人が育っているか
企業や組織にとって人材の育成は、事業の維持・発展に必要なことであるのは疑いようがありません。あなたの組織では、人材が適切に育っているでしょうか。あえて”育てている”ではなく”育っている”と言ったことには意味があります。それは私の経験からは、やはり人材は、”勝手に”と言ってはやや極端ですが、自然に育つものであるべきだからです。
仕事柄、多くの中小企業の経営者から話を伺う機会があります。少子化も相まって労働者の売り手市場となっている昨今、ほとんどの中小企業経営者が人材確保に苦労しています。そして人材確保以上に悩まされているのが、人材が定着しないということです。
「最近の若者は、」とはいつの時代も言われる台詞で、自分の世代の価値観に縛られることは慎むべきなのですが、あえて最近の若者の話をすると、なかなか一つの企業内に定着しないそうなのです。頻繁に転職サイトの広告を目にする様に、転職に対するハードルやネガティブ感は以前より少なくなってきたということもあるのでしょう。
転職してきた方も含めて新入メンバに対し、手取り足取り気を遣いながら育成しても、その人材がいつまでもそこに居る可能性は従来より相当低くなっているということです。これはおそらく、従来との比較のうえでは中小企業だけに限った話ではなく大企業においても同様と思います。
メンバーシップ型の終身雇用が主流だった過去は、育成に時間をかけることでも十分にリターンがありましたが、これからはそうはいかないかも知れません。
そういう私自身も企業で長年システム開発をやってきた中で、誰かに”育ててもらった”という意識はありません。目の前のプロジェクトに悪戦苦闘しながら、わからないところは自分で勉強しながら、あるいは先輩に聞きながら自然に育ってきたと思っています。
広く捉えれば、そういった環境を与えてもらったことで企業に”育ててもらった”と言えるかも知れませんが、やはり厳しい環境を乗り越えていく中で自分自身で成長していったというのが実感です。
そういう実感もあって組織を率いる立場になってから思ったことは、自分が人を育てるなどおこがましい、人は育つものだということです。そして、何より育つための環境を提供することが大事だということです。
実際、本人にとってやや難しいかも知れないプロジェクトや業務を任せたことによって、あの頼りなさそうに見えたメンバが、見違えるように成長した姿を見せるようになったことを何度も経験しました。
米国のコンサルタント会社であるロミンガー社が提唱した「ロミンガーの法則」というものがあります。これは人材が育つ学習の割合は、業務経験7割、指導2割、研修1割であり、現場で業務を経験し成功や失敗から学ぶことによって成長する割合が一番大きいというものです。実感として納得させられる法則です。
ただし現実的には、この成功や失敗を経験できる環境の提供というのは難しくなってきました。経営環境や個人のレジリエンスの問題から、できるだけ失敗を避けようとする安全運転思考が強い風潮のためです。
しかしながら私は、プロジェクト内の失敗も経験できる環境を提供することが、将来的にはプロジェクトの成功率を上げていく人が育つ一助になると信じて止みません。そのためにはそれぞれの個人に対して、決して行き当たりばったりではなく、計画的に環境を提供する戦略が必要だと思うのです。
あなたの組織では、人が育っていますか。人が育つ環境を提供できているでしょうか。
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