦略の実現手段として活用する。これこそが、ポストショックを勝ち抜くオーナー経営者の考え方なのです。
なお、本コラムの内容や、自社におけるポストホルムズへの対応策、エンジェル税制認定企業を活用したポストホルムズの事業戦略について、さらに詳しくお知りになりたい方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。
▶ https://www.mku-consulting.com/maximuminc/
一人でも多くのオーナー経営者が、ポストホルムズを単なる逆風で終わらせることなく、
自社の経営判断の自由度を広げる制度を選び、制度を経営戦略の実現手段として活用し、
永続不滅のファミリービジネス群の構築を実現されることを、心より願っております。
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