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No.066 危機を機会に  新型コロナウイルスに負けない経営

SPECIAL

クライシスマネジメント(想定外の危機への対応)コンサルタント

株式会社イージスクライシスマネジメント

代表取締役 

経営陣、指導者向けに、クライシスマネジメント(想定外の危機への対応)を指導する専門家。海上自衛隊において防衛政策の立案や司令部幕僚、部隊指揮官として部隊運用の実務に携わる。2011年海将補で退職。直後より、海上自衛隊が持つ「図上演習」などのノウハウの指導依頼を受け、民間企業における危機管理手法の研究に着手、イージスクライシスマネジメントシステムの体系化を行い、多くの企業に指導、提供している。

新型コロナウイルス感染の実態

新型ウイルスの猛威は勢いを止めることができずに、世界では爆発的感染を引き起こし、日本でもギリギリの攻防が続いています。このため、政府は4月7日、特措法に基づく緊急事態宣言を行いました。

この問題について私は感染症の専門家ではありませんので直接言及することは避けていますが、危機管理の専門家として観察するとどのような点に気が付くかという点については別にコラムを掲載しておりますので、興味のある方はそちらをご覧いただきたいと思います。(専門コラム「指揮官の決断」第179回~第183回 https://aegis-cms.co.jp/1909  https://aegis-cms.co.jp/1915  https://aegis-cms.co.jp/1931  https://aegis-cms.co.jp/1937  https://aegis-cms.co.jp/1943 )

本稿ではいかにして現状に対応するのか、そして次の戦略をどのように策定していけばいいのかについて考えます。

まず、いかにして現状に対応していくのかという課題について考えます。この際、現状を正しく認識しなければなりません。
 3月15日、米国の感染者は約3000人でした。フランス、ドイツは約4500人、スペインは4200人、イタリアには15000人の感染者がいました。同日、日本は約800人の感染者を出して大騒ぎをしていました。
 4月8日現在、米国の感染者は40万人に迫っています。半月で130倍です。フランスは11万人 24倍、ドイツは10万7千人 23倍、スペインは14万人 35倍、イタリアは13万5千人 9倍となっています。翻って日本は4000人、5倍です。
 イタリア以外の諸国で感染が目立ち始めたのは3月に入ってからであり、ほぼ1か月で米国は40万人、それ以外の国も10万人以上の感染者を出したことになります。一方の日本は欧米各国が感染症と戦い始めた3月上旬にはすでに1か月間にわたって感染症と戦い続けていました。
今日現在、各国が3月中旬から都市封鎖を始めて半月経っていますが、日本は緊急事態宣言を行ったものの、欧米のような都市封鎖は行っていません。

日本の感染者数をどう評価するか

なぜ欧米に比べて日本の感染者数の増加は抑制されているのでしょうか。その理由が分かれば、今後日本が爆発的感染を起こすのか、それともこのまま耐えていけば終息を迎えるのかが分かるはずです。
 ところが、誰に聞いてもその理由が分かりません。日本人の生活様式が、自宅には土足では上がらない、毎日入浴するなど衛生観念を育ててきたという説明もありますが、1月下旬から2月上旬にかけて日本にいた莫大な数の中国人観光客の数を考えると説得力に欠けます。

最近有力になりつつある説は、日本人の90%が摂取しているBCGによる免疫の効果であるということです。
これは厚生労働省のウェブサイトに掲載されている感染者数の内訳を見ると分かるのですが、実は国内感染者のうち日本国籍を持っている感染者は6割であり、残りは外国籍であったり、国籍を確認しなければならない人たちで占められていること、日本の感染者数の増え方が欧米各国に比べて極端に緩やかであることなどなどから有力視されている見解です。
この見解が有力であるとみられている根拠は、BCGの接種をしているポルトガルと摂取していないスペインの感染者数が10倍の開きがあることです。このBCGワクチンが、新型コロナウイルスの感染を完全には防ぐことができないまでも、体内の免疫力を高めているのではないかとみられています。

PCR検査を抑制的に行ったことにより病院に検査を希望する人が殺到しなかったことが初期の感染者を増やさなかった原因であることも間違いないようです。韓国やイタリアはそのようなやり方を取らなかったので、いきなり感染者の爆発的増加が起きました。
私も検査をむやみやたらにやってもあまり意味はないという説明を別稿でしています。(https://aegis-cms.co.jp/1947 )

この騒ぎの間にやっておくべきこと

ただ、それにしても1月下旬から2月上旬における日本にいた中国の観光客の人数を考えると、現在の日本の感染者数の少なさは奇跡としか言いようがないように思います。
 現在、日本の医療態勢は何とか持ちこたえていますが、その能力を超えた感染者が発生すると重篤患者の治療ができなくなって、致死率が跳ね上がることは間違いがないので、ここ数週間は社会全体で感染爆発を抑えるための我慢をしなければなりません。

したがって、企業がこの間何ができるかと言えば、とにかく一歩踏みとどまり、態勢立て直しの準備を粛々と行うことであるということができます。逆に言うと、この期間にしっかりと準備せずに出遅れると、それは致命的な遅れをもたらすおそれがあるということです。

これが経営にとって非常に恐ろしいのは、せっかくこの自粛続きの期間に生き残ったとしても、準備が無いと経済活動の再開に乗ることができずに息絶えてしまうことになるからです。他の企業が順調に回復していくのに自分の会社だけが取り残されていくのは大変つらいことです。

なぜそうなるのでしょうか。
自粛が続いている間、経済活動が全般に止まっていますので、競合各社も同じ条件下におかれます。しかし、事態が終息して経済活動が再開されると、本格的な競争が始まります。その際、満を持してスタートラインについた走者と、ろくなウォーミングアップも行わずにスタートラインについた走者のどちらが勝つかといえば結果は歴然としています。
 そのウォーミングアップは早ければ早いほどいいのです。
理由は中国にあります。

この新型ウイルス騒ぎは武漢ウイルスと呼ばれるとおり、中国に端を発する感染症騒ぎで、中国は実に8万人の感染者と3千人の死者を出しました。しかし、4月初旬の時点で欧米各国はより深刻な被害に見舞われ、中国の感染者数や死亡者数が目立たなくなりました。もともと中国は総人口の桁が違います。同じ数の感染者や死亡者を出してもダメージの大きさが異なります。つまり、8万人の感染者も3千人の死亡者も中国にとってはたいした打撃ではないはずです。しかも、中国は早々と3月中旬には終息を宣言しています。

さらに中国のように中央集権的な国では経済活動を計画的重点的に行うことができるというメリットもあります。
 つまり、このパンデミック終息のあと、世界経済は中国の一人勝ちになる可能性があります。その中国の復興は、まだ米国が騒ぎから抜け出す前に、ものすごいテンポで行われるはずであり、それに乗り遅れると大変なことになります。

ではどのように戦略を立案すべきかということになります。
 この度の騒ぎで最初に最も打撃を受けたのは、中国や韓国を主要な顧客としてきた観光をはじめとするサービス業であり、次いで中国にサプライチェーンを求めていた製造業、中国向け輸出を行っていた企業です。そして自粛が要請された結果、ディズニーランドを筆頭とする娯楽や外食などのあらゆるサービス業が打撃を受け、さらにその波及効果として経済全体が弱体化しています。

このことから得られる教訓は、バブルがはじけた際に得られた教訓とまったく同じものです。私たちは1990年1月に株価の暴落が始まった時に得られたはずの教訓を、のど元過ぎて30年経って完全に忘れ去っていたものとみえます。
 つまり、空前の日本ブームに乗って外国人観光客に依存した態勢を作り、そのリスクをヘッジすることを忘れていたのでしょう。

バブル崩壊から学ぶもの

私はバブル崩壊後に業績をしっかりと伸ばしている経営者を何人か知っています。
一方で、学校の同期生でバブル時に数年で年収を何倍にもした挙句、バブル崩壊後リストラを担当して、その結果自らも職を失った者やストレスに起因するであろう癌のために亡くなった友人が何人もいます。

このバブル崩壊後に業績を伸ばした経営者に共通しているのは、バブル期にじっと耐えて、事業の多角化や不動産への投機などでの業績アップを図らなかったことです。確かにそれらの会社は社会全体の好景気に支えられて業績は右肩上がりではありましたが、極めて抑制的な上昇カーブであり、社長の年収も含めて数年で何倍にも給料が上がるなどと言うことはありませんでした。「うちの社員は、世の中がバブル景気に沸いていたことも、それが弾けたことも知らないかもしれませんね。」と苦笑されていたのを覚えています。

バブル景気の間、緩やかに業績をアップさせた彼らの会社がなにをしていたかというと、事業の拡大を図ったのではなく、借り入れの減少と社内留保の増大でした。そして、さらに驚いたことに、不動産に投資するのではなく、研究開発に投資したり、社員を留学させたり、社員の子供たちの奨学金制度を作ったりしていたのです。

バブル崩壊後、彼らの会社がどうなったでしょうか。
 不動産も株も持っていないので失ったものはありませんでした。余剰人員も抱えていないのでリストラをする必要もありませんでした。そして競合が次々に消滅してしまった市場における優位をじわじわと獲得していったのです。

確かに、バブル崩壊当初は大幅な受注減により業績は悪化していましたが、借入金が大幅に少なくなっていたことと社内留保を増やしていたおかげで銀行の融資は続き、運転資金に困ることはありませんでした。バブル景気時に散々融資を持ちかけてきた銀行も、バブル崩壊後にその堅実な経営を評価し直したのです。

この結果、多くの企業が数年間のバブル景気に沸いて給料を数倍にした挙句、バブル崩壊後に倒産やリストラ、自殺などの悲劇に見舞われたの対して、彼らの会社はバブル崩壊後の30年間も堅実な発展を続け、ここ数年の人材獲得難の折も、従業員の子供に対する奨学金制度により大学に進学したり留学したりした子供たちが新入社員として入社し、優秀な人材を獲得し続けています。

再スタートのための戦略の立て方

この経営者たちの計画の立て方にはある傾向が見られます。それは弊社でご指導している意思決定の方法とまったく同じなので驚いています。

彼らはまず、自分たちの会社の使命は何かというところから議論を始めます。そして、その使命を果たすための長期計画(10年計画)を立案し、その長期計画に基づいて中期計画(5年計画)を立案し、そこから年度業務計画を起こしていきます。そして、その中に書き込まれる事業はすべて会社の使命達成に寄与するかどうかに照らして決定されていきます。たとえ、収益が見込まれても使命達成に寄与しない事業には手を出さないのです。

その結果、彼らの会社はバブルの景気の良かった時に得られた利益を不動産や株への投資に回さず、研究開発や子弟の奨学金制度などに使っていたのです。
 この長期計画や年度業務計画の策定の仕方については、今後折に触れて当コラムでも解説してまいりますし、弊社のコンサルティングでも丁寧に説明し、実際の計画立案のお手伝いをさせて頂いています。

要するに、この時期を感染の終息後に起こる凄まじい市場再分割競争に立ち向かうための戦略策定を行う絶好の機会ととらえ、自分たちの使命は何かという根本的なところに立ち返る絶好の機会として使うことをお勧めします。
そのような「そもそも論」をじっくりと検討できる機会はなかなかありません。これこそ危機を機会に変えていく第一歩になるかと考えます。

今回の世界的な危機を、単に「大変だぁ!」とうろたえるのではなく、経営環境の激変であると捉えることが必要です。経営環境の変化にはピンチだけではなくチャンスも当然含まれています。その変化に早く対応した者が勝者となるのであって、ただうろたえて、政府の支援策がどうなるのかを心配しているだけの経営者には毅然とした対応はできません。

しっかりとご自分の事業の目指すものを見据え、使命を分析し、そのための戦略を策定していくという態度を持つだけも、ただうろたえているだけの競合他社の一歩先に立つことができます。
 どうか、いかなる事態にも毅然と対応できる経営者として、この未曽有の危機を乗り切って頂きたいと思います。

戦略策定の方法について、どうしたらよいのか戸惑ってしまうという経営者の方には、ご相談に応じております。ご遠慮なく弊社お問い合わせ蘭からお問い合わせください。


株式会社イージスクライシスマネジメントウェブサイト https://aegis-cms.co.jp/
お問い合わせ:https://aegis-cms.co.jp/contact 

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