あの職場にだけ、人が居つかない理由

「また辞めるみたいです」。ある会社で、少し困った顔をした社員の方から聞いた言葉です。ある部署に中途採用の人や他部署から異動してきた人を入れても、なぜか数か月すると辞めてしまう。上司が厳しいわけでもない。仕事が極端に大変なわけでもない。周りに聞けば「あの人にはよくしていたんですけどね」という答えが返ってくる。
ところが、少し丁寧に話を聞いていくと、別のものが見えてきました。頼まれごとが新しく来た人にだけ少し回ってこない。雑談の輪に入るタイミングがひとつずれる。何かを決める場に、その人だけ呼ばれていない。どれも「いやがらせ」と名指しするには小さすぎます。しかも本人たちにも悪意はありません。ごく小さな、無意識の排除。
最初は、人間関係の問題に見えます。誰か意地の悪い人がいるのではないか。でも同じ部署で、入ってくる人が変わっても似たことが繰り返されるのなら、個人の性格だけでは説明がつきません。
背景にあったのは、「自分のポジションを奪われたくない」という気持ちでした。自分の価値を、自分が持っている仕事や情報や人脈に置いている人ほど、新しい人が来ると無意識に守りに入ります。取られてから守るのではありません。取られるかもしれないと感じた時点で、無意識の防御が働く。
仕事を「持ち場」と思っている人は、自分の仕事を、会社全体の仕事の一部分として考えます。今は自分が担当しているけれど、自分だけのものではない。だから新しい人が来れば、仕事を教えたり、分けたりしながら、一緒に全体を回そうとします。
一方、仕事を「持ち物」と思っている人にとって、その仕事は自分の存在価値を支えるものです。自分しか知らない、自分しかできない、自分に聞かなければ進まない。そういう状態であるほど、自分の立場は安定します。だから新しい人が来ても、仕事を簡単には手元から離せません。
もちろん、「渡したくない」と意識しているわけではありません。「まだ任せるのは早い」「私がやった方が早い」と考えているうちに、仕事は渡されない。そこが、この問題の厄介なところです。
だから、この問題で犯人探しを始めると、良いことはありません。「あの人が新人を排除している」と名指しされたら、今度はその人自身が自分の立場を守ろうとします。誰かを悪者にすることで、新たな守りが生まれる。あまりうれしくない連鎖です。
問うべきは、「誰がやったか」ではありません。「この職場では、何を持っていれば安心していられるのか」です。仕事をたくさん抱えている人が評価されるのか。自分にしかわからないことが多い人ほど重宝されるのか。誰かと誰かの間に立って情報を握る人ほど存在感を持てるのか。もしそうなら、新しい人に仕事を渡すことは、自分の価値を下げることのように感じられてしまいます。
新しい人を迎える準備というと、机を用意し、仕事を決め、教育担当をつけることを考えます。でも本当に必要なのは、それだけではありません。新しい人に仕事を与えることで、もともといる人が「自分の役割が減った」「自分の価値が下がった」と感じる職場では、誰かが無意識に抵抗します。
新しい人の席をひとつ用意すれば、それで受け入れ準備ができたわけではありません。大切なのは、もともといる人も、自分には役割がある、自分は必要とされていると思えること。新しい人と、今いる人の両方が安心できる状態です。
さて、あなたの会社では、新しい人が入ってきたとき、誰かが「自分の役割を取られるかもしれない」と感じるようなことはないでしょうか。
コラムの更新をお知らせします!
コラムはいかがでしたか? 下記よりメールアドレスをご登録いただくと、更新時にご案内をお届けします(解除は随時可能です)。ぜひ、ご登録ください。

