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モノの長寿命化はビジネスチャンス?

SPECIAL

循環経済ビジネスコンサルタント

合同会社オフィス西田

チーフコンサルタント 

循環経済ビジネスコンサルタント。カーボンニュートラル、SDGs、サステナビリティ、サーキュラーエコノミー、社会的インパクト評価などへの対応を通じた現状打破と成長のための対案の構築と実践(オルタナティブ経営)を指導する。主な実績は、増客、技術開発、人財獲得、海外展開に関する戦略の構築と実現など。

「西田先生、果たしてモノの長寿命化は本当に経済を変えるんでしょうか。」
つい先日開催された研究会で真剣に議論されたテーマです。ようやく涼しくなった都内の某会議室には、ビジネスマンや研究者、コンサルタントなど研究会の常連が大勢詰めかけていました。意見交換が始まるや否や、「生産量が減ったら経済は縮小するのでは」「でも資源効率は確実に上がる」「修理や保全産業が伸びる」など、議論は熱を帯び、会場はまるで公開討論会のような盛り上がりを見せました。

 資源効率の観点からいえば、モノの長寿命化は確かにプラスの効果をもたらします。大量生産・大量消費の文化が引き起こした資源の浪費を抑制できるからです。これまで「つくっては捨てる」を繰り返してきた社会において、限られた資源をいかに長く使うかは、持続可能な経済の第一歩といえます。

 また、「必要な時に必要な分だけつくる」ことによって大幅なコスト削減を実現したのはトヨタ自動車のジャスト・イン・タイム生産方式が有名ですが、長寿命化はその思想を「使う段階」にも拡張する考え方です。つまり、「必要な分」の寿命を延ばすことで、そもそもの必要量そのものを減らすというアプローチです。資源を大切に使うだけでなく、経済活動全体の効率化にもつながる発想といえるでしょう。

 ただし、技術革新を伴う場合には注意が必要です。旧式のシステムを大事に使っていたところに新技術が登場し、一気に競争力を失うといったことは珍しくありません。たとえば太陽光発電システムなどが典型です。10年前に導入した設備を丁寧にメンテナンスしても、最新技術のパネルに比べると発電効率が大きく劣ることがあります。そうなると「長く使う」ことが必ずしも経済的に有利とは限らないのです。さらに、やみくもなコスト削減のために古い設備を使い倒し、生産性を犠牲にしてしまうようでは、本末転倒といわざるを得ません。

 今回の研究会では、そうした単純な延命ではなく、「長く使える適切な技術」を選び、それを保全活動によってより長く活用することで、環境面と経済面の両立を図ることを主題に据えました。モノを大切にするという価値観を、単なる節約の論理ではなく、経営の戦略としてどう位置づけるか――そこに議論の焦点があったのです。そして経済がそうなれば、ビジネスチャンスも必然的についてくる、そんな期待感があるわけです。

 このテーマを考えるうえで、欠かせない視点がカーボンフットプリント(CFP)です。製品やサービスのライフサイクル全体において、どれだけの温室効果ガスを排出しているかを「見える化」する仕組みで、長寿命化の真価を評価するうえで非常に重要な指標となります。

 たとえば商業施設を建て替える場合と、既存の建物をリノベーションする場合とで、環境負荷はどちらが小さいでしょうか。建て替えでは新しい省エネ設備を導入できる一方、解体・廃材処理・新規建設の過程で多量のCO₂を排出します。リノベーションでは構造を活かす分、初期の排出量は抑えられますが、古い構造体を使い続けることによる将来的なメンテナンス負荷も無視できません。つまり、単純な二者択一ではなく、建物全体と設備機器の寿命をどう組み合わせるかがポイントになるのです。

 一般に鉄筋コンクリートや鉄骨構造の建物は50年以上の耐用年数を持つといわれます。これに対し、給湯・空調・電気などの設備類は10〜20年が寿命の目安です。したがって、設備の更新やメンテナンスを通じて建物全体を長く活用できるようにする「予防保全型」のマネジメントが重要になります。このアプローチなら、廃棄物の発生を抑えながら資産の価値を最大限に引き出すことができます。

 こうした考え方は、サーキュラーエコノミー(循環経済)の理念と深くつながっています。モノを廃棄せず、修繕・再利用・再生を通じて価値を循環させることで、経済と環境の両立を目指す。その中核となるのが「長寿命化の経済性をどう可視化するか」という課題なのです。

 複合的な評価システム――たとえばCFPだけでなく、資産の耐用年数、保全コスト、社会的便益などを総合的に測る仕組み――を整えることで、企業が保全やリノベーションを選択するインセンティブを高めることができます。長寿命化の価値を「数字で示せる」ようになれば、それ自体が新たな市場を生み出す可能性もあるでしょう。まさに会計制度そのものとも深くつながってくる議論なのです。

 経済の成長とは、単に新しいモノを作ることではありません。既にある価値を丁寧に使いこなすこともまた、豊かさをつくる行為です。長寿命化は、その意味で「成長の質」を問い直す契機でもあります。

 私は、モノや建物が長く使われる社会こそ、真に成熟した経済の姿だと考えています。そこに隠れているビジネスチャンスに気付けるかどうか、そのヒントは「長寿命化」というキーワードにこそあるのです。

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