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祭りと経営

SPECIAL

「信託」活用コンサルタント

株式会社日本トラストコンサルティング

代表取締役 

オーナー社長を対象に、「信託」を活用した事業承継や財産保全、さまざまな金融的打ち手を指南する専門家。経営的な意向と社長個人の意向をくみ取り、信託ならではの手法を駆使して安心と安全の体制をさずけてくれる…と定評。

「お祭りの準備で手間取ったよ」とO社長。地元の名士として、地域行事も積極サポートしています。お祭りは盛況でしたが、町内会、実行委員会は人手不足だったようです。町内会も高齢化が進んでいますし、O社長がいつまでも先頭で頑張るわけにもいきません。それとなく後継者の打診をしているようですが、なかなか引き受け手もおらず、ここでも承継問題があるようです。

 

1.3つの空洞化

コロナ禍という環境下で孤独と向き合った後だけに、お祭りというコミュニケーションの場を欲している人は多かったように思えます。近隣お祭りの人出は凄いものがありました。

この近所のお祭りでも、昔はお昼頃に山車を子どもたちが引きながら近所を練り歩き、お神輿が出ていました。夜は駅前の商店街で大人神輿を担ぐのがメインイベントでしたが、今年は山車も神輿もなく、神社の夜店だけでした。

駅前商店街に個人商店の数は減り、薬局、コンビニ、飲食店なども大手資本関係が目立ちます。住宅街も空き家が目立つようになり、気づくと更地になって、しばらくすると戸建の分譲住宅やアパートが建つ。畑や駐車場は世代交代とともにデベロッパーに売却され、マンションに変わっています。

人口は増えているのでしょうが、町内会の活動や地域の行事が往年ほど盛り上がることはありません。1960年以降に地縁、血縁が解体していく状況を社会学では「三段階の郊外化」(注)と説明しています。

①1段階目めの郊外化=団地化(1960年代)
 ・地域の空洞化
 ・家族の内閉化(専業主婦の一般化)

②2段階めの郊外化=コンビニ化(1980年代)
 ・家族の空洞化
 ・システム化(市場化と行政化)

③3段階めの郊外化=ネット化(1990年代後半から現在)
 ・人間関係の空洞化
 ・対面の減少(匿名化)

細かい説明がなくても、なんとなくニュアンスは伝わります。空洞化の流れは、地域、家族、人間関係の順番に進んでいったということですね。

失われてしまったものの多くは、元に戻りません。共同体そのもの、あるいは共同体の構成員の意識の変化により、失われていく文化、慣習、しきたりは少なくありません。我々は何を失い、何を得たのでしょうか。

2.地域の商店、同族会社に感謝

この郊外化の流れに抗っているのが、今なお残る個人商店であり、地域を支える同族会社です。街の中にポツンと残る個人商店にホッとします。目まぐるしく変わりゆく世の中で、変わらずにそこにいてくれるものに安心感を感じます。

地域行事に大手企業の協賛を得ることもありますが、その活動の中心を担うのはO社長のような企業オーナーや地元の商店主です。郊外化が進む中で、地域に根を張り、地域行事を下支えし、共同体を維持してくれている企業オーナーや商店主に感謝です。

ただ、地域を支える同族会社や個人事業も後継者をどうするか、という課題に向き合っています。この後継者問題を乗り越えると、次の後継者は共同体の維持という課題と向き合うことになります。

後継者が維持すべきは、会社という共同体であることは勿論ですが、家族や地域、業界団体などの様々なものがあります。ここでのポイントは先代が維持してきた共同体は、会社やファミリーにとって人的資本、社会関係資本の宝庫であることです。

上述の書の中に興味深い記述があります。共同体に関するリーダーシップに関する議論なのですが、企業と共同体自治ではリーダーとして求められる資質が違う(注)があります。

①合意プロセスの中に個人を<参加>させ、<熟議>を通して合意形成を図る
 ②個人の<メンバーシップ(われわれ意識)>の感度を育む
 ③これによって、国家レベルでなく、ミクロレベルで民主政を回し、共同体自治を確立する
 ④このプロセスをリードするのが「エリート(1階の卓越者)」ならぬ「2階(半地下)の卓越者」

あくまで「地域」としての共同体自治の仕組み関する議論なのですが、「地域」でなく「家族」として考えてみても良いのではないかと思えた次第です。つまり、経営(ビジネス)と家族(ファミリー)のリーダーシップが異なることを示していると解釈しました。

ビジネスのリーダーシップが率先垂範とすれば、ファミリーのリーダーシップは「2階(半地下)の卓越者」というファシリテートすることではないかということです。

例えば、社長に相続が起きたとします。親子、兄弟というタテ、ヨコだけの関係で向き合うと、利害相反相続トラブルが発生する可能性があります。そこで、家族全員がファミリービジネスの一員として(われわれ意識)事業をどう継続するかと熟議するために、「2階(半地下)の卓越者」というファシリテーターを活用するという考え方です。

昔は親戚のおじさんとか、本家筋の人とか近所の顔役とか色々とナナメの関係がありましたが、今は少なくなりました(必ずしも良いとは限りませんが)。相続といえば、弁護士、税理士などの士業が関わることが多いため、専門職の方々にファシリテートの力があると話し合いも円滑に進むのではないでしょうか。

 

3.経営

「経営」という言葉の語源には諸説あるようですが、「詩経」という中国最古の詩篇に下記のような詩があります。

經始靈臺(けいしれいたい)
經之營之(けいしえいし)
庶民攻之(しょみんこうし)
不日成之(ふじつせいし)
經始勿亟(けいしこつき)
庶民子來(しょみんしらい)

文王が祭壇を作り始めると決めて
これを運営することとした。
すると庶民が祭壇を頑張って作り始め
日を経ずして祭壇は完成した。
始めるからといって強制もしていないのに
庶民が働きにやってきたのだ。

 

ここでいう祭壇は「お祭り」のためということではなく、天文観測のための物見台という意味らしいのですが、「祭」つながりで思い出しました。文王を社長に、庶民を社員に読み替えることもできます。

文王の気持ちを庶民が知るはずもなく、文王の気持ちに忖度した家臣が庶民に伝えたに違いありません。庶民が祭壇作りに時間を費やしたので、農作業ができなくなり、国の生産性は落ちてしまった、ともいえます。

しかし、天気を占う祭壇は庶民にとっても必要であり、庶民が集まって熟議をして、われわれにとって必要なものだからすぐに手伝おうと決めていたら、逆に生産性は上がっていたかもしれません。

 

<まとめ>

前述の書籍の中でも共同体における「オーナーシップ」(われわれ意識)の重要さを説いています。共同体を上手にまとめていくには、参加者の「われわれ意識」とファシリテーター、そして共同体の中心ともなるべき権威のある人の3つ必要なのだということになります。上手に共同体を運営するための3要素を意識して揃えていますか?

(注)「経営リーダーのための社会システム論」(宮台真司・野田智義、光文社)より抜粋

 

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