人が育つ仕組みがあるか
企業や組織にとって人材の育成は、事業の維持・発展に必要なことであるのは疑いようがありませんが、これを計画に進められているところは非常に少ないというのが実感です。人は育てるものではなく育つもの、というのが私の考えであり、そのためには無理に育てようとしなくとも自然に育つ仕組みを作ればよいのです。
私がかつて所属していた大手企業でも、入社後の数ヶ月間は新人研修と称して集合教育が行われますが、職場への配属後はOJT(On the Job Training)という名のものに現場に委ねられることになります。つまり、後は現場任せです。
現場で実際に業務に携わることは、机上での学習よりはるかに育成に効果的なやり方であるのは間違いありません。
ただし、人材育成に熱心な管理者の下に配属された社員は、適度な機会と負荷が与えられて成長していく可能性が高いものの、慢性的に目先の業務に忙殺され部下を労働リソースとしか見ることができない管理者の下に配属された社員は、自力のある者でない限り成長していく可能性は低いと言えます。
実際、ある部署内の管理者と反りが合わず燻っていたところ、別の部署に異動した途端見違える成長を見せた人材を何人か目にしています。私の配下に移ってきた人材が目覚ましい活躍をするのを見た際には、前の部署でどんな仕事のさせ方をしてきたのか想像に難くありませんでした。
今風に言えば、いわゆる”配属ガチャ”による運・不運に見舞われるというわけですが、これでは企業や組織としての視点からは人材育成の戦略がない、具体的な仕組みがないということになります。
プロジェクトの成功率を飛躍的に高めるためには、仕組みと永続的な改善サイクルの作り込みが必要ですが、成功率を追いかけるということは長期的な施策を要するものであり、そこには必然的に人材育成の仕組みも含まれなければなりません。
ソフトウェアの開発者であれば、まずは複数の言語でプログラムコードを書けること。次に、一つの機能を設計し、コーディングし、テストして品質の良い成果物を作り上げられること。その次には複数の機能から構成されるシステムまたはサブシステムを担当し、チームを纏め上げられること等々。組織において、1ステップずつ階段を上がる様な育成計画があるかないかでは、人材の成長速度は大きく異なります。
まずは基本的で簡単なところから始め、徐々に高度な仕事を任せていくのは当たり前だと言われるかもしれません。しかし、それは企業または組織の方針があってのものでしょうか。行き当たりばったりや、直属の上長の差配だけに頼っていないでしょうか。
その時々の業務の質、量によって、計画があってもその通りにはいかないことはあります。しかし、プログラムコードを書いたことのない人間に、業務の都合でいきなりプログラムの設計を見様見真似でやらせても、的を射る設計はできないのです。それは本人にとって不幸なことです。
組織によって業務の違いがある中でも、組織横断的に個々の育成計画に沿った仕事を割り振ることによって、段階的に自然に仕事を身につけていくことができる。その様な仕組みが必要です。
あなたの組織には、無理に人を育てようとせずとも、自然に人が育つ仕組みがありますか。
関連提言:その仕組みはほんとうに機能しているか?
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