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造成地あるある(その4)希望の広さに分筆2題

SPECIAL

住宅・工務店コンサルタント

株式会社 家づくりの玉手箱

代表取締役 

住宅・工務店コンサルタント 。規格住宅を高付加価値化させ、選ばれる工務店となる独自の展開手法「シンボルハウス戦略」を指導する第一人者。
営業マンとして自分が欲しいと思わない住まいをお客様にお勧めする仕事に疑問を持ち、ある工務店でどうしても家を建てたくて転職、鹿児島へ 。15年間で173棟の住まいづくりをすまい手目線で担当。そこから編み出された、選ばれる工務店となる具体戦略を、悩める中小住宅会社ごとに実務指導中。

造成地あるある(その3)高低差3題 からつづく

 

 

造成地での『土地みたて』をお手伝いしていると、かかわるタイミングには様々なケースがあります。例えば、まだ造成未着工で山のままの場合や、日々形状が変化してゆく土木工事中といった場合、造成工事は完成していて完了検査待ちといった場合などです。

お客様と二人三脚で土地探しをしていると、徐々に不動産屋さんと顔見知りになっていきます。そうすると、運良く分筆前の造成地に出会うこともあったりするのです。

なぜ「運良く」なのか?それは、希望の面積や形に切ってもらえる可能性があるからです。もちろん、通常はそのような交渉ができるケースは稀だと思います。しかし、種々の「事情」が重なった際には、欲しい場所で欲しい面積や形に切ってもらえる事もあるのです。

今回はそういったレアで幸運な事例を2題ご紹介します。

 

①地主さん還元地のある造成地にて

 

Kさんは離島に転勤されていて「鹿児島市内勤務に復帰の際には新しい家に住みたい」といったご希望のお客様でした。かれこれ10年以上シンケンの家の見学歴があり、私よりもずっと「先輩」でした。

『土地みたて』の効用を十分熟知されており「造成地は出来上がる前に吟味すべし」とのポリシーをお持ちの「玄人」でした。先輩から担当を引き継がせてもらったばかりの私でしたが、離島にお住まいのKさんの目となり耳となる役割を、任せてもらうことになりました。

複数あたってみた中に造成中の土地が候補にあがり、造成計画図をもらって現地確認にも赴きました。候補になった土地は造成エリアの端で、東と南の隣接地が開発エリア外の土地でした。また、その開発エリア外の隣接地は法面で対象の宅地よりも下がっていっている状態でした。

土地の形状と所有者や道路の状況から客観的に見て、隣接地に住宅を建てることはかなり難しいと思われました。当面は東と南の隣接地が自然のままだとすれば、とてもよい買い物になりそうでした。

 

 

↑検討当初は隣接地は法面で安全視していましたが。。。

 

 

↑突然宅地化されることに(汗)

 

 

しかし、アクシデントがありました。不動産業者さんから最新版としてもらった造成計画図をなにげに見てみると、南隣に忽然と宅地が現れていたのです。順調に土地探しを進めていたKさんと私にとっては『ゾンビ』のような存在でした。

これがまた微妙な土地でした。面積は50坪以上ありますが、変形していて接道部分が小さい土地です。明らかに団地内の他の土地とは違っていて、思いつきで追加されたような雰囲気が漂っています。

変形地で建てられる住宅の形がかなり限定されますが、建築出来ないわけではないのでKさんとしては、あてにしていた南側が塞がれる危険性が出てきました。Kさんには別の土地を検討することも提案しましたが「ひょっとしたら、長い間建たないかもしれない」と、あきらめきれないご様子でした。

不動産屋さんの担当者に尋ねてみても「確認してみます」と言ったまま、なしのつぶてでした。ますます怪しい気がしましたが、この団地は元々の土地の所有者に俗に言う「地主還元地※」として、いくつかの完成宅地を渡す約束になっているようでした。

※地主還元地:大きな開発をする場合元々その土地の一部を所有していた地主さんに造成完了した宅地の数区画を無償で渡す土地。 土地買収の時に造成会社が地主さん対策で折衝する方法の一つ。

この件で不動産屋さんとやりとりが増えたことで「新事実」を小耳にはさむことになりました。「この団地では地主還元地が複数あって、実は引き渡す還元地の最終的な面積でモメている」との事でした。その影響で分筆が進んでいなくて「希望の面積があれば今なら多少は対応できるかも」とのことでした。

この話を受けて、すぐにKさんと相談しました。結論は、ダメ元で当初の分譲予定の面積より少し大きくしてもらう要望をすることにしました。これによって敷地の南北方向が大きくなり、南隣の『ゾンビ宅地』に建物が建つ想定でのプランが成り立つようになります。

不動産屋さんに打診したところ、あっさり「いいですよ」と快諾してもらいました。晴れて、この土地で新築の運びとなりました。

 

 

↑完成した問題の宅地(右隣が『ゾンビ宅地』)

 

 

②設計事務所案件キャンセルのあった造成地にて

 

鹿児島市内には地形的に桜島を望む斜面は多く存在しますが、ほぼ開発し尽くされています。かといって古家つきの物件は「解体費」が必要になりますし、何より事前の地盤調査などが出来ません。地盤の強度は土地価格には盛り込まれることはほぼありませんが、実際には総予算に大きく影響します。

更地の場合、売主さんにお願いして事前に地盤調査を行わせてもらうこともありました。もちろん費用は買主さん持ちです。万一、地盤が著しく弱かったりして買主さんが購入を見合わせるようなことがあっても、売主さんとしては損失になる訳ではないので意外と承諾をもらえるものでした。

契約前に地盤調査をお願いする場合、結果は売主さんにも報告するようにしていましたが、どちらかというと仲介業者が難色を示すことが多くありました。体質的に「値切られるネタにされるのではないか」という心配をされる向きが強いようでした。

完成見学会はほぼ「皆勤」というWさんは『桜島ビュー』絶対の土地探しをされていました。そうなると、まずは新たな造成地をあたることになります。どうしても土地価格は高めになりますが、資金計画の精度を上げることができる利点はあります。

多数の候補地をあたった中で桜島を望む「絶景ポジション」が造成されている場所を見つけました。高級志向で土地価格もかなり強気です。総予算の中で土地代がかかりすぎてしまい、建物予算が不足してしまいそうでした。

しかし、Wさんにチャンスが訪れました。その団地で造成前から先行して予約が入っていた設計事務所案件がキャンセルになったというのです。その計画は法面の擁壁工事をせずに山のままで広い面積を施主が買い上げ、設計事務所の設計で地下室とともに擁壁工事も行う計画になっていました。

その資金が先に入金される予定で走っていた造成主は、その場所の擁壁工事もしないといけない事になり少々パニクっている様子でした。そこにタイミングよくWさんの話を持っていったので「欲しい面積で切ってあげるから吉岡さん何とか決めてちょうだい!」ということになりました。

その土地はかなりの高低差があるにもかかわらず、もたれ式擁壁(※もたれ式擁壁については 造成地あるある(その2)をご覧ください)で土留めがされているので、平坦な有効部分は細長くなっていました。予定通り、地下室つきの豪邸が建てられる際には垂直擁壁での計画であったものと想像できます。

設計事務所案件がキャンセルになったおかげで、

 

①欲しい面積で分筆
②給水・排水・ガスの引き込み
③曖昧になっていた隣接地との境界の擁壁追加
④地盤の一定の地耐力水準の確保

 

といった破格の条件つきで購入できることになりました。

設計事務所案件のキャンセルが、よほどのショックだったのでしょう。通常は地盤に対する一定の地耐力水準の確保といった条件を受け入れてもらえるケースは稀です。しかし、造成主の社長は土木工事と構造に明るい方で「地盤補強を要するような造成地を作ったことは一度もない!」と豪語されていて、ダメ元で言ってみたらこれまたあっさり「快諾」だったのです。これで何とか予算内で進められる目処がつきました。

 

 

↑検討当初は売約済みでした(設計事務所案件の地下室付きの豪邸)

 

 

↑豪邸計画がキャンセルになってお声がかかり(まだ分筆前の状態です)

 

 

↑希望の面積で分筆してもらうことに!

 

 

 

 

↑擁壁完了後の下の道路からの様子(豪邸の予定だった部分が新しいです)

 

 

↑擁壁完了後の上の道路からの様子(あわてて引き込んだ給水・排水・ガスの3色の杭が見えます)

 

 

↑2階からはお約束の『桜島ビュー』がバッチリでした

 

 

お客様との土地探しは本当に「悲喜こもごも」です。また、一生の買い物かもしれませんので責任重大です。しかし、そこに『土地みたて』の技術があるからこそ挑めるのです。「わからないから」「責任持てないから」とどんどん逃げていくのと、「一生に一度だから」「自分が買うのだったら」と向き合っていくのとは、後に雲泥の差になっていくことは、言うまでもなく明らかです。

問題は工務店経営者に、そういった「経験」をさせて人を育てる「度量」があるかどうかです。

 

 

社長の会社では今の時代の現場で、次の時代の人づくりをされていますか?お客様からいただく「機会」を「面倒」だと考えたりしていないでしょうか?

 

 

造成地あるある(その5)三角形の土地3題 につづく

 

 

 

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