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増幅される日本人の「偏向性」

SPECIAL

住宅・工務店コンサルタント

株式会社 家づくりの玉手箱

代表取締役 

住宅・工務店コンサルタント 。規格住宅を高付加価値化させ、選ばれる工務店となる独自の展開手法「シンボルハウス戦略」を指導する第一人者。
営業マンとして自分が欲しいと思わない住まいをお客様にお勧めする仕事に疑問を持ち、ある工務店でどうしても家を建てたくて転職、鹿児島へ 。15年間で173棟の住まいづくりをすまい手目線で担当。そこから編み出された、選ばれる工務店となる具体戦略を、悩める中小住宅会社ごとに実務指導中。

子どもたちの「なりたいもの」

 

子どもたちが「大人になったらなりたいもの」が様々な機会に調査されています。調査機会によって調査方法や母数が違っていますので結果にも違いはありますが、毎年世相を反映するものになっています。

子どもたちの中でも性別で結果の傾向は違っていますが、共通している点があります。それは、子供達が接点を持ちやすい職業が選ばれているということです。至極当然のことですが、知らない職業は選べない訳です。子どもたちがアクセスする機会の多いもの、人気が高いもの、共感できるものに票が集まります。

 

 

 

↑「進研ゼミ小学講座」小学生がなりたい職業ランキング2022

 

出典:「進研ゼミ小学講座」 小学生13,000人に聞きました!2022年総決算ランキング 株式会社ベネッセコーポレーション(本社:岡山市、代表取締役社長:小林仁)「進研ゼミ小学講座」が、2022年の出来事や将来に関する小学生の意識調査を実施。 実施期間と方法:2022年11月11日~24日にアンケートを実施。 回答者と回答数:「進研ゼミ小学講座」の小学3~6年生の会員を対象に13,816人(女子9,238人・男子3,691人・性別無回答887人)が回答。

 

 

この調査の対象は「進研ゼミ小学講座」の小学3~6年生の会員です。同講座の会員数は100万人を超えています。(日本の小学生の5人にひとりは「進研ゼミ」だそうです)それから考えると、回答数は僅かな比率です。また、回答者の地域特性も不明です。ということは、全ての小学生の傾向を表しているとは言えないかもしれません。「進研ゼミ小学講座」の会員である時点で、一定以上の収入のある家庭の子どもに限定されてるはずです。本人用のスマホやタブレット・PCなどを所有していて、ネットへのアクセス機会も多いものと推測できます。

そして、小学3~6年生ですからアルバイトなど何らかの労働経験は未だないものと考えられます。そういう点では私たちの子どもの頃と同様ですが、ネットからの情報量が多い点は大きく違っているはずです。職業に対してのリアルな経験はないものの、間接的な情報はふんだんに得られる環境なのです。つまり、子どもなりにバイアス(先入観)が生まれやすい状況下でのアンケートということになります。

私たちが子どもの頃も、たまたま出会った大人やテレビで見た主人公に憧れて「あんな大人になりたい!」とこころに決めるという事が多くありましたが、その頃とあまり相違はないように思います。それにしても女子の回答数が圧倒的に多いのはなぜなのでしょうか?気になりますね。

 

 

バイアス(先入観)が生まれる理由

 

バイアス(先入観)は人間である以上どうしても避けられないようです。なぜなら、原始の環境では脳の負荷を節約しつつ、生存確率の高い行動がとれるような個体が生き残ってきたからです。かつて密林で大きな肉食動物と出くわした時に、目の前にあるもの以外の情報収集は必要ありませんでした。余計な情報を加えて複雑な思考をしていると、そもそも間に合いません。人類の直接の祖先であるホモ・サピエンスの時代は20万年も前ですが、生物の基本的な脳の機能はそれほど急には進化しないのだそうです。

しかし、人間を取り巻く情報環境は最近急速に発達しました。普通に生活していても、入力される情報量が桁違いに多くなっている訳です。この情報洪水は、子どもの時代から早速スタートしています。若い世代ほど情報量は極端になっていて、現代では生まれる国や家庭によって情報量の格差も拡大していますが、情報量の拡大そのものは全世界での傾向です。

つまり、人間の認知・反応機能はそれほど進化していない中で、情報量・情報格差の拡大が発生しているのが現代の人間社会の姿です。大して変わらない能力に対してインプットの質が急激に変わっているのです。地球上ではあらゆる情報戦略に、この歪みが利用されています。今起こっている戦争ですら、この「情報戦」が主戦場になりつつあるぐらいです。

このバイアス(先入観)というものには数多くの種類があるそうですが、わかりやすかった例をひとつ紹介しておきます。(以下wikipedia[生存者バイアス]より)

第二次世界大戦中、統計学者エイブラハム・ウォールドは、敵の射撃による爆撃機の損失を最小限に抑える方法を検討する際に、生存者バイアスを考慮した。海軍分析センターの研究者は、任務から戻った航空機が受けた損傷の研究を行い、最も損傷が多かった部位に装甲を施すよう推奨した。ウォールドはこれに対し、分析センターによる研究は任務から「生還した」航空機しか考慮していない、撃墜された爆撃機が損害評価に入っていないと述べた。ウォールドは海軍に対し、帰還した航空機が損傷を受けていない部位を補強することを提案した。なぜなら、帰還した航空機に空いた穴は、爆撃機が損傷を受けても安全に帰還できる場所を表しているからである。

 

 

↑帰還した飛行機の損傷部分は、命中しても安全に帰還できる箇所を示している。他の箇所に命中したものは、そもそも生還できない。(画像は仮説データ)

 

Martin Grandjean (vector), McGeddon (picture), Cameron Moll (concept) , https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=102017718による

 

 

 

「誇張された一部の世界」と「見知しづらい大半の世界」

 

冒頭に子どもたちの情報収集の傾向について触れましたが、社長の会社の顧客はどのように収集しているでしょうか?社長の会社の顧客は大人であろうと思いますが、大人たちを取り巻く情報空間も基本的には子どもたちと同様です。

現代の大人は、子ども以上に多くの情報に接しています。そのために「生存者バイアス」などの罠にハマってしまう場合は、子供よりもむしろ増えてしまいます。何かを買ってもらうためのオファーは意図的に「生存者バイアス」が働くようガンガンアプローチしてくるからです。

「新しい商品を購入したら、こんなに良い事が起こる」という情報を浴びせられます。多くの場合、あたかも購入者の大半がそう言っているように演出されます。いっぽう、その「新しい商品を購入しても、何も良い事は起こらなかった」場合の情報は相当探さないと容易には接することができません。実際には購入者のほとんどがそうであってもです。「良い事どころか悪い事が起こった」情報などにたどり着くのはよっぽどの場合に限られるかもしれません。

このような環境で生活しているのは社長の会社のスタッフも、社長ご自身も同様です。人間としての脳が見知しやすい目先のことに反応してしまう仕組みは皆共有ですから、マーケティング上の意図的な情報戦略には十分な注意が必要です。それには私たち人類の脳のしくみ、反応の癖を前提にしておく事が肝要です。言うまでもなく、私たちはみな「お釈迦さま」ではないのです。

「進研ゼミ」の調査においても、会員の中で回答した子どもの数より回答しなかった子どものほうがずっと多い訳です。もっと言うと「進研ゼミ」の会員である子どもたちよりも会員でない子どもは多く、4倍もの人数がいるということです。これは事実です。昔から「木を見て森を見ず」などと言われますが、デジタル技術が発達すればするほど、意識しておかないと益々そうなってしまうのです。

 

 

↑意識して認識すべきはどこでしょうか?(赤いところばかり見せられて、緑の部分が見えてないとつい間違えてしまいます)

 

 

社長は自社の商品をどこをどう磨けばいいのかを誰に聞けばいいのでしょうか?「それは俺が直感で決めるのだ」という声も聞こえてきそうです。日頃から情報収集に余念がない社長でも、収集先を間違えると的外れな打ち手を判断することになりかねません。

より確率を高めるのであれば、社長は常に「買ってくれた顧客」から話を聞くべきでしょう。より、今後の勝率を上げていくとすれば「買ってくれなかった顧客」が買わなかった理由を知っておくと、より確信を持って商品を磨くことができるようになります。

 

決して「爆撃機の装甲箇所」を間違うことのないようにしなくてはいけません。

 

 

 

社長は「買ってくれた顧客」から話を聞かれていますか?また「買ってくれなかった顧客」のなぜ?を確かめていますか?

 

 

 

 

 

 

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