リスキリングするべきなのか?プロンプトエンジニアリング

最近、生成AIの普及に伴い、社員に「プロンプトエンジニアリング」を学ばせようとする企業が増えてきました。民間の資格講座に通わせたり、リスキリングプログラムの一環としてAI活用研修を受けさせたりする動きが、特に中堅・中小企業の経営者層から聞かれるようになってきています。
もちろん、社長が「うちの社員も生成AIをうまく使いこなせるようになって欲しい」と願う気持ちはよく分かります。実際、ChatGPTやCopilotなどの生成AIは使い方ひとつで成果が大きく変わりますし、「プロンプトがすべてを決める」と言わんばかりの言質もよく見かけます。しかし、それは本当に社員が学ぶべきことなのでしょうか? 今回は敢えて、この「プロンプトエンジニアリング=学ぶべきスキル」という前提に一石を投じたいと思います。
プロンプトエンジニアリングとは? 必要性と誤解
まず、プロンプトエンジニアリングとは何か?一言でいえば「AIに対して適切な指示を出す技法」です。生成AIは、曖昧な質問には不適切だったり的外れな答えを返してくることもあります。また、日本人特有の「主語を略す」習慣が一因となって変な回答が出てくることもあります。そのため、文脈を正しく与えたり、出力形式を指定したり、条件を明確に伝える必要があるとされています。
このことから「上手なプロンプトを書ける技術(=エンジニアリング)」が必要と見なされ、特に英語圏では「Prompt Engineer」という肩書きが登場しました。それが日本にも輸入され、「プロンプトエンジニアリングを学ばないとAIを使いこなせない」という認識が広まってきた訳です。
しかし、ここには二つの「誤解」があります。
一つ目は、「プロンプトの記述には高度な技術が必要で、専門的に学ばなければ扱えない」という誤解です。実際の業務で必要とされるプロンプトは、たとえば「この議事録を要約して」「この内容をわかりやすく言い換えて」など、ごく日常的な日本語の範囲で十分に通用します。複雑な条件分岐や構文の理解などは、特定の業務(たとえばソフト開発や分析分野)とそれに特化した専門AIに限った話ですので、一般的なビジネスシーンにおけるプロンプトに高度な技法が必要な訳ではありません。
そして二つ目は、「今学んでおかないと、時代に置いて行かれる」という焦りから来る誤解です。実際には、生成AIの解釈力は日進月歩で進化しており、少々雑な指示であっても、意図を汲んで高品質なアウトプットを返してくれるようになっています。つまり、いま「プロンプトテクニック」とされているものの多くは、数年以内に不要になってしまう可能性が高く、そのノウハウだけを身につけても“賞味期限”が短い知識になってしまいます。
つまり、今必要なのは、テクニックを覚えることではなく、AIの理解力の進化を前提としつつ、それに的確な指示を与えるための、人間側の「思考力」や「構成力」なのです。
ビジネスに必要なのは「プロンプト技術」より「論理的思考力と文章力」
実際のビジネス現場では、AIに何をやらせるかを言語化し、的確に意図を伝える能力が求められます。それは必ずしも「プロンプトエンジニアリング」という専門技術の話ではなく、もっと基本的な「説明力」や「文章力」の問題です。
たとえば、議事録の整理、マニュアルの要約、業務報告書の文案作成など、生成AIの使い道は業務支援が中心です。こうした作業で成果を出している社員に共通しているのは、普段から論理的に考え、伝える力があるという点です。特別なAI用語を知らずとも、自然とAIにも良い指示を出せるわけです。
つまり、プロンプト力を鍛えるよりも、まず鍛えるべきは人間としての基礎能力なのです。読解、構成、要約、比較、表現といった基本スキルこそが、AI時代における本当の“使いこなす力”になります。
基礎能力を育てることこそ、未来のためのリスキリング
リスキリングの目的は、一時的なブームに乗ることではなく、将来に向けて持続的な成長を支える力を養うことにあります。生成AIがどれだけ高度化しても、それを「業務に活かす力」「人に伝える力」を持たない限り、本当の意味での戦力にはなりません。
AIの時代であっても、育てるべきは“人の力”です。プロンプトエンジニアリングのテクニックだけに走るのではなく、社員が自ら考え、伝え、まとめる力を高める教育こそが、本当の意味でのAI活用に直結するのです。そして、その人間力としての技術は、会社を活性化するための基礎となることも間違いありません。業務ソフトへの要求事項をIT業者に誤解無く説明できる会話力・表現力の向上にも繋がります。
流行に流されず、腰を据えて「人の力」を鍛える教育を。これこそが、経営者に求められる“未来の人材投資”だと私は考えています。
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