損益計算書や貸借対照表とおなじように
「西田先生、それは面白そうな話ですね。」
企画関係のオンライン会議で、とある事例をお伝えしたとき、画面の向こうで話に聞き入っていた自治体の関係者が思わず口にしたコトバです。
お話の趣旨をかいつまんで言うと、経営診断で損益計算書や貸借対照表があるように、環境診断ではライフサイクルアセスメントという手法があって、それを細かく分析すると、廃棄物のゆくえや利用されていない資源の存在などが見えてくる、というような事例だったのです。実際にその会社は利用されていない資源を活用できる技術的な目途が立ち、現在実証プラントの建設に入っている、というお話です。
最近は気候変動対策でうるさく言われたことが影響してか、ライフサイクルアセスメント(LCA)というと「ああ、CO₂排出量の算定ね。」と言われてしまうことが多くなりました。一昔前まで「それ、何ですか?」という反応が普通だった時代に比べるとだいぶマシになったのですが、でも同時に「LCAはCO₂だけじゃないんだよなあ」、と思ってしまうのです。
LCAとは、製品やサービスが原材料の調達から製造、流通、使用、廃棄・リサイクルに至るまで、ライフサイクル全体で環境へどのような影響を与えているかを定量的に評価する手法です。その評価対象は温室効果ガスだけではありません。
例えば、大気汚染や水質汚濁、資源の消費、生物多様性への影響なども評価対象になります。最近では、資源循環の観点から循環経済への貢献度を定量的に評価したり、自然資本への影響を数値化したりする場面でもLCAの考え方が活用されるようになってきました。
日本ではLIME(Life-cycle Impact assessment Method based on Endpoint modeling)という環境影響評価手法が開発され、その最新版であるLIME3では、気候変動だけでなく、生物多様性や資源消費、水利用など様々な環境影響を統合的に評価できるようになっています。環境負荷を単なる「見える化」にとどめず、社会全体への影響まで含めて比較できる点が大きな特徴です。
こうした分析を行うと、企業の現場では思いもよらない発見があります。
ある工程で廃棄物だと思っていたものが、実は大きな環境負荷を伴って処分されていることが分かったり、逆に少し手を加えるだけで有価物として利用できる可能性が見えてきたりするのです。経営者が日頃見ている財務データだけでは見つけられない「埋もれた価値」が、環境という切り口から浮かび上がってきます。
私はLCAを「環境版の経営診断」と考えています。財務分析が利益を生み出す改善点を探すためのものであるように、LCAは環境負荷を分析することで、新しい技術開発や新規事業のヒントを与えてくれるツールなのです。
このような特性を生かして、たとえば廃棄物として捨てられているものから価値あるものを取り出す、といった取り組みがなされれば、それは企業にとっても新たな事業機会となるわけです。環境負荷を下げることと収益機会を増やすことは、本来対立するものではなく、むしろ同じ方向を向くことが少なくありません。
LCAという言葉は、今後ますます多くの場面で耳にするようになるでしょう。そのとき、「CO₂排出量を計算するための手法」という理解だけにとどまってしまうのは少々もったいないように思います。LCAの本当の価値は、企業活動全体を環境という視点から見つめ直し、新たな強みや新しいビジネスの可能性を発見するところにあります。
LCAが本来持っている幅広い可能性について正しい理解が広まり、環境対策だけでなく、企業の成長戦略や新たな価値創造にも積極的に活用されるようになることを、私は心から期待しています。
コラムの更新をお知らせします!
コラムはいかがでしたか? 下記よりメールアドレスをご登録いただくと、更新時にご案内をお届けします(解除は随時可能です)。ぜひ、ご登録ください。

