国際取引|商品・サービスを相手が使える状態まで、どう届けるか
「商品は現地に到着しています。でも、通関できません」
「ソフトウェアのアカウントは発行しました。でも、現地の担当者が使えません」
「研修は実施しました。でも、実際の業務に定着していません」
国際取引では、商品を発送したり、データを送信したり、サービスを実施したりするだけで、提供が完了するとは限りません。
商品が相手国へ到着する
必要な手続きを終える
相手が受け取る
導入や設定を行う
実際の業務で利用する
ここまで進んで、提供した商品やサービスが相手の現場で機能し始めます。
海外への提供を考えるとき、企業はどうしても、
どの運送会社を使うか
どのくらいの運賃がかかるか
どの方法でデータを送るか
誰が現地へ出張するか
といった手段から考えがちです。
しかし、先に整理すべきなのは、相手へ何を届け、どの状態まで整えれば提供が完了するのかという取引全体の姿です。
国際取引における「届ける」とは、商品やサービスを相手へ渡すだけではありません。
相手が受け取り、導入し、実際に利用できる状態までをつくる〈構造設計〉です。

商品・サービス・ソフトウェアでは、届け方が異なる
国際取引で提供するものは、大きく三つに分けて考えることができます。
商品を届ける
商品取引では、製品そのものだけでなく、輸送、通関、保管、現地配送なども提供体制の一部になります。
どの輸送方法を使うのか
どのような梱包が必要なのか
温度や湿度を管理する必要があるのか
誰が輸出入の手続きを行うのか
どこで相手へ引き渡すのか
据付けや試運転が必要なのか
商品が相手国へ着いても、通関できなければ利用できません。
倉庫へ納品されても、設置場所まで運べなければ稼働しません。
機械本体を納品しても、必要な部品、取扱説明書、電源、設定作業がそろわなければ、相手は使用できません。
サービスを届ける
設計、教育、保守、調査、技術支援などのサービスでは、商品とは異なる設計が必要です。
誰が業務を担当するのか
どこで実施するのか
オンラインか、現地訪問か
どの言語で提供するのか
どのような成果物を提出するのか
相手の協力として何が必要なのか
何をもって業務完了とするのか
サービスは形が見えにくいため、提供範囲と完了条件を明確にしなければ、双方の認識がずれやすくなります。
「必要な支援を行う」
「十分な説明をする」
「導入をサポートする」
こうした表現だけでは、どこまで対応すれば業務が完了するのか判断できません。
実施回数、担当者、期間、成果物、対応時間などへ具体化する必要があります。
ソフトウェアを届ける
ソフトウェアやデジタル分野では、物理的な輸送が発生しない場合もあります。
しかし、データを送信したり、アカウントを発行したりするだけで、相手が利用できるとは限りません。
利用できる端末や通信環境は整っているか
現地の言語へ対応しているか
利用者ごとの権限を設定できるか
既存のシステムと連携できるか
必要なデータを移行できるか
操作方法を説明する必要があるか
障害が発生した場合、誰が対応するのか
買い切り型のソフトウェアであれば、インストール、ライセンス認証、対応機器、更新方法などを確認します。
クラウド型のサービスであれば、アカウント発行、アクセス権限、データ保存、利用地域、保守、契約終了時のデータ返却なども検討します。
個人情報や機密情報を扱う場合には、データの保存場所、アクセスできる人、外部委託先、適用される法令や規制についても確認が必要です。
商品とサービスが一体となる取引も多い
実際の国際取引では、商品、ソフトウェア、サービスを明確に分けられないこともあります。
機械を輸送する
現地で据え付ける
ソフトウェアを設定する
操作方法を教える
導入後の保守を行う
このような取引では、商品が到着しただけでは提供が完了しません。
据付け、設定、試運転、研修、検収までを一つの流れとして設計する必要があります。
商品だけを担当する企業
ソフトウェアを担当する企業
現地で設置する事業者
顧客側の担当者
複数の関係者が動く場合には、役割の抜けや重複も起こりやすくなります。
誰が、どの工程を、どの期限までに担当するのか。
取引開始前に全体を整理しておくことが重要です。
「発送完了」と「提供完了」を分けて考える
商品取引では、輸出者が商品を発送した時点を一つの区切りとすることがあります。
しかし、発送した時点と、相手が使用できる時点は同じではありません。
工場から出荷した
港や空港へ搬入した
船や航空機へ積み込んだ
相手国へ到着した
輸入通関を終えた
相手の施設へ納品した
据付けと試運転を終えた
どの時点を提供完了とするのかによって、費用負担、危険負担、請求時期、検収方法が変わります。
サービスやソフトウェアでも同様です。
契約を締結した
業務を開始した
成果物を提出した
アカウントを発行した
システムを稼働させた
利用者研修を終えた
相手が検収した
工程ごとに意味が異なります。
取引上の引渡しと、相手が実際に利用できる状態を分けて整理する必要があります。
誰が、どこまで担当するのか
国際取引では、一つの商品やサービスを相手へ届けるまでに、多くの関係者が関わります。
輸出者
輸入者
フォワーダー(国際物流業者)
通関業者
倉庫会社
販売代理店
現地設置業者
ソフトウェア事業者
クラウド事業者
翻訳者
研修担当者
顧客側の担当者
関係者が多いほど、「誰かが対応するだろう」という空白が生まれやすくなります。
誰が輸送を手配するのか
誰が輸出入書類を準備するのか
誰が関税や現地費用を負担するのか
誰が設置場所を準備するのか
誰が利用者のアカウントを申請するのか
誰が検収を行うのか
誰が最終的な判断を行うのか
契約書や役割表などで明確にします。
フォワーダーや現地代理店へ業務を依頼しても、取引全体の責任まで自動的に移るわけではありません。
外部事業者へ任せる範囲と、自社が確認する範囲を分けておく必要があります。
相手側の受入条件も確認する
提供する側の準備が整っていても、相手側の受入体制が整っていなければ、商品やサービスは機能しません。
商品を置く倉庫がない
搬入口の大きさが合わない
必要な電源設備がない
インターネット環境が不足している
利用者の端末が対応していない
現地担当者が決まっていない
必要な資料やデータが提供されない
こうした問題は、納品や導入の直前に発覚することがあります。
取引開始前に、
必要な設備
利用環境
担当者
提出資料
社内承認
現地の許認可
導入スケジュール
を双方で確認します。
相手側が準備すべき事項についても、期限と責任者を決めておくことが重要です。
運賃や利用料だけで、総費用を判断しない
物の輸送では、運賃の安さだけで方法を決めると、想定外の費用が発生することがあります。
梱包費
港湾費用
通関費用
保管料
検査費用
国内配送費
荷役費用
再配達費用
遅延による追加費用
サービスやソフトウェアでも、提示された基本料金だけで総費用を判断することはできません。
渡航費
通訳・翻訳費
現地協力者への費用
設定費
データ移行費
他システムとの連携費
研修費
追加アカウント費
クラウド利用料
保守・更新費
追加対応費
商品価格やサービス料金が安くても、導入や運用に多くの費用がかかれば、取引全体の採算は変わります。
提供に必要な総費用を、取引開始前に見える化する必要があります。
納期は、輸送時間だけで決まらない
海外へ商品を届ける場合、船や航空機の移動時間だけを見て納期を決めることはできません。
生産期間
梱包期間
国内輸送
輸出手続き
船積みや航空便の待機
海外輸送
輸入通関
検査
現地配送
すべてを含めて考える必要があります。
サービスやソフトウェアでも、
契約手続き
必要資料の受領
要件確認
翻訳
設定
データ移行
テスト
利用者研修
検収
などに時間がかかります。
相手国の祝日、繁忙期、港湾の混雑、担当者の休暇、社内承認の遅れなども影響します。
納期には一定の余裕を持たせ、遅延が発生した場合の連絡方法や対応も決めておきます。
検収条件を、提供前に決める
商品やサービスを提供した後、何をもって相手が受領したと判断するのかも重要です。
数量が合っている
外観に問題がない
仕様どおりに動作する
必要な機能が利用できる
成果物が合意内容を満たしている
研修が予定どおり実施された
検収条件が曖昧であれば、提供が完了しているにもかかわらず、相手の確認が終わらず、請求や入金が遅れる場合があります。
誰が検収するのか
何を確認するのか
何日以内に確認するのか
問題がある場合、どのように通知するのか
修正や再提供をどこまで行うのか
契約や仕様書、導入計画などへ具体的に記載します。
提供後の支援まで設計する
商品やサービスは、導入した直後から問題なく利用できるとは限りません。
商品が破損する
部品が不足する
機械が正常に動かない
ソフトウェアへ接続できない
利用者が操作方法を理解できない
現地の業務と合わない
成果物の修正が必要になる
こうした問題へ誰が対応するのかを、事前に決めておきます。
保証期間
交換や修理の条件
予備部品の供給
問い合わせ方法
対応する曜日と時間
利用できる言語
障害発生時の連絡先
問題を上位担当者へ引き上げる手順
更新や保守の費用
ソフトウェアでは、障害対応だけでなく、バージョン更新、セキュリティ対応、バックアップ、契約終了後のデータ処理なども検討します。
サービスでは、追加質問、修正対応、継続支援が当初料金に含まれるのかを明確にします。
提供後の対応を曖昧にすると、無償作業や追加費用をめぐる問題が起こりやすくなります。
問題が起きた場合の代替策を準備する
国際取引では、当初の計画どおりに進まないこともあります。
輸送が遅れる
貨物が破損する
通関で止まる
必要書類に不備がある
現地担当者が不在になる
システム障害が発生する
データ移行に失敗する
利用者が予定どおり研修へ参加できない
問題が起きてから対応を考えるのではなく、代替策を準備しておきます。
別の輸送経路を検討する
緊急時は航空便へ切り替える
予備部品を現地に保管する
データのバックアップを取る
以前の状態へ戻せるようにする
別の担当者でも対応できるようにする
現地の支援事業者を確保する
必要な保険へ加入する
すべての問題を防ぐことはできません。
しかし、問題が起きたときに誰が判断し、どのように事業を継続するのかは、事前に設計できます。
関係する文書を一致させる
商品やサービスを相手へ届ける取引では、複数の文書が使われます。
契約書
見積書
注文書
仕様書
梱包指示書
輸送書類
導入計画書
業務範囲記述書
操作マニュアル
検収基準
保守条件
サービス水準に関する合意書
電子メール
契約書には据付けまで含まれているのに、見積書には輸送費しか記載されていない。
提案書では研修を行うことになっているのに、契約書では回数や実施方法が決まっていない。
こうした不一致があると、追加費用や責任範囲をめぐる問題が起こります。
関係する文書を連動させ、どの文書を優先するのかも確認しておく必要があります。
相手が利用できる状態までを、取引として設計する
国際取引で重要なのは、商品やサービスを相手へ送ることだけではありません。
商品を輸送する
通関する
現地へ納品する
設置する
ソフトウェアを設定する
利用方法を説明する
検収を受ける
導入後の問題へ対応する
一連の流れを、取引全体として設計する必要があります。
何を届けるのか。
どの状態を提供完了とするのか。
誰が、どこまで担当するのか。
相手側に、どのような準備を求めるのか。
導入後の問題へ、どのように対応するのか。
商品を発送した時点でも、アカウントを発行した時点でも、取引が完了するとは限りません。
商品やサービスが相手の現場で利用され、合意した価値を発揮できる状態までを設計する。
国際取引には、提供する価値を相手の利用へつなげる〈構造設計〉が必要です。
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