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宿の『いごこち』考

SPECIAL

住宅・工務店コンサルタント

株式会社 家づくりの玉手箱

代表取締役 

住宅・工務店コンサルタント 。規格住宅を高付加価値化させ、選ばれる工務店となる独自の展開手法「シンボルハウス戦略」を指導する第一人者。
営業マンとして自分が欲しいと思わない住まいをお客様にお勧めする仕事に疑問を持ち、ある工務店でどうしても家を建てたくて転職、鹿児島へ 。15年間で173棟の住まいづくりをすまい手目線で担当。そこから編み出された、選ばれる工務店となる具体戦略を、悩める中小住宅会社ごとに実務指導中。

「空気」の質

 

旅行や出張の際に、宿泊先で最も感じることは「空気」の質です。チェックインして部屋に入ると、新しいホテルでは石油製品の匂い、古いホテルではカビやホコリのブレンドされた複雑な匂いがしてきます。「安い室料で文句言うな」と言われそうですが、それほど鼻のきかない私でもつらいのですから、尋常なレベルではありません。

最近では、安い部屋でも空気清浄機やスプレー式除菌消臭剤が置かれています。この2点セットを置いておけば「免責」というような風潮は、どうもいただけません。これは「親切」のようですが「うちは不潔ですよ。これでごまかしてください」と言われているようでゲンナリします。決して潔癖症ではありませんが、有料で外の空気より劣悪な空間に閉じ込められるのはやはり歓迎はできません。

除菌消臭剤は、大腸菌と黄色ブドウ球菌の2種類だけをを殺菌して100分の1にできれば『99%除菌!』と記載できます。その他の菌やカビ類・ウィルスへの効果は検証しなくて良いことになっているようです。含有している除菌成分は農産物由来のものもありますが、精製された化学物質です。急性毒については安全とされていますが、少量を長期的に接触・摂取した場合の遅延性の影響は実際のところ不明です。

小型の空気清浄機が普及しました。部屋の空気をきれいな状態に保ってくれるといいますが、空気がきれいになるぶんエアコン同様、機器の中には汚れがたまりやすいという特徴があります。空気清浄機は吸い込んだ空気をフィルターに通します。空気中のほこりやウイルス、カビの胞子などを絡めとることで、フィルターを通った後の空気をきれいにしているのです。

そのため、空気はきれいになってもフィルターには汚れがどんどんたまります。汚れた空気清浄機を使い続けると、きれいにしたはずの空気にカビなどのウイルスが放出されてしてしまいます。メーカーサイドではこまめに清掃する前提の機器ですが、取扱説明書を見ると清掃箇所の多いこと。客室にある空気清浄機を見る限り、取扱説明書の通りの頻度・箇所を守って清掃しているような気がしません。

 

↑空気清浄機の清掃箇所(シャープ株式会社WEBサイトより)

 

 

近年、比較的新しいビジネスホテルでも「空気」の劣化を感じることがよくあります。これはどうしてなのでしょうか?新しい高層の建物など、客室の窓が開閉できない建物が増えています。宿泊時、具体的には以下のようなことが気になります。

 

 

■部屋に入った途端、複雑なホコリ臭に襲われる!

 

換気できない環境はつらいので、宿泊先を選ぶ際にあえて古いところにする場合もあります。しかし、古いところは窓を開けて換気できるものの、下手をすると強烈な臭いに襲われる場合もありますので、一種の賭けのようなものです。

裏目に出た時、それは部屋に入った途端判明します。ひどい時はフロントでのチェックイン段階で悪い予感がします。渡された鍵番号の部屋では、窓を開けて換気してもどうにもならないくらいのホコリ臭が待っているのです。臭いは、原因物質の分子が鼻の中の嗅粘膜の粘液に溶け込み、電気信号となって脳で感じられます。自分の洋服にも移ってしまうのではというぐらいの臭いでしたから、それは凄まじい放散量なのだと思います。(書いていて気持ち悪くなってきました)

 

 

■湯船につかると生乾き臭がする!

 

一般的なホテルのお風呂はユニットタイプでシャワーカーテンが付いています。トイレや洗面が一部屋になっていて、どちらかと言うと湯船にお湯をためるスタイルではないのかもしれません。それでも冬場などはゆっくりお湯につかりたいのが日本人です。大浴場があるホテルなら嬉しいのですが、やはり少数派です。

「狭いけどまあいいか」とお湯をためて浸かってみると、ぷーーんと生乾き臭がする部屋の多いこと。慌ててシャワーに切り替えることもしばしばです。ユニットバスは各パネルの裏側は普段の掃除ができませんので、カビや菌がいっぱいなのです。そもそも、ほとんど換気量のない状態でシャワーカーテンなど吊りっぱなしで不衛生極まりないのがホテルのお風呂環境なので、生乾き臭は免れないのかもしれません。(繰り返しになりますが、私の鼻は鈍いほうです。鼻の効く人は湯船につかるのは無理でしょう)

 

 

■全館空調のファンをオンにするとくしゃみが出る!

 

おそらく、ダクトからハウスダスト的なものが飛び出してくるのだと思います。ダクト内の空気はフィルターを通して室内へ送られるので空気質には影響しないという話をする人もいますが、そんなことはありません。全館空調のフィルターは圧力損失を抑えるために目が粗く、一定量の埃は通過します。

特に汚れたダクトを通った空気はほこりを多く含んだままフィルターを通過しやく、空気質を維持するには頻繁な清掃が必須です。しかし頻繁な清掃は経費増大により利益を圧迫しますし、何より有効な清掃方法が存在しない設計も多く見受けられます。

ビジネスホテルなどに滞在中、ほぼベッドかデスクあたりにいます。そこへ向かって冷風なり暖房なりが直撃するようなポジションに空調吹出口が設置されている客室がほとんどです。全館空調の場合、吹出口に指を突っ込んで羽の向きを変えてみますが、ほとんど風の向きは変わりません。

 

 

↑必死の努力虚しく風向きは変わりません(決して中は見ない方がいいです。。)

 

 

規模の大きなホテルに多い全館空調はホテル全館で一括管理されているため、この客室は冷房、この客室は暖房と個別に設定はできない場合がほとんどです。ON・OFFができればいいところです。最近ホテルチェーンの多くでは各客室に個別エアコンが設置されていて、各自空調の設定ができるような部屋が増えています。(これでやっと普通の住宅なみです)

そして、せめてということで以下のような要望を持つことが多いです。(古い宿泊施設では標準だった内容ですが。。。)

 

■窓を開けて部屋の換気をしたい! ■UBに換気スイッチつけて欲しい!

 

私本人は花粉症ではないので、あっさりと「窓を開けようよ窓を」と思ってしまうのです。

 

 

ユニットバス ↑ビジネスホテルの定番ユニットバス

 

 

 

「設備」の質

 

宿泊業には資本が必要です。先行して設備投資を行い、徐々に収益を挙げて投資を回収してからが本当の儲けになります。長期戦です。最近のように政府による活動自粛の呼びかけなど、大きなイレギュラーがあると大幅に収支が狂ってしまいます。

宿泊者が少なくても一定のランニングコストはかかってしまいますので、昨今の電気代の高騰も大きく影響しているはずです。そう考えると少々の不便も仕方ない気もしますが、普段の生活レベルが良くなった現代では宿泊時の機能性は確保して欲しいものです。

設備関係はすぐに時代遅れになってしまう分野ですが、さほどコストに影響のないちょっとしたことが気になる部屋は多いものです。

 

 

■浴室の鏡がいつまでも曇っていて見えづらい!

 

浴室に鏡があるのはいいのですが、浴室でお湯を使うと鏡が曇ってしまいます。安いホテルでは曇り止めの電熱線は入っていません。窓も開かず換気量も増やせない部屋ではずっと曇りっぱなしです。少しいいホテルなら曇り止めの電熱線が入っていますが、大抵スイッチはなく電源入りっぱなしです。ひげ剃りなどで顔を近づけると鏡が熱くなっているのが分かります。しかし、年じゅう電熱線に通電しているのも、夏は暑くるしいし何とも不経済な気がします。

 

 

■デスクライトだけ光が不自然に青白い!

 

電球色の照明で何とかごまかされていた内装が殺伐と見えるので雰囲気はイマイチです。おそらく、デスクライトだけ新調した際にLEDの色に頓着しなかったのでしょう。

 

 

■湯沸かしポットのお湯がぬるい!

 

古い湯沸かしポットあるあるです。カップラーメンが所定の時間ではできないです。。。

 

 

■普通のマグカップをふたつ置いておいてほしい!

 

持ち出し用にコーヒーを多めに入れるときに、ありがたいのです。

 

 

■ドライヤーのコードをくるくるカッチリ巻かないでほしい!

 

しっかり巻きつけられたコードをほどくのが面倒な上、繰り返しの巻きつけで大抵コードはねじれています。コードに負荷がかかり破損につながるそうす。整頓して見えるように宿泊施設では巻き付けるのがマニュアルになっているのでしょうね。ビジネスホテルでもちょっと高い部屋だと布袋に入っていて、意外な場所に置いてあったりして発見するのに手間取ることも。連泊の際には、翌日もキチンと元の場所にコードグルグル巻で布袋に入れて置いてあったりします。これもマニュアルどおりなので、しょうがないのかもしれませんが。。。真似したくないルールです。

 

 

↑マニュアル通りにぐるぐる巻きです

 

 

 

「計画」の質

 

宿泊施設は不特定多数の人が利用する「特殊建築物」ですし、限られたスペースの客室ですから多くの制約を受けることは間違いありません。しかし、限られたスペースで仮の宿であるからこそ可能な限りの利便性を提供したいところです。

コストを意識してやむを得ず行なっているサービスレベルと、それほどコストに関係ないのに単に行き届いていない事とがありますが、日頃よく感じてしまう点がいくつかあります。

 

 

■物を置く場所(腰の高さの水平面)が少ないのに色々置かないで欲しい!

 

宿泊施設の客室には、色々な説明・注意・PRなどが書かれた紙や、メモ用紙とペンなどが置いてあります。可能な限りスタッフが説明しなくてもいいように工夫して増えてきたのでしょう。テレビも電源を入れるとまずはインフォメーションだらけです。これもホテルの決まりなのでしょうが、部屋に入るといの一番に「断捨離」します。(といっても捨てるのではなく引き出しなどに全部しまいます)

ただでさえ物を置ける水平面が少ないのに、色々と並べられているのはあまり歓迎できません。いけてない宿の場合は、それらがすっかりくたびれてしまっている場合もあります。使い回しもほどほどにしておかないと「繁盛していない感」の原因になってしまいます。

ティッシュのボックスなどはよく使いますのでそのまま置いておきます。料金の安い宿ではポケットティッシュのように小さなサイズのボックスにパンパンに詰めてあって、最初の取り出しはビリビリに破れて出てきます。小さいティッシュが破れてしまうと、鼻をかむのにもつらいものがあります。こういうホテルの社長は、客室でティッシュを取り出してみたことは無いのだと思います。

 

 

■寝転ぶとダウンライトがまぶしい!

 

洒落た感じを出すのにダウンライトが天井に入っている部屋も多くあります。しかし、採用されている照明器具は大抵は安価な普及品です。(高級な部屋には滅多に泊まりませんので)

チェックインして時間のある時にはとりあえずベッドに寝転んだりしますが、ダウンライトが眩しく感じる部屋も多数存在します。ベッドがある部屋、鏡がある部屋、狭い部屋ほど光源の眩しさには気を使わなくてはいけません。ホテルの客室は全ての悪条件をあわせ持っていることがほとんどなので、よほど照明器具と設置位置を吟味しておかないと失敗します。

 

 

■寝ているとベッドのシーツが絡まって煩わしい!

 

客室のベッドに入ると、かけ布団のシーツが折り込んであって窮屈ですよね。毎度、真空パックのうなぎの蒲焼になった気分がします。これは伝統的なベッドメイクの方法で「スプレッドタイプ」と呼ばれるそうです。スプレッドタイプの場合、ベッドカバーと呼ばれる掛け布団を使い回しをして利用します。人の体に触れる上のシーツ、下のシーツだけを交換するというやり方です。

いつも窮屈で寝返りもしにくいので、ベッドにもぐり込んだら最初にキック力全開で剥がしてしまいます。時折マットレスのシーツまで一緒に剥いでしまって上下のシーツが複雑に絡み合ってしまうことがあります。その際シーツなしになった掛け布団のポリエステルな肌触りはわびしいものです。

しかし、イマドキの高級宿ではベッドメイキングの傾向も変わってきています。多くでデュベスタイルが採用されています。「羽毛」を意味するフランス語「デュベ」から、「デュベスタイル」と言われるようになったとされています。デュベスタイルは掛け布団をそのまま全部シーツで包みます。そうすることで利用者は使い回し部分に触れなくて済み、清潔に利用できるのだそうです。

要するに不特定多数が利用する宿泊施設においては、シーツ以外の部分は誰かが触れた使い回し部分であるという事です。インバウンド需要に照準を置いた高級宿の標準が、外国の様式にならったスプレッドタイプではなくて、より和風のお布団に近いデュベスタイルが主流であることは何とも皮肉な感じです。

 

 

↑朝起きたらいつもシーツが「くしゃくしゃ」になっています

 

 

安いビジネスホテルで散々だったので、カプセルホテルや※ドミトリーに泊まったりすることも多くなりました。最近ではコンセプトのはっきりしたカプセルも増えています。新宿の読書カフェ風のカプセルに泊まった際には、深夜になっても眠らない若い女子だらけで驚きました。大勢がパブリックスペースに座って、みんな静かに本を読んでいて不思議な感じでしたが、全然よく眠れました。カプセルの場合パーソナルなスペースは極小ですが、トイレやシャワー、ソファやテーブルのある共用スペースは広く充実しています。そして、何よりカプセル内部を含め空気は快適です。多くの人が、行き届かないシングルルームよりも行き届いたカプセルを選ぶのです。料金が普通のシングルルームよりも高くても人気のカプセルだってあります。

 

※トイレ、シャワー等は共同である相部屋の宿。原則的に男女別の部屋になるが、男女混合のところもあります。最近のカプセルホテルはドミトリーの一種とも言えます。

 

 

↑最近のカプセルホテルは、意外といごこちで選ばれているのです

 

 

以上、文句中心になってしまいましたが、体験の中から得たものも多くあります。それは住まいにおいてもやってはいけない「べからず集」のようなものです。何事も利用者側になってみないと見えてこないのです。

 

 

 

社長は出張によく行かれますか?出先でお泊まりになられる際に「いごこち」について「俺だったらこうするけどなあ」と思われることはありますか?

 

 

 

 

 

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