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植物たちの「いごこち」考

SPECIAL

住宅・工務店コンサルタント

株式会社 家づくりの玉手箱

代表取締役 

住宅・工務店コンサルタント 。規格住宅を高付加価値化させ、選ばれる工務店となる独自の展開手法「シンボルハウス戦略」を指導する第一人者。
営業マンとして自分が欲しいと思わない住まいをお客様にお勧めする仕事に疑問を持ち、ある工務店でどうしても家を建てたくて転職、鹿児島へ 。15年間で173棟の住まいづくりをすまい手目線で担当。そこから編み出された、選ばれる工務店となる具体戦略を、悩める中小住宅会社ごとに実務指導中。

 

 

植物の「いごこち指標」とは?

 

 

最近、スマホに入っている温湿度計のアプリをアップデートしたら、見慣れないグラフが出現しました。「飽差」と書いてあります。調べてみると近年、野菜などの栽培で用いられる管理指標に「飽差」ということばがあるそうです。「飽差」とは、1立方mの空気の中に、あと何グラムの水蒸気を含むことができるかを示す数値です。 具体的には、空気中に含むことができる水蒸気の最大量と空気中の水蒸気の量の差をいいます。 湿度と混同してしまいそうですが、飽差は湿度が同じであっても気温によって異なります。

 

『飽差』と呼ばれるものには、単位が「hPa」のものと「g/m3」のものがあります。いずれも値が高いほうが乾燥していることを示します。

 

① 飽差(VDP): Vapour Pressure Dificit (単位:hPa)
② 飽差(HD): Humidity Deficit (単位:g/ m3)

 

「飽差」は植物の生育、特に蒸散作用(呼吸)に大きな影響をあたえる環境条件なのです。

 

 

↑温湿度計アプリをアップデートしたら出現した【飽差】(1kPa = 10hPaです。単位が色々あって、ややこしいですね)

 

 

下図のように、湿度70%の空気が二つある場合、一方は10℃の温度環境では水蒸気をあと約3gしか含むことはできません。同じ湿度70%でももう一方は30℃の温度環境では、約9gもの水蒸気を含むことができます。

 

たくさん水蒸気を含むことができる空気は「水蒸気を奪うことができる乾きやすい空気」と言い換えることができます。単に湿度が何%かだけで乾燥した状態か、状態でないかを判断することはできない訳です。

 

 

↑「飽差」の模式図(同じ湿度70%でも気温によって飽差は変わるのです)

 

 

 

ヒトの「いごこち指標」との比較

 

 

植物は日中気孔を開いて蒸散を行い、蒸散した水分を補うために根から吸うのと同時に養分を吸収しています。適切な飽差レベルであればこの蒸散→吸水が円滑に行われます。

 

但し、植物は乾燥した環境(飽差値が高い)にさらされると、自己防衛のために気孔を閉じてしまいます。気孔を閉じることで呼吸や根からの吸水が止まり、生育障害が発生することで病害などにつながることがあります。

 

また、この状態は単に光合成の速度が低下する以上の危険性があります。二酸化炭素が不足している状態で光が当たりつづけると、消費しきれなかった過剰な光エネルギーによって活性酸素が発生し、光合成のシステムが破壊されてしまうそうです。なんだかヒトと同じような感じがしてきました。

 

植物の栽培における一般的な適正飽差値は作物の種類ごとに適正な値が異なりますが、一般的に4~7hPaまたは3~6g/m3と言われています。以下の表は飽差表と呼ばれるものですが、ヒトの快適範囲・自宅1階と2階の実際の範囲を重ねてみました。ヒトの快適範囲は、最近の高気密高断熱住宅で理想的とされている範囲です。

 

 

↑植物とヒトの快適範囲(飽差表【Hpa版】)

 

 

ご覧のように、植物とヒトの理想の快適範囲は違っているようです。ぜんぜん重なりがありません。ということはヒトの理想の快適範囲では、植物は多少のストレスを強いられるということになりますので、室内で共に暮らすには何らかの工夫が必要です。

 

 

↑自宅1階の実際の範囲(飽差表【Hpa版】)

 

 

鹿児島の自宅の1階は、比較的空調の影響を受けにくい環境です。また、低気密住宅なのでどうしても外の空気と混ざりやすいので、飽差も外気に近くなります。ヒトにはつらい面もありますが、植物の理想の環境とは重なりがあります。

 

 

↑自宅2階の実際の範囲(飽差表【Hpa版】)

 

 

自宅2階は、1階に比べると夏・冬ともに空調の影響が大きい場所です。特に冬は空気式ソーラーシステムと薪ストーブの暖房で乾燥ぎみになり、植物の理想範囲との重なりはなくなっています。夏場はエアコンは使用しますが、窓まわりが低気密なために湿度が下がりにくく、結果的に植物寄りです。

 

 

 

自宅の「植物歴」を振り返る

 

 

これまで様々な住宅に住んできましたが、その間には数多くの植物たちを枯らしてしまいました。はりきって大きめの高い観葉植物を買ってきて、数週間で昇天ということもありました。

 

その植物に関する知識が十分でなかったことも失敗の要因ですが、賃貸住宅なので日当たりが悪かったり、風通しがよくなかったり、寒暖の差が激しかったりと、環境によるものも大きかったのでしょう。

 

これまで、多くの植物屋さんと出会ってきましたが「どうやって育てるべきか」をしっかり教えてくれた人は、ほとんど思い出せません。ひょっとしたら、実際のところはあまり詳しく知らない人が多かったのかもしれません。もしくは、あまり言ってしまうと売れなくなってしまうからかもしれません。

 

どういった業界にもそういった人たちはたくさんいます。多くを語らない方が売れるので、寝た子を起こすような話はあえてしない訳です。ただ、最近ではネットの普及により、その不誠実がすぐにバレるようになってきましたが。

 

振り返ってみると、借家時代には様々な「フェイク」植物を置いていました。生きてはいないので、呼吸もしないし成長もしない見た目だけの「フェイク」ですが、それでも和むので買ってくるのです。もうかれこれ35年ものお付き合いの「フェイク」もいます。

 

 

↑【借家時代】バンブー系の「フェイク」植物(今の家でも玄関に鎮座しています)

 

↑【借家時代】バナナ系の「フェイク」植物(今の家に引っ越すときに後輩にあげました)

 

 

鹿児島に移ってきてからは、一戸建ての借家でした。また、南国ということもあり改めて「ホンモノ」に挑戦し始めました。借家はめずらしく2階リビングでした。そのおかげで日当たりは良かったのです。数軒のグリーンショップを見て回ってケンチャヤシというのにしました。

 

南の暖かい地域の原産ですし、いままで行きつけだった飲食店などでよく見る種類だったので、これならいけるかなと思ったからです。しかし、2年あまりでアウトでした。新築を前に気が緩んでしまったからかもしれません。

 

 

↑【借家時代】唯一「ホンモノ」だったケンチャヤシ

 

 

新築をした今の自宅では、改めてアレカヤシというのに挑戦することにしました。特に形が美しいということはありませんが、株立ちになっていてケンチャヤシよりも成長が早いとのことだったので「少々枯れても新しいのが生えてくるのでは」という感覚で選びました。

 

あいかわらず、生育環境のことなどは深く考えてはいませんでしたが、あたらしい家は空気式ソーラーシステムが搭載されていて「冬は乾燥する」ということは分かっていました。なので、乾燥には気を使っていたと思います。

 

結果として、アレカヤシは21年経った今でも健在です。株立ちが次々生え替わって、買った時と同じような姿をしています。徐々に今の環境に慣れていってくれたのが良かったのかもしれません。

 

 

↑【現在の家】「フェイク」のように安定感のあるアレカヤシ

 

 

 

どうやら植物にとっての理想的な環境と、ヒトにとっての理想的な環境には、隔たりがあるようです。理屈さえ分かれば、共に暮らすための工夫ができそうです。

 

 

 

 

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