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医療新規参入で優秀な企業ほど価格設定を間違える理由

SPECIAL

ヘルスケアビジネス参入コンサルタント

株式会社ヘルスケアビジネス総合研究所

代表取締役 

ヘルスケアビジネス専門のドクター資格を持つ異色のコンサルタント。東北大学医学部医学科を卒業後、医療技術・ソリューションの発展に尽力することを決意。ジャパンバイオデザイン・フェローシッププログラム(スタンフォード大学発のシリコンバレー流医療機器イノベーションプログラム)参加などを経て、主にヘルスケア市場参入の支援機関、株式会社ヘルスケアビジネス総合研究所を創設。
これまで東証プライム上場企業を含む40社以上に対して新規事業・開発の指導および支援経験を持ち、ヘルスケア事業部の立ち上げも支援。2016年から2023年までのバイオデザインプログラム(年に1チーム最大4名)で関わった起業案件は5社、知財出願は4件、助成金獲得6件に達し、0→1の指導における高い再現性に定評がある。

こんにちは、ヘルスケアビジネス総合研究所の原です。

突然ですが、当社で新規参入の医療ビジネスの構想をやるときに、優秀な会社ほど必ずと言っていい程引っかかる罠があります。

それは・・・価格の決め方です。

 

価格を決めるときにやってはいけない事、ご存知ですか?

これを理解しているかどうかで商品の設計そのものが全く変わってきます。

医療・ヘルスケアの新規事業をお考えの方は、ぜひ最後までご覧下さい!

お客さんは原価に対してお金を払っている訳ではない

まずはこちらの写真をご覧下さい。

これは人工内耳といって、医療機器の中でも特に高額の商品の1つです。耳が聞こえない人に埋め込んで、電極から音の代わりに電気信号を直接神経に送り、音が聞こえるようにする機械です。

早速ですが質問です。この商品の価格はいくらになるでしょうか?

解答に入る前に人工内耳市場の魅力について少しお話させて下さい。人工内耳は主にアメリカ、オーストラリア、オーストリアの会社が開発し、販売しています。2870億円という広大な市場が、実際には海外3社の寡占状態となっております。

他の医療用の製品・サービスと比べて、患者さんが一生涯(故障対応・交換の必要性はありますが)使用することと、生活の質に直結することもあり、ユーザーの海外3社に対するエンゲージメントはとても高いです。仮に全く同じ性能の製品を開発しても、容易に市場開拓ができず、新規参入のカベになっています。

特許の問題はありますが、技術的に日本企業が開発・製造できないということは無いはずです。実際に国産医療機器の要素技術を開発する取り組みもありますので、販売・マーケティング戦略を最初からしっかりと準備していけば、チャンスが開けるのではないでしょうか。何しろ市場が大きいので、一部のシェアを押さえるだけで大きな収益に繋がります。

 

さて、人工内耳の価格の話に戻ります。

正解は、本体一式と手術で約300万円です。思いの他、安いと感じられた方も多いでしょう。逆に、個人向け商品であると考えた場合は、300万円は安い金額ではないなと判断された方もいらっしゃると思います。価格設定は既存製品の価格を参考にして保険償還の制度(手技料、特定保険医療材料)で決まっているのですが、これを実際に使用するユーザーの視点で、何を持って価格が高い(安い)と感じるのかをご説明します。

ユーザーは商品の価値で値決めをする

人工内耳のユーザーは、価格を考えるときに「このリード線は高級な材料を使っているだろう」とか、「このプロセッサは高性能なものだろう」とか、製品・サービスを構成する要素の原価(材料費など)で考えるでしょうか?

 

そんなことはありません。

今、まったく耳が聞こえなくて日常生活で非常に困って落ち込んでいる状態の患者さんが、音が聞こえるようになって自分に希望が持てる、生活が楽になる、コミュニケーションが取れるようになるという将来を得ることができると感じて、300万円を支払う訳なのです。

大事なことなので繰り返しますが、ユーザーは提供された価値に対してお金を払います。いかにリード線が技術的に高難易度で重要なパーツであったからといって、それを開発するのに掛かったコスト自体にお金を払う訳ではないのです。ここにお金を払ってくれるだろうと考えるのは作り手のエゴにほかなりません。

医療以外の業界では当たり前のことだと思うのですが、最近はこういったバリュー(価値)ベースの価格設定と言われる考え方が普及していますし、実際に妥当な方法だと私も考えています。優秀な経営者は、医療でも”正しい”やり方で価格設定をすれば良いじゃないかと思われるのですが、実はここに大きな落とし穴があるのです!

しかも厄介なことに、落とし穴は2段構成になっています。順にご説明していきます。

日本の保険制度では、原価か競合製品を参照しなければならない

はじめに断っておきますが、行政サイドにはまた別の事情・理由があってこのような制度になっていますので、制度自体に文句を言うつもりはありません。今回は、商品を売る立場の会社が、どのように値決めをするかに焦点を当ててお話します。

落とし穴の1個目は、新しい製品を保険でカバーする際に、日本では必ず原価か競合製品の価格で評価されるということです。新しい製品を開発したから自由に保険価格を設定して良いかというと、それはできないのです。

これら2つの評価方法が、高付加価値の製品・サービスの値決めをするときに問題となる理由をまとめます。

  • 原価:材料費や最小限の開発費などをベースに計算されるので、高い価値を示すために余分に費用を注ぎ込んで設計や臨床試験を行うと赤字になる。
  • 競合製品の価格:競合製品を大きく改良して高い価値を提供できる製品を開発しても、価格が競合製品とほぼ同じになるため赤字になる。

ご理解頂けたでしょうか。既存品よりも価値の高い商品を開発しても、それが評価されないという制度上の矛盾が生じているのです。また、基本的には①②のうち価格の安い方が使用されますので、ますます価格が安くなります。

ユーザーは保険以外の製品・サービスにお金を払いづらくなる

この保険の制度の話をすると、皆さんは必ず「それなら保険以外(つまり自費)で支払う商品にすれば良いじゃないか?」と仰います。2段階目の落とし穴は、自費で支払う商品の場合に発生します。

というのも、保険償還制度、高額医療費制度などの活用によって、ユーザーが個人でも病院でも社会保障費からお金をもらう構造に慣れてしまっているのです。

例えば皆さんが風邪で耳鼻科を受診したとしたら、診察代の10割負担を10,000円と仮定すると自己負担額(3割負担)は3,000円です。ドラッグストアで風邪薬を何種類か購入することと比較しても大差は無いですね。非常に安い価格と言えます。

例えば耳鼻科の診察をもっと便利にしたサービスを開発し、従来より1,000円高い11,000円の自己負担で提供しますと言っても、誰も購入しないのです。なぜなら、ユーザーが比較対象としているのは実際に自分のサイフから支払う金額だからです。つまり3,000円の通常サービスと11,000円の便利なサービスを比較しているため、差額は11,000円 - 3,000円 = 8,000円ですので、「ちょっと便利になるのに8,000円も掛かるのは高すぎる!」と感じてしまうのです。

このように保険の対象ならユーザーの実質的負担額が非常に安くなるため、類似のサービスが保険外だった場合は、保険サービスで安く済ませよう、ガマンしようという心理が働きます。

 

でもこの状況って、どこかおかしくないでしょうか?

ヘルスケアビジネスは日に日に進化しており、より高い価値、高いサービスを提供できます。しかし日本には価値が高い製品・サービスが構造的に出回りにくくなっているのです。

医療は市場経済を導入するべきではない、平等に提供する公的サービスなのだといえば聞こえは良いです。海外でそのような制約の無い国(アメリカなど)で実績を出した新しい時代の製品・サービスが、日本に輸入され続けて兆単位の貿易赤字になっている事実も、私は認識すべきだと思います。

ヘルスケアビジネスにおける価格戦略の考え方

それでは、我々はどのようにして高付加価値商品の価格設計をすれば良いのでしょうか?結論から先に申し上げますと、これからの時代の医療機器・サービスは、保険サービスと比較されない価値提供をしながら、その価値に見合った価格設定を目指せ、というのが1つの戦略です

医療周辺の製品・サービスにはとても大きな需要があります。例えば皆さんも健康食品で生活習慣病を予防したり改善したりする、といった広告を目にしたことがあるのではと思います。これはクリニックの通院や薬と同じような効果を”治療”とは違う角度から提供し、薬以上の価値を提供して収益を上げているという例になります。また最近ですと、自社製品×ウェルネス・ヘルスケアといったブランドを打ち出している非医療系の会社も多く見られますし、ヘルスケア関連企業をM&Aして、自社サービスとシナジーを形成する場合もあります。従来の保険サービスとは違う軸で、比較されないような製品・サービスを提供しているから売れるのです。

一方で医療機器を専業とする会社では、保険外、医療機器以外の商品を売ることには抵抗感があり、ビジネスモデルも違うのでなかなか試すことが出来ません。したがって、既に医療・ヘルスケア以外の業界で実績をお持ちの会社にとっては、従来品と比較されにくく高単価な製品・サービスを開発できるチャンスが大きいのです!

また当社では海外市場の重要性を色々な所でお伝えしているのですが、高付加価値商品に対する規制が少ない海外市場で実績を積んで、数字を取ってからスケールするというのも有効な方針です。ヘルスケアはグローバル展開が可能なビジネスです。

 

新規事業をお考えの会社様は、ぜひヘルスケア分野への参入を検討してみて下さい。

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