透明資産経営|人が辞め続ける会社に共通する空気感の正体とは?
こんにちは!企業の空気をおカネに変える専門家、透明資産コンサルタントの勝田耕司です。
透明資産とは、業績に影響する「空気感」を意図的に設計し運用する仕組みのこと。透明資産を取り入れた透明資産経営は、お客様との絆が深まり、従業同士の信頼関係が築きあげられ、商品・サービスの独自性が強化されます。そして、持続的成長につながる経営の仕組です。
ー離職率が止まらない時代に、いま組織の中で何が起きているのか
厚生労働省の雇用動向調査によれば、近年の入社三年以内離職率は、大卒で約三割、高卒では約四割という高水準で長期にわたって推移している。中小企業に絞ればその数字はさらに厳しく、業種によっては入社者の半数が三年以内に去っていく現実がある。経営者にとって人手不足はもはや一時的な現象ではなく、構造的な経営危機と化した。求人広告に投資し、面接プロセスを工夫し、初任給を引き上げる。それでも、せっかく採用した人材は半年から一年で次々と去っていく。多くの経営者が、人事担当者と顔を見合わせて「いったい、何が足りないのか」と頭を抱えているのが現状である。
ここで一度立ち止まって考えたいのは、辞めていく社員が表向きに語る退職理由が、本当に本音なのかという問いである。退職時のアンケートで多く挙がるのは「キャリアアップのため」「家庭の事情」「体調不良」といった当たり障りのない言葉だが、離職経験者を対象とした各種の追跡調査では、本音はまったく別のところにあることが繰り返し示されている。本当の理由として挙げられるのは、職場の人間関係、上司との関係、職場の雰囲気、評価への不満。──いずれも、制度や給与の問題ではなく、職場に流れている「空気」の問題なのである。辞める人は、条件にではなく、空気に背を向けて去っていく。この事実を直視できるかどうかが、離職問題に向き合う出発点になる。
ーグーグルが十年かけて突き止めた「人が定着する組織の唯一の条件」
職場の空気と組織のパフォーマンスの関係については、世界で最も有名な研究のひとつに、グーグル社が二〇一二年から実施した「プロジェクト・アリストテレス」がある。同社は、社内のおよそ百八十の高業績チームと低業績チームを徹底的に比較し、何が両者を分けているのかを四年がかりで分析した。当初、研究者たちはチームメンバーの学歴や経験、性格の相性、リーダーの資質といった要素が成果を分けていると想定していた。しかし、いくら統計を取っても、それらの要素から有意な差は出てこなかった。
最終的にグーグルがたどり着いた結論は、たった一つの要素だった。「心理的安全性」である。ハーバード大学のエイミー・エドモンドソン教授が提唱したこの概念は、平たく言えば「このチームでは、思ったことを口にしても、無知だと思われたり、罰せられたり、笑われたりしない」と感じられる空気のことを指す。発言しても安全だと感じられる空気のあるチームでは、新しい提案が生まれ、ミスが早期に共有され、メンバー同士が学び合う関係が育つ。一方、その空気が欠けたチームでは、誰もが沈黙し、本音を飲み込み、やがてその場から静かに離れていく。エドモンドソンらの後続研究では、心理的安全性の低い職場では、離職率が顕著に高くなることもデータで示されている。グーグルが多大な時間と資源をかけて突き止めたこの結論は、空気こそが組織の生死を分ける経営資源だという事実を、明確な裏付けとともに示すものとなった。
ー日本の現場で起きている「静かな逃走」という現象
この研究結果は、日本の職場にとって、さらに深刻な意味を持っている。米ギャラップ社が毎年発表する世界エンゲージメント調査において、日本の「熱意ある社員」の比率はおよそ五パーセント前後で推移し、調査対象国の中で長らく最低水準に位置している。残りの大多数は、心ここにあらずの状態で日々出社している。これは、まだ離職届を出していないだけで、心はすでに会社から離れている「静かな逃走」の予備軍と言ってよい。
ある製造業の経営者から伺った事例が示唆に富む。社員三十名ほどの同社では、過去二年のあいだに若手が立て続けに退職した。社長はその都度、退職面談で本音を引き出そうと努めたが、誰一人として職場の空気そのものについて語る者はいなかった。ところが半年後、退職した社員のひとりと街で偶然再会した際に、ようやく本音を聞くことができたという。「あの会社では、何を言っても受け止めてもらえないと感じていた。提案しても流され、ミスを報告すれば責められる。だから次第に何も言わなくなり、最後は何も感じなくなりました」と。社長はこの言葉に深く打ちのめされたという。離職の原因は、自身が信じ込んでいた「給与の低さ」でも「業務のきつさ」でもなく、社員が本音を出せない空気そのものにあったのだ。辞めた社員は、辞表を出すずっと前から、心の中で静かな逃走を始めていた。
ー空気は、最も費用がかからず、最も効果の高い離職対策である
ここまで見てきたとおり、離職を止める鍵は、給与でも、福利厚生でも、人事制度でもない。職場に流れている空気そのものである。グーグルの十年にわたる検証、エドモンドソンの理論的枠組み、日本の現場で繰り返される実例、そのいずれもが同じ結論を指し示している。それにもかかわらず、多くの経営者が、空気の重要性を十分に認識できていない。なぜなら、空気は数値で測れず、決算書にも載らず、目に見えないからである。広告予算や給与水準のように比較しやすい数字に意識が向く一方で、最も影響力のある資源が後回しにされてしまう。
しかし幸いなことに、空気を整えるのに巨額の投資は必要ない。社員の発言を遮らずに受け止める姿勢、ミスを責めずに学びに変える対応、失敗を許容する文化、感謝を口にする習慣。こうした日々の小さな積み重ねが、心理的安全性という空気をつくり、社員の心を組織につなぎ止めていく。経営者にとって、これほど費用対効果の高い離職対策は他に存在しない。
今日、貴社の職場には、社員が安心して本音を出せる空気が流れているだろうか。その問いに正面から向き合うことが、人が辞め続ける会社から、人が残り続ける会社へと変わるための、最初で最大の一歩となる。
ー勝田耕司
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