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省吾君への手紙

SPECIAL

親子経営コンサルタント

ビジネス・イノベーション・サービス株式会社

代表取締役 

オーナー社長と後継者のための、「親子経営」を指導するコンサルタント。みずから100億円企業を築くも、同族企業ならではの難しさや舵取りの大変さで苦しんだ実体験を指導。親から子へ失敗しない経営継承の極意として「親子経営」を伝授する。

省吾さん

昨日は久しぶりにお会いでき嬉しかった。君と会うのは昨年お父さんが亡くなられ私が葬儀に行かせてもらって以来のことだ。君は渡航先のフランスで突然亡くなられたお父さんを偲びながら、残された家族、そして君に託された会社への君の切実で真摯な想いを涙ながらに語っていたね。

あのとき私は君の姿を見ながら君の後ろに君のお父さんを見ていた。お父さんは君がたくさんの参列者の前で、泣きながらお父さんの思い出を話している君の姿をにこにこと恥ずかしそうに、それでいてとても頼もしそうに見ていたよ。君のお父さんは「省吾のこと頼むよ」と日ごろから私にそう言い続けたていた。

君のお父さんは田舎の衣料品店の2代目だった。大学4回生のとき親父さんが急死されやむなく家業を継ぐため大学を辞め帰郷した。大学を辞めてまで帰郷したのは想像だけれど、たぶん残された母親のためだろうと思う。田舎のどこにでもあるようなさほど大きくもない衣料品店だけれどたくさんの在庫を抱え、少なくない買掛残を母親はどうしていいか分からず困っていたのだと思う。

そこからお父さんの奮闘が始まった。どうやれば在庫をはかすことができるか、どうすれば商品をもっと売ることができるかを考えながらまずは問屋周りから始めた。喫緊の問題は買掛残だ。各問屋を回りながら支払期日の繰り延べをお願いして回った。それまではただ買いに来る客を待つだけの衣料品店だったがそれではだめだと積極的に外商をして回った。

さらに季節季節に近隣の催し会場を探しセールを開催していた。そうする間に隣町、そしてまたその隣町にと店舗を開設していった。帰郷して5年ほどがそうして過ぎていく。お金の流れがなんとなくスムーズに流れていくようになりようやくひと段落が付いた。しばらくは人生の凪かと思われるような穏やかな時間が過ぎる。

そんなあるときいろいろな縁が重なり面白い商品を扱うことになる。大手衣料品メーカーの依頼により新商品の製造先を探す手伝いをすることになる。その後製造先とメーカーとの取引の間に入ることが決まり自社が製造先となりメーカーに商品を入れることになった。そしてその商品があるときから爆発的ヒットを放つことになりお父さんの会社業績が一気に上昇することになった。

その後、順調に業績を伸ばし業容が拡大する。従業員は100人を数えるにいたり、地元地域では優良企業として知られるようになる。お父さん自身も地域で人望を集める経営者としていろいろな団体の代表を兼任する。いわゆる地域の名士として多くの人たちから親しまれる。昨年亡くなられたときは現役の商工会議所会頭だった。

省吾君と私が出会ったのは今から8,9年前になる。当時、お父さんの会社はヒット商品の売れ行きが低迷し始め売り上げが好調時の半分程度まで落ち込んでいた。私はお父さんの経営アドバイザーとして、また当時まだ大学4回生であった省吾君を将来の後継者として指導教育をするとして顧問契約を結ばせてもらっていた。

そのころお父さんはヒット商品に代わる新たな商品の模索、もう一つの柱となる事業の模索に余念がなかった。いろんな会社の商品や事業に興味を持って取り組んでみては失敗をくりかえしていた。お父さんは省吾君に会社を引き継ぐまでになんとかもう一花咲かせ業績を回復させておきたかったのだと思う。

そんなときにお父さんは亡くなった。渡航先のフランスの病院からの最後のラインが今も残っている。省吾君を案じる言葉が綴られている。お父さんに私が常々話していたことがある。会社の柱となるような事業や商品は経営者が必死になって初めて出会うものだと思うと。お父さんはこれまでの経営者人生の中ですでに今のヒット商品と出会っている。

お父さんの会社の次のヒット商品、柱となる新たな事業は次の経営者が出会い創り上げていくことになるのではないか。後継者である省吾君が自分の会社の新たな柱となる商品、事業を創り上げることが当然なことなのではないかと。そう分かっていながらお父さんは最後まで次の商品、新たな事業をと模索し続けておられた。

省吾君はお父さんが亡くなられすぐに代表者に就任された。その後、お父さんの想いを継いで日々新たな商品開発、新規サービス、新規事業の構築に余念がないようだ。昨日は省吾君からこれまで取り組んできた事業展開をすべて話してもらった。省吾君ならではの取り組みが随所に現れておりどれも非常に楽しみな展開だった。

省吾君は事業承継時に起こるであろう諸問題について私とあらかじめ話していたことがあり、多くが想定内であったので余裕をもって対処することができたという。相続を含む身内親族間の問題、金融機関を含む取引先との関係、抵抗勢力となるであろう古参社員との問題、事業の再構築などの多くが前もって想定した範囲内であったという。

しかしながら事業の再構築はそう簡単にできることでなく日々模索の最中だと言っていた。ただ、お父さんの時代には思いもつかなかったような面白そうな事業が展開されつつあった。設備投資も積極的に行っているように思う。金融機関からは少し懸念されているようだが、そう大きな投資でなく結果を出すことができれば評価が変わるだろう。

昨日は決算書、試算表を見せてもらいながら2時間話していた。毎月試算表と資金繰り表を見ているという。それを聞きとても安心した。あっという間の2時間だったけれど省吾君は大丈夫だと確信することができ嬉しかった。お父さんの喜んでいる様子が私には見えた気がしている。

今朝、省吾君に言い忘れていた大事なことがありラインしました。

昨日は楽しく話を聞かせてもらいました。よく頑張っているのが分かり嬉しく思いました。ひとつ言い忘れたことがありラインしています。試算表のなかの損益計算書をみてください。営業利益の前の段階の売り上げ総利益があります。いわゆる粗利総額です。そこがおそらく1億を少し超えていると思います。その1億数千万円の利益の内訳を精査してほしいということを昨日言い忘れていました。その1億数千万円を何でどの商品群が稼ぎ出しているのかを明らかにしておいてください。これが利益の源泉を知るということです。そのうえで今、これから何をすべきかを冷静に判断して経営戦略として行動、実行していってください。
 以上、言い忘れていたのでラインしました。よくがんばっていると感心しています。ただ、もっとがんばれ、ですね。経営者だから仕方ないね。しんどいけれどどこかで楽しんでもいるはずです。経営者としての楽しみ喜びうれしさを楽しんでください。またおいで。

 

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