ローカライゼーション(現地化)とは何か? ~古代哲学から得るヒント~

皆さんは「三才思想(さんさいしそう)」についてご存じでしょうか? 「三才思想」とは中国古代の宇宙観に基づく哲学的な概念で「天・地・人」の三つの要素が宇宙構成の基本原理であるとする考え方です。この三者は互いに独立しながらも密接に関係し合い、調和を保つことで世界が成り立つとされました。たとえば、「天の時・地の利・人の和」という言葉は、成功にはこの3つの条件が揃うことが重要だという思想を表しています。
最近、多くの経営者の方から、「海外市場に進出する際、製品のローカライゼーションをどう考えればよいのか?」というご相談をいただきます。これらの企業は日本市場では既に成功されており、一定の売上・利益を挙げられています。しかしながら、海外市場に挑戦するにあたり、前述のような悩みが生じるようです。そのご相談に対しての回答を一言で述べれば、「自社の既存製品で変えるべき部分と変えなくてよい部分を間違わない」ということなのです。当方もこれまで多くの海外展開企業を目の当たりにしてきましたが、変えなくてもよい部分を変えてしまったケース、(逆に)変えないと現地市場に受け入れられないのに既存製品そのままで海外市場に挑戦したケースが多々あります。何れの場合も結果は「惨敗」であったことは言うまでもありません。
それでは、ローカライゼーションの必要可否およびその度合いはどのように判断すればよいのでしょうか? ローカライゼーションの判断基準のヒントは、さきほどの「(成功のための3つの条件である)天・地・人」にあるのです。まず1つ目は、「地(狙う市場の風土)」の視点。その市場の気候や立地などがそれにあたります。分かり易く言えば、1年中暑く毎日スコールが降るような気候の市場に(四季の違いが特徴の)日本の衣服をそのまま持ち込んで受け入れられるか?ということです。日本市場よりも「通気性の良い」生地が好まれるのは明らかでしょう。
次に2つ目は、「人(狙う市場の文化)」の視点。その市場特有の生活習慣や伝統的嗜好などです。日本国内においてベストセラーであるという理由で、「白色」の商品を前面的に押し出しても、受け入れられない市場があります。いくつかの国々では、「白色」は死を連想させ、葬儀の際に持ち入られるから敬遠されがちです。
最後に3つ目は、「天(狙う市場のトレンド)」の視点。前述の2つの視点は、その市場の過去からの特性を示していますが、特性は常に少しずつ変化していることに目を向けなくてはいけません。俯瞰して視る(鳥の目)だけではなく、現地の生の情報を注意深く視る「虫の目」も同時に重要なのです。多くの企業経営者と現地での海外市場調査にご一緒すると、「日本にいる時に考えていたイメージとは全く違った」と新たな気づきを得られることが非常に多いのが実情です。
「3つ(天・地・人)の視点で考察した」狙う市場の特性が、日本市場と大きく異なるのであれば、その部分をローカライズするというのが必要なのは言うまでもないことです。この考え方は商品だけでなく、サービスにおいても充てはまります。海外市場を目指す企業経営者・幹部の方は、「天・地・人の観点」から自社製品のローカライズについて一度「本格的に」考えてみては如何でしょうか? 「三才思想」は、現代の海外展開ビジネスにも適用できる普遍的な哲学なのです。
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