声の大きい人の意見が、なぜかいつも通っていませんか。
「この提案、絶対にやったほうがいいと思います」。
会議の席で、ある社員が強い口調で言いました。理由も説明する。資料も用意している。本人なりに考え抜いた提案なのでしょう。最初のうちは周囲も反論したり質問したりしています。
ところが、その人はなかなか引きません。反対意見が出てもさらに声を大きくして主張する。別の案が出ても、それは難しいと否定する。会議の時間は限られていますから、周囲もだんだん疲れてきます。そして最後には、「まあ、そこまで言うならやってみようか」という空気になります。
本人は意見が通ったと思っています。ところが実際には、誰も納得していません。ただ面倒になっただけです。こういう光景は、どこの会社でも見かけます。
問題はここからです。
提案された計画が動き始めると、思ったほど成果が出ない。途中で本人も何となく気づき始めます。「あれ、もしかしたら違ったかもしれない」と。でも、ここで止まれないのです。なぜなら、自分があれだけ強く言った手前、「やっぱりやめます」と言いにくいからです。
周囲も気づいています。「方向が違うんじゃないか」「最初からそう思っていた」「だから言ったのに」。そんな声が心の中にはあるのですが、今さら蒸し返すのも面倒です。本人も引っ込みがつかなくなっていることがわかるからです。
結果として、誰も本気では信じていない施策が、形だけ進みます。そしてある日、静かに破綻します。周囲は「ほら見たことか」と思いながらも、特に何も言いません。
実は、この話で興味深いのは、最初の判断が正しかったかどうかではありません。問題は、途中から、論点が変わってしまうことです。
最初は「その案が正しいかどうか」を議論していたはずなのに、いつのまにか「自分が負けるかどうか」の話にすり替わるのです。本来であれば、新しい情報が入ったら考えを変えてもいい。状況が変わったら方針を修正してもいい。ところが、一度強く主張すると、その自由が失われます。
実は、この話は特定の社員だけの話ではありません。立場が変われば、同じことは誰にでも起こります。たとえば管理職もそうですし、もちろん社長も例外ではありません。
人は責任が大きくなるほど、自分の判断を否定しにくくなります。周囲を巻き込んでいるという自覚があるからです。だからこそ、途中で方向転換することに強い抵抗を感じます。高いポジションであるほど、前言撤回が難しい。見通しの甘さを指摘される怖さや信頼を失うリスクを考えると、先が見えない中でストップをかける勇気もしぼみます。しかし本来、判断を変えることと、信念を曲げることは別の話です。
新しい情報が入り、状況が変われば、判断を見直すのはむしろ自然なことです。大切なのは、自分の過去の発言を守ることではなく、会社をあるべき姿に近づけることです。
そして、そのためには周囲の意見に耳を傾けることも必要です。環境の変化や突発的な出来事をとりあえず受け止めてみる度量の大きさも欲しいのでしょう。
最初は自分の考えが正しいと思っていたとしても、実際に計画を動かしてみたり、他の人の意見を聞いてみたら、見えていなかったものが見えてくることがあります。その案が目的に向かって進むのに適しているのであれば、そちらを採用すればいい。
それは負けではありません。むしろ目的に対して忠実であることの証です。
間違えない人よりも、柔軟に軌道修正できる人のほうが強い。
さて、あなたの会社には大きな声で意見を通す人はいませんか。
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