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『職人』考

SPECIAL

住宅・工務店コンサルタント

株式会社 家づくりの玉手箱

代表取締役 

住宅・工務店コンサルタント 。規格住宅を高付加価値化させ、選ばれる工務店となる独自の展開手法「シンボルハウス戦略」を指導する第一人者。
営業マンとして自分が欲しいと思わない住まいをお客様にお勧めする仕事に疑問を持ち、ある工務店でどうしても家を建てたくて転職、鹿児島へ 。15年間で173棟の住まいづくりをすまい手目線で担当。そこから編み出された、選ばれる工務店となる具体戦略を、悩める中小住宅会社ごとに実務指導中。

イタリアの「職人」たち

 

FENDIというブランドご存知でしょうか?イタリアを代表する世界的ファッションブランドで、現在はフランスのLVMH(モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン)グループに属しています。久しぶりにアパレル時代の先輩と食事していたら「表参道でエキシビションがあるよ」と教えてもらい、見に行ってきました。

そのエキシビションではフェンディのバッグ「バゲット」を、イタリアと日本の職人たちがそれぞれの技法を活かし、リデザインした特別な「バゲット」を展示してあり、本国の職人さんに制作過程を実演してもらったり質問したりできるのが、先輩からのオススメポイントでした。

会場に行ってみると、超絶技巧ぞろいのカスタム「バゲット」が展示してあり、側で職人さんが通訳さんと一緒に装飾用パーツをデモンストレーションとして作っていました。会場にいた職人さんには通訳がひとりずつ付いていました。みんなイタリアのおばあちゃんです。手を動かしながら気さくに質問に答えてくれました。

共通して言っていたのは「好きで楽しくてずっと続けていたら超絶技巧になっていた」みたいなニュアンスでした。そして、何より自らの技術を何のためにどう使うのか?をよく理解している感じがしました。「いまなら触ってもいいわよ。完成しちゃうと数百万円のバッグになっちゃうから。今のうちよ💕」みたいなことを言って、製作中のパーツに触らせてくれました。

 

 

↑FENDI の エキシビション の作品群(右側下から2番目の作品作者と話せました!)

 

↑「レジェンド職人」は明るいおばあちゃん達でした

 

↑制作途中のパーツを見せてくれました(丁度どんぐりを作っているところでした)

 

↑イタリア各地に「超絶技巧」が息づいているのだそうです

 

 

日本の職業的「職人一覧」

 

日本国内での「職人」の今を知るのに技能五輪の対象種目があります。技能五輪全国大会は、青年技能者の技能レベルの日本一を競う競技大会です。「職人」と呼ばれる人たちの職種は実際には数多ありますが、技能五輪の対象職種は以下のようなものです。技能五輪は世界大会もあって、日本代表は多くの種目でメダル獲得をしています。

 

 

↑第61回技能五輪全国大会の競技職種(黄色は世界大会と共通の職種)

 

伝統的な加工技術の基本に加えて新しい分野が混在しています。技術継承と求職ニーズとが入り混じった結果でしょう。競技職種の一部は世界大会代表選抜も兼ねていますが、世界大会の競技種目は国内のものとは構成が違っています。このあたりが世界とのズレなのかもしれません。

 

 

↑第46回技能五輪国際大会の競技職種(黄色は国内大会と共通の職種)

 

 

 

ドイツの「職業教育」に見る世界的変化

 

ドイツは、世界でも「職人」としての職業教育を特に重んじ発展してきた国です。ドイツの教育制度は、6歳で入学して10歳までの4年間が基礎学校(日本の小学校にあたる)そして10歳(5年生)には将来の進路を選んで「エリートコース、専門職コース、就職コース」に分かれて進学します。学校ごとのレベル差はあるとは言え、日本のように一律に上の学校に進学するのとは異なる仕組みです。

ただ「就職コース」と言っても15歳以降は職業学校に就学しながら実際に企業で働き技術を学びます。これは「デュアルシステム」と呼ばれるドイツ独自の制度で、子どもたちは数ヶ月単位で学校と企業に交互に通って理論と実践を身につけるそうです。「マイスター制度」で有名なお国柄ですから、早くから進路選択をして社会に出るまでの「職人」としての修行をしっかり行える環境になっています。

日本においてもこの「デュアルシステム」を参考にした制度が1980年代に導入されましたが、定着しませんでした。「デュアルシステム」は長期的な雇用を前提とした制度でしたが、①受入企業による教育内容の偏りや欠陥、②日本の労働市場で急速に非正規雇用やパートタイム雇用が増加したこと、③少子高齢化やグローバル化の進展により受入企業の労働需要が急激に変化したことなどがその要因です。

労働市場の変化はドイツ国内においても同様に見られます。大学進学率が大幅に増加し「デュアルシステム」希望者が減ってしまいました。優秀な人材が大学に流れてしまい、希望者のレベルが企業側の受け入れ水準に満たないことも多くなっているそうです。古くから長期的展望で将来への技術育成を重んじてきたドイツ社会においても職人育成の仕組みが崩れ、短期的な労働需要ばかりに追われる方向になっているようです。

 

 

↑日本の中学校にあたる5年制の「ハウプトシューレHauptsschule」(昔は職人さんを目指す子どもたちばかりの学校でした)

 

 

世界的に職人育成の役割は「集団(社会)」から「個人(企業)」へ移行しているようです。自社の顧客に評価される仕事を継続するためには、社長自らがスタッフ(職人)を導いて行かねばならないということです。

そう言われると「重たいなあ」とおっしゃる社長が多いのですが、ここで見方を変えて考えてみて下さい。社会全体がすぐ儲かる方向へ進みがちになっています。職人の技術教育が十分なされない社会では、自社が教えることで「選ばれる独自性」を獲得しやすくなっているとも言えます。

そして「技術教育」と言いましたが、社長がその中で教えるべき内容は技術そのものではなく「技術を向かわせる方向」です。目的をしっかり持てることは、現代では大変価値のあることです。これは会社の今後の発展を左右する基本事項なのです。

 

 

 

社長の会社では、採用後の技術トレーニングをされていますか?その際に顧客が、自社の製品のどのような点を評価してくれるのか伝えていますか?

 

 

 

 

 

 

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