企業連携が拓くサーキュラーエコノミーの新地平
「西田先生、いつも先生が言っている異業種の方との交流でオープンイノベーションが生まれる可能性を今日は強く感じました。」
つい先日、アライアンスを志向した異業種企業との面談を終えた当社クライアントの取締役から直接いただいたコトバです。私は常々「サーキュラーエコノミー(循環経済)は一社では成り立たない。必ず何らかの連携が必要になる。」ということを申し上げています。
この「連携の必要性」は、循環経済が単にリサイクルの延長ではなく、経済構造そのものを変える取り組みであることに由来します。資源を「使って捨てる」直線的な経済(リニアエコノミー)から、「使いながら循環させる」経済へと移行するには、素材生産者、加工業者、販売者、回収業者など、多くのプレーヤーがつながることが不可欠だからです。
その典型例が、先ごろ発表された「BlueRebirth(ブルーリバース)協議会」です。これは廃車の自動精緻解体を起点として、再生資源を新車に再投入する「Car to Car」モデルの実現を目指す取り組みで、まさに動脈(製造側)と静脈(リサイクル側)の融合を象徴しています。これまで廃車処理は「終点」でしたが、いまやそこが「起点」へと変わりつつあるのです。企業間連携の可能性が、こうして確実に広がっています。
このような動静脈連携はもちろんのこと、建物解体業とリサイクルショップの協業など、業種の近いプレーヤー同士による補完的なパートナーシップにも大きな将来性があります。さらに情報通信産業との親和性も見逃せません。ECプラットフォームやデータ共有基盤を活用すれば、これまで想像できなかった商流の再設計が可能となり、循環材をベースとしたまったく新しい市場が生まれる可能性があります。
もっとも、企業間連携には光と影の両面があります。最大の難しさは、それが「いとも簡単に壊れてしまう」ことです。過去の事例を振り返ると、かつて話題を集めたソニーとエリクソンの携帯事業提携、あるいは日産とルノーのアライアンスにも見られるように、ビジョンや文化の齟齬が時間とともに表面化し、協力関係が冷え込むケースは少なくありません。
特に日本企業の場合、組織文化や意思決定のスピード感が異なると、当初の熱気が徐々にサメてしまうことがあります。経営トップ同士の信頼関係が変化すれば、プロジェクト全体の方向性が揺らぐこともある。これは循環経済のように長期的視点を要する領域では致命的です。
こうしたリスクを避けるためには、事前のすり合わせが欠かせません。まず、事業理念が一致しているかどうか。次に、企業文化や意思決定プロセスの違いが障害にならないか。そして、何がどうなれば双方にとっての「勝利」と言えるのかという「勝利条件」を明確にすること。これらを丁寧に確認し合うプロセスこそが、企業間連携を成功に導くカギになります。
この準備を経て信頼関係を築くことができれば、まだ誰も成し遂げていない「企業間連携を通じた循環経済による新たな収益源の確立」が視野に入ります。資源の再利用だけでなく、CO₂削減という社会的価値を同時に生み出せるモデルは、世界的にも競争力を持ちうるのです。
日本経済の先行きについて、「人口減少で成長はもう望めない」「内需は縮小する一方だ」といった悲観論が語られ続けています。しかし私は、循環経済こそが新しい成長の入り口になると確信しています。なぜなら、循環経済はほぼ確実に脱炭素に貢献し、グローバルな潮流と完全に一致しているからです。資源の効率利用、再生技術の革新、再エネとの統合――これらはすべて新しい市場を生み出す要素です。
さらに近年では、Jクレジット制度など、脱炭素の取り組みを価値化できる仕組みも整いつつあります。もし企業が連携して再生材の利用拡大やエネルギー効率の向上を実現できれば、その削減効果をクレジットとして収益化することが可能です。つまり、循環経済を進めることがそのまま企業価値の向上につながる時代が到来しているのです。
これから他社との連携を模索される方には、ぜひこの「脱炭素の価値化」という視点を加えていただきたいと思います。環境対策をコストではなく投資と捉え、連携によって共に利益を生み出す発想を持つことで、企業は社会的使命と経済的成果を両立できるようになります。
循環経済の実現には、単独では到達できない世界があります。だからこそ、互いの強みを補い合う「共創」が重要です。オープンイノベーションの精神をもって、次の一歩を踏み出す。その挑戦の先にこそ、持続可能で力強い日本経済の未来が見えてくるのではないでしょうか。
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