海外進出|訪日客の購買から、次に攻める市場を選ぶ
ある食品メーカーを訪問したとき、担当者がうれしそうに話してくれました。
「最近、この商品を店舗で外国人のお客様がよく買っていくんです」
私は尋ねました。
「どこの国の方が多いのですか?」
「台湾や香港、オーストラリアの方が多いですね」
「では、台湾へ輸出すれば売れそうですか?」
担当者は少し考えます。
「……そこまでは、まだ分かりません」
「何を気に入って買っているのでしょう?」
「味だと思います」
「価格でしょうか。パッケージでしょうか。日本らしさでしょうか。それとも、日本旅行のお土産だからでしょうか?」
「そこまでは聞いていません」
外国人客に商品が売れた。
これは、海外進出を考える企業にとって重要な手掛かりです。
日本を訪れ、日本の食や文化、商品、サービスに触れたいと考える人は大勢います。
日本をもっと知りたい
日本の商品を試してみたい
日本の人と交流したい
帰国してからも日本とつながっていたい
インバウンド需要を、一時的な観光需要として見るだけではもったいありません。
海外市場の一部は、すでに日本まで来ています。
しかし、
「訪日客に売れた」と「海外市場で事業が成立する」は同じではありません。
重要なのは、その売上を喜んで終わることではなく、
誰が、何に価値を感じ、どの市場でなら再現できるのかを読むことです。

「売れた国」と「進出すべき市場」は同じではない
台湾からの旅行者によく売れている。
だから台湾へ進出する。
一見、自然な判断に見えます。
しかし、訪日中の購買には、旅行という特殊な条件があります。
日本に来た記念として買ったのか
家族への土産として買ったのか
日本でしか買えないから買ったのか
価格に魅力を感じたのか
商品そのものを気に入り、帰国後も使いたいのか
理由によって、海外事業としての可能性は大きく変わります。
ですから、訪日客の購買は「進出先を決める答え」ではありません。
次にどの市場を検証するかを決めるための仮説です。
海外進出の〈市場戦略〉では、最初から国を決める必要はありません。
顧客の行動を見て、次に確かめるべき市場を選ぶ
ところから始めます。
商品ではなく、「何に対価を払ったのか」を見る
次に見るのは、商品そのものではありません。
顧客が何に価値を感じて、お金を払ったのか。
ここです。
食品なら、
味なのか
原材料なのか
健康価値なのか
日本らしさなのか
パッケージなのか
持ち運びやすさなのか
企業が考えている商品の強みと、海外顧客が評価している価値は同じとは限りません。
日本では「高級感」を売りにしている商品が、訪日客からは「小分けで使いやすい」と評価されるかもしれません。
企業がほとんど意識していなかった包装やデザイン、会社の歴史が、海外顧客には強い魅力として映ることもあります。
逆に、日本企業が一生懸命説明している特徴には、ほとんど反応がないこともあります。
自社が売りたい価値ではなく、顧客が買いたい価値を見る。
ここから〈価値戦略〉が始まります。
日本で選ばれた価値は、現地でも再現できるか
訪日客に評価された。
次に考えるのは、
その価値が、海外でも再現できるか
です。
日本旅行中に1,500円で買われた商品が、現地でも1,500円とは限りません。
海外へ出せば、
輸送費
関税や税金
輸入者のマージン
卸・小売のマージン
販促費
などが加わります。
日本では1,500円の商品が、現地では2,500円、3,000円になる可能性があります。
その価格になっても、顧客は同じ価値を感じるのか。
商品そのものだけではなく、
価格
流通
販売場所
説明方法
ブランドの見せ方
まで変わります。
だから、
「日本で売れた価値を、そのまま海外へ持っていけるのか」
を確かめます。
海外進出とは、商品をそのまま国外へ運ぶことではありません。
顧客が感じた価値を、別の市場でも成立させる構造をつくることです。
海外へ出たあと、誰が顧客を持つのか
市場の可能性が見えてくると、次に販売先や代理店を探したくなります。
ここで重要な判断があります。
海外へ出たあと、顧客との接点を誰が持つのか。
代理店が販売する
現地小売店が販売する
オンラインで直接販売する
自社拠点から販売する
どの方法を選ぶかによって、自社に残るものが変わります。
売上だけが入り、
最終顧客が誰か分からない
顧客の声が届かない
価格を決められない
購買データを持てない
という構造になれば、販売量が増えても市場との距離は遠くなります。
訪日客の段階では、自社の目の前にいた顧客が、海外へ進出した途端に見えなくなる。
これは避けたいところです。
海外進出では、「誰に売るか」と同時に、「顧客・情報・価格への主導権をどこに残すか」を決めます。
販売を任せることと、市場まで相手に預けることは同じではありません。
訪日客の反応を、そのまま投資判断にしない
訪日客から反応がある。
狙う市場が見えてきた。
代理店候補も現れた。
ここまで来ると、一気に進めたくなります。
大量に商品を送る
現地広告を始める
独占契約を結ぶ
人を採用する
倉庫を持つ
現地法人を設立する
しかし、その前に確認します。
市場は本当に十分な大きさなのか
現地価格でも需要があるのか
価値は再現できるのか
組む相手は信頼できるのか
自社に主導権が残るのか
訪日客から得た手応えは、投資を急ぐ理由ではありません。
次に何を確かめるべきかを教えてくれる情報です。
市場の不確実性が減り、事業の構造が見えたところへ資源を集中します。
訪日客との接点を、海外事業の構造へつなげる
訪日客に商品が売れた。
そこで終わらせず、次の判断へつなげます。
誰が買ったのか
↓
何に価値を感じたのか
↓
どの市場で再現できるのか
↓
誰と組むのか
↓
どこに主導権を残すのか
↓
何が確認できたら投資するのか
この順番で考えると、訪日客との接点は単なる国内売上ではなくなります。
市場戦略になる
価値戦略になる
主導権戦略になる
信頼戦略になる
投資戦略につながる
インバウンドとアウトバウンドを、別々の事業として考える必要もありません。
日本国内で生まれた海外顧客との接点を、次の海外事業へどうつなぐか。
そこまで設計して初めて、一つの戦略になります。
海外市場は、すでに日本に来ている
海外進出というと、まず海外へ行くことを考えます。
しかし、日本ともっと関わりたい、日本をもっと知りたい、日本の商品やサービスに触れたいと考える海外の人々は、すでに日本を訪れています。
彼らが、
何を手に取り
何を選び
何に価値を感じ
いくら払い
帰国後も何を求めるのか
そこには、次の海外市場を考えるための情報があります。
ただし、
「外国人に売れたから、その国へ進出する」
ではありません。
顧客の行動から価値を読む。
価値が再現できる市場を選ぶ。
誰と組むかを決める。
顧客との接点と主導権を設計する。
そして、確信が高まったところへ資源を集中する。
海外市場は、すでに日本に来ています。
重要なのは、その需要を一度の国内売上で終わらせるのか、次の市場・価値・主導権・投資を決める戦略情報へ変えるのかです。
海外進出における〈市場戦略〉は、国を先に決めることから始まりません。
顧客の行動から価値を読み、勝負する市場を選び、その市場で主導権を持てる「構造」をつくることから始まるのです。
コラムの更新をお知らせします!
コラムはいかがでしたか? 下記よりメールアドレスをご登録いただくと、更新時にご案内をお届けします(解除は随時可能です)。ぜひ、ご登録ください。

