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海外進出|投資を急ぐな。確かめてから資源を集中せよ

SPECIAL

海外ビジネス〈構造設計〉コンサルタント

株式会社DREAM CUBE

代表取締役 

海外ビジネスコンサルタント。30年以上にわたり、事業開発と国際取引を手掛けてきた実績。自ら海外事業を展開する一方、300社を超える企業・団体の海外進出を支援。数千万円規模の輸出入取引から、数千億円規模の大型国際プロジェクトへの参画まで多岐にわたる。
数多くの事案を通じて、海外ビジネスの成否は「事業全体の構造」に左右されることを実感。現場で培った知見を体系化した独自の〈7つの構造設計〉を提唱し、企業が世界で勝ち続けるための海外事業の設計・構築を支援している。

海外の展示会から帰ってきた担当者が、少し興奮した様子で言いました。

「かなり反応が良かったです。代理店候補も見つかりました。次はまとまった量を送って、本格的に進めたいです」

私は尋ねました。

「今回、何が分かりましたか?」

「売れそうだ、ということです」

「誰が買うのか。いくらなら買うのか。再注文するのか。そこまで分かりましたか?」

「……そこまでは、まだです」

海外市場で手応えを感じると、次へ進みたくなります。

在庫を増やす
独占代理店を決める
人を採用する
倉庫を借りる
現地法人を設立する

しかし、

「可能性が見えた」と「投資を本格化してよい」は同じではありません。

重要なのは、最初の投資額の大小ではありません。

まだ分からない段階で、自社の選択肢を狭めないことです。

最初の投資で、何を確かめるのか

50ケースを送るのか、500ケースを送るのか。

重要なのは数量そのものではありません。

50ケースで、

誰が買うのか
何に価値を感じるのか
どの価格なら動くのか
再注文があるのか

まで確認できるなら、500ケースを先に送る合理性はありません。

最初の取引は、売上をつくるためだけのものではありません。

次の意思決定に必要な情報を得る投資でもあります。

だから最初に考えるべきなのは、

「いくら売れるか」

だけではなく、

「この投資によって、何が分かるのか」

です。

海外市場には、実際に入ってみなければ分からないことがあります。

最初の投資には、売上だけでなく、不確実性を減らす役割を持たせます。

売れたら、「数量」ではなく「構造」を見る

試験販売で100個売れた。

そこで、

「次は1,000個送ろう」

と考える前に、数量ではなく理由を見ます。

なぜ売れたのか。

値引きなのか
広告なのか
珍しさなのか
商品の価値そのものなのか
特定の顧客層に明確な需要があったのか

同じ100個でも、意味はまったく違います。

大幅な値引きによって一度だけ売れた100個と、値引きをせず再注文が入った100個では、次の投資判断は変わります。

海外事業では、売上の数字だけを見るのではありません。

売上が生まれた構造を見る。

再現できる構造なら、投資を増やす
再現できないなら、まだ動かない

数量を増やす前に、再現性を確かめます。

独占契約で渡すのは、「販売権」だけではない

海外進出の早い段階で、有力なパートナー候補が現れることがあります。

「この国では当社だけに販売させてください」

「独占代理店にしてもらえれば、本気で売ります」

魅力的な提案です。

しかし、問題は相手が信用できるかだけではありません。

独占権を与えた瞬間に、自社が別の相手と組む選択肢も同時に狭まります。

まだ市場が見えていないのであれば、

地域を限定する
商品を限定する
期間を限定する
販売実績を確認してから範囲を広げる

という進め方もできます。

海外事業では、

相手を選ぶことと、自社の選択肢を残すことを同時に考える。

市場が見える前に、主導権まで手放さない。

相手との関係を深めることと、自社の判断余地を残すことは両立できます。

現地法人は「本気度」を示すためにつくらない

「本気で海外進出するなら、そろそろ現地法人を」

という話も出てきます。

もちろん、海外事業が成長すれば、現地法人が必要になる局面があります。

しかし、現地法人を設立すること自体を目的にしてはいけません。

先に考えるべきなのは、

何を手に入れるための投資なのか。

顧客との直接接点なのか
営業力なのか
物流なのか
ブランドなのか
市場の主導権なのか

目的が明確になり、その実現に現地法人が最も合理的な手段であれば設立する。

先に法人をつくり、あとから役割を考えるのでは順序が逆です。

海外進出では、形から入るのではなく、必要な機能から投資を考えます。

投資判断では、「進めるか」だけでなく「戻れるか」も見る

海外事業では、想定外が起こります。

市場が思ったほど伸びない
代理店が期待ほど動かない
規制が変わる
物流条件が悪化する
別の市場に、より大きな可能性が見つかる

そのとき、

大量在庫を抱えている
長期の独占契約を結んでいる
大きな固定費を持っている

という状態であれば、方向を変えたくても変えにくくなります。

だから、不確実性が高い段階では、

進む自由と同時に、戻る自由を残しておく。

撤退できる余地は、次の選択肢を守る余地でもあります。

海外戦略では、「どこまで進むか」だけではなく、

「どこまでなら判断を変えられるか」

も考えておく必要があります。

不確実性が減ったところへ、資源を集中する

海外進出で「小さく始める」こと自体に価値があるわけではありません。

慎重であることを目的にするのでもありません。

市場を知る
価値を確かめる
相手を見極める
収益構造を見る

分からなかったことが分かり始めたら、次の判断へ進みます。

確かめる → 選ぶ → 集中する

この順番です。

市場の反応に再現性が見えた

組むべき相手が見えた

利益が残る構造が見えた

自社が持つべき主導権が見えた

そこまで確認できたなら、今度は思い切って資金・人材・時間を投入する。

現地拠点が必要ならつくる

人材が必要なら採用する

ブランドへ投資すべきなら投資する

小さく始める目的は、小さく終わることではありません。

大きく投資すべき場所を見極めるために、最初の投資を使うのです。

海外進出で怖いのは、投資額が大きいことではありません。

まだ市場が見えていない段階で、資金・契約・組織を固定してしまうことです。

不確実性が高いうちは、選択肢を残す。

確信が高まったら、迷わず資源を集中する。

海外進出における〈投資戦略〉とは、

「何が見えたら、次の資金・人材・時間を投じるのか」―その判断基準を、投資する前に持つことです。

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