第69号:ポストホルムズ時代の資本戦略~危機を成長に変え、外部資本を集める企業とは~

先週初め、以前から経営支援をしている建設業のオーナー社長から一本の相談を受けました。
数日後に控えた取引金融機関5行への経営改善計画説明会(バンクミーティング)を前に、
「どのように説明すれば金融機関の理解を得られるだろうか」という相談でした。
話を伺いますと、今期の建設事業の受注見込みは、
当初計画の約3分の1まで落ち込んでいるとのことでした。
背景には、ホルムズ海峡を巡る緊張を契機とした資材不足、建設資材価格の高騰、
そして工事発注そのものの先送りがありました。
一方で、今年度まで赤字だった新規事業(エンジェル税制認定企業)は、
来期には黒字化する見込みとなっています。
つまり、「本業は外部環境の悪化で一時的に低迷する。しかし、これまで育成してきた新規事業が利益を生み、本業を支える。」
という経営シナリオです。
しかし、新規事業に対する金融機関の評価は一般的に慎重です。
「本当に黒字化するのか。」
「その利益計画に根拠はあるのか。」
この点をどのように説明すればよいのか、社長は大変悩まれていました。
そこで私は、まず金融機関へ説明すべきことは、
「ホルムズ問題を自社としてどのように分析しているか」であるとお伝えしました。
単に「資材が高い」「受注が減った」と説明するだけでは十分ではありません。
世界で何が起き、その結果、自社にどのような影響が及び、
その中でどのような経営判断を行い、どこへ向かおうとしているのか。
これを論理的に説明できる企業ほど、金融機関からの信頼は高まります。
そこで今回は、このオーナー社長と同様の境遇に置かれているオーナー社長に向けて、
ポストホルムズ時代の近未来について、
世界のデータを基に整理してみたいと思います。
① ホルムズ海峡交渉の現状
ホルムズ海峡を巡る問題は、単なる停戦協議ではありません。
世界は今、世界のエネルギー動脈を誰が管理するのかという、
新しい国際ルール作りへと移っています。
発端は、2026年6月、イスラエルによるイラン関連施設への攻撃と、
それに対するイランの報復でした。
その後、米国も軍事行動に参加し、中東情勢は一気に緊迫しました。
世界市場では、「ホルムズ海峡が封鎖されるのではないか」という懸念が広がり、
原油価格、海上保険料、タンカー運賃が急騰しました。
その後、米国の仲介により約60日間の暫定的な緊張緩和期間が設けられ、
現在は交渉が続いています。
しかし、この交渉の本質は停戦ではありません。
米国は、「ホルムズ海峡は世界共通の国際水路であり、自由航行が保障されるべき」
と主張しています。
一方、イランは、「海峡管理権」「船舶の通航規制権」「通行料・サービス料徴収権」
まで国際的に認めるよう求めています。
イスラエルは、「イランの核開発、ミサイル開発、親イラン武装勢力への支援停止」
を安全保障上の最低条件と考えています。
現在も一定の通航は回復していますが、根本的な対立は何一つ解決していません。
つまり、「停戦」と「正常化」は全く別問題なのです。
② 正常化への課題と米国・イラン双方の思惑
正常化には、「通航安全」「機雷除去」「護衛体制」「戦争保険」「通行料」
これらを一体で解決する必要があります。
米国は自由航行を主張していますが、
その安全保障コストを利用国へ負担させる方向になれば、
日本や韓国、欧州企業の物流コストは上昇します。
一方、イランにとって通行料徴収は魅力的な外貨獲得策です。
しかし、これは関税と全く同じ構造です。
価格へ転嫁されれば、ホルムズ海峡を通る原油・LNGは世界市場で競争力を失います。
企業は当然、
「米国産原油」「豪州LNG」「アフリカ資源」「代替原料へ調達先を切り替え」
を始めます。
通行料はイランにとって短期的には収入になりますが、
長期的にはホルムズ海峡そのものの競争力を低下させる可能性があります。
これは、トランプ関税によって米国内の物価が上昇し、
一部製造業の競争力が低下した構図とも重なります。
国家も企業も、「価格を上げれば利用者は離れる」という経済原理から逃れることはできません。
③ 米国・イランの要求が通った場合の日本・中小企業への影響
米国の要求が通り、米国主導の護衛・監視体制が強化されれば、
ホルムズ海峡の通航安全は高まる一方、
その費用は同盟国負担や海上保険料、運賃として価格へ転嫁される可能性があります。
一方、イランの要求が通り、通行料・サービス料が恒常化すれば、
価格転嫁への影響はさらに直接的です。
日本は原油輸入の約96%を中東に依存しています。
ホルムズ由来のコストが上昇すれば、原油だけでなく、
LNG、ナフサ、樹脂、包装資材、物流費、さらには電力料金まで幅広く影響が及びます。
特に中小企業は、大企業と比較して価格転嫁力が弱く、
原材料価格の上昇を販売価格へ十分に反映できないケースが少なくありません。
しかし、その一方で、ホルムズショックは世界中の企業に
「ホルムズ海峡を通らない調達」という新たな経営判断の背中を押しました。
米国産・豪州産原油への切替、代替航路の確保、代替原料への転換、再生材の活用などが急速に進み始めています。
つまり、中小企業経営者が見るべきものは、一時的な原材料価格ではありません。
ホルムズショック後も続く調達構造の変化を前提に、
自社の仕入戦略そのものを見直すことが重要なのです。
④ 日本における脱ホルムズの進展
日本にとってホルムズショックは、原油価格の問題ではなく、調達構造そのものの問題です。
日本の原油輸入に占める中東依存度は2024年度で約95%と極めて高く、
LNGやナフサなど石油化学原料についても同様の地政学リスクを抱えています。
こうした中、日本では脱ホルムズに向けた動きが急速に進み始めています。
第一に、米国、豪州、アゼルバイジャンなどからの原油調達多角化です。
第二に、バイオナフサ、廃食油、植物由来原料、熱分解油など、ナフサ代替原料への転換です。
そして第三に、日本が世界に誇る国内資源である石灰石の活用です。
石灰石は日本国内でほぼ100%自給できる数少ない鉱物資源であり、
近年では石灰石由来素材を活用した新素材が実用化され、
石油由来樹脂の使用量削減が進んでいます。
さらに、日本政府は2030年までに、ワンウェイプラスチック25%排出抑制、
容器包装の約60%をリユース・リサイクル、バイオプラスチック約200万トン導入を目標として掲げています。
これからの中小企業経営者は、「原油価格が下がるのを待つ」のではなく、
代替原料の普及を前提とした商品設計や仕入戦略を考える時代に入ったと言えるでしょう。
⑤ 世界各国における脱ホルムズの進展
脱ホルムズは、日本だけの動きではありません。
欧州では、石油依存からの脱却を目指し、
サーキュラーエコノミー(循環経済)政策が加速しています。
世界のバイオプラスチック生産能力は2030年までに現在の約2倍へ拡大すると予測される一方、
世界全体のプラスチック生産量に占める割合は依然として1%未満です。
また、OECDによれば、世界のプラスチック生産量は年間約4億6千万トンに達する一方、
リサイクル率は約9%にとどまっています。
しかし、各国の政策強化により、
2060年にはリサイクル率が約60%まで向上するシナリオも示されています。
米国ではシェール革命によるエネルギー自給率向上、
中国では資源調達先の世界分散、欧州では再生原料利用の義務化など、
それぞれ異なるアプローチで「脱ホルムズ」が進んでいます。
世界は今、「原油を取り合う競争」から、
「原油に依存しない競争」へと大きく舵を切ろうとしているのです。
⑥ 原油・ナフサ・原油由来原料の回復見通し
原油価格は最悪期を脱しつつあります。
しかし、原材料価格がすぐに下がるとは限りません。
原油価格が下落しても、
ナフサ、樹脂、包装材、物流費には、在庫、長期契約、海上保険料、為替など
様々な要因が残ります。
また、粗原料由来物質の価格は、基本的に右肩上がりで、「上方硬直性」があると言えます。
価格下落には半年位を要すると思われますが、その下げ幅は限定的なものとなるでしょう。
ただ、2026年暮れから2027年頭にかけては、
その影響は一部であったとしても、値戻しのための価格交渉は絶対に行うべきです。
一方で、今回のホルムズショックは、
供給ルートの世界分散、代替原料、リサイクル原料への投資を大きく加速させました。
第二次世界大戦後、「アメリカ覇権時代」のもと、とりわけ1947年のGATT発足以降、
米国主導の自由貿易体制は世界の物価上昇を抑え、国際競争を促進してきました。
一方、1973年の第一次オイルショック以降は、中東原油への高い依存を背景に、原油価格が世界経済や物価に大きな影響を与え続けてきました。
しかし、ポストホルムズ時代は、この「原油覇権時代」の構造を変える転換点になる可能性があります。
石灰石、バイオ原料、再生プラスチック、植物由来原料など、
多様な原料が競争する社会となれば、供給リスクは分散され、
長期的には原材料価格の安定化につながる可能性があります。
中小企業経営者は、「原油価格が下がるか」ではなく、「どの原料を選択するか」が、
自社の収益性を左右する時代へ移りつつあることを理解する必要があります。
このように、ショック時において、
金融機関をはじめ、外部の資金調達を円滑にするためには、
ショック自体が自社にどのような影響を及ぼすか、そのような中、
自社はどこに向かっていくべきなのかを客観的に整理できていることを示せることが何より重要なのです。
そして、こちらの企業の事例のように、
エンジェル税制認定企業を活かした事業構築こそが、
このようなショックにこそ強い事業体質を築きうるのです。
エンジェル税制認定企業の事業運営ならではのエッセンスが、
ショックにこそ本業を支えうる力となるのです。
なお、本コラムでお伝えした内容について、
さらに詳しく知りたい方は、ぜひ下記よりお問い合わせください。
▶ https://www.mku-consulting.com/maximuminc/
一人でも多くのオーナー社長が、ホルムズショックという危機を糧に、
外部の資金基盤を盤石なものとすることで、
永続不滅のファミリービジネス群構築を実現されますことを、心より願っております。
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