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第57号:1人粗利の最大化を追求する組織づくりで重要なこと

SPECIAL

高収益・高賃金企業づくりコンサルタント

株式会社ポリフォニアコンサルティング

代表取締役 

中小企業ではハードルが高いとされる社員1人粗利3千万円、平均年収1千万円越えの本気で儲かる組織になるための土台作りを指導。会社の「価値」に注目し、価格ではなく、組織全体で価値を高め・守り・売っていく仕組み作りで注目を集めている。これまで150社以上の様々な業種の中小企業を支援する中で、中小企業の業績・資金繰り・人材確保などの経営問題の背景には、「一見相反する会社と社員の利益双方を引き上げていく経営の仕組み」が欠けていることを発見し、その仕組み作りのノウハウを体系化。

「シライ先生、最近ようやく皆が私についてきてくれている実感を持てています」

こう仰るのはサービス業を営むA社長。元スポーツ選手のA社長は、まさにそのイメージ通りの、筋肉質で姿勢の良い立ち姿で、非常に爽やかな好青年といった出で立ちです。

そんなA社長率いる組織は40名程度の社員から構成されていますが、社内には”派閥”のようなものが形成されています。

A社長とB常務の方針が違う・・・表面上は取り繕っていても、A社長不在時にそれは露呈します。B常務が我流の考えで社員を動かす・・時にはA社長の批判をしてでも自我のやり方を推進し、ルールを変えてしまう・・。

組織には混乱が生じています。それもそのはずです。会社にトップが2人いるような状態で、自分たちの仕事のやり方がトップによって変わってしまうからです。

社員にも自分の考えや嗜好があります。B常務のあり方に「社長への批判はマズいんじゃないの?」という常識的な判断をする者もいれば、「B常務が正しい」と考える者もいます。

散漫になっている組織、疑心暗鬼が蔓延る組織の状態は、1人粗利を最大化していく組織作りにおいて厄介です。1人粗利を最大化する価値創販組織には、社長が定めた「独自価値」の名のもとに絶対的な統率が必要となります。

よそにない独自価値が存在するからこそ、市場における独自市場を形成し、需給バランスを自らに有利な方向へ持っていくことができ、価格主導権を手にすることが出来ます。

そして独自価値を具現化していくのは社員が日々こなす業務1つ1つです。もし業務が散漫であったり、サービスのあり方が「上司によって変わる、場所と時間によって意図しない方向に変わる」などということがあれば、独自性が薄れ、顧客からの信頼や認知に影響を及ぼすことになります。

実際にA社にはそれによる「実損」が生じています。サービスの品質と提供時間に大きなバラツキがあります。オペレーション時間にもバラツキと非効率があるため、それを補うためのパートや外注経費が膨れています。

受注活動にも一貫性がなく波があります。受注導線の運用ルールが変えられてしまうからです。決め事が徹底されないのです。ブログやメルマガの発行、商談アポイントのルールが有名無実となり、受注に支障をきたしています。

パートや外注経費が上がり、受注が伸び悩めば、当然1人粗利は低下していきます。

もちろん、A社長もそのことは承知しています。しかしそれでもB常務の横行に対してクリティカルな手を打てずにいたのは、A社長の「使命と優しさ」によるものです。

A社長は「アスリートのセカンドキャリアを支える」という使命を持っています。ご自身が現役引退後に大変な思いをして作ったのがA社です。常務はA社創業後数年してから入ってきた、比較的古株の社員であり、元スポーツ選手です。

A社長は、これまでA社を支えてくれたことに対する恩情に加え、彼のセカンドキャリアを守りたいという強い思いを持っているのです。

”B常務を野放しにしておくことはできない。しかし彼がいなくなれば現行の高度業務に支障をきたすことは目に見えている。また彼に引導を渡すことは、自分自身の使命に反する・・”

A社長はもうずっとそのことについて悩み続けています。自分がイニシアチブを取らなければ会社の成長もここまでであることも理解しています。

しかし”B常務の影響力が、社長の影響力以上に社員の中に巣食っているのではないか?もしB常務を袂を分かつことになった時、他の社員はB常務についていくのではないか?”というある種の恐れもそこに潜んでいます。

私はA社長のお話をじっくりと伺いながら、言葉を選びつつ、確信を持ってお伝えします。

「A社長は独自価値を定義し、これに身体性を与え、さらに受注導線まで構築してきました。いますべきことは、常務と社員に対して、社長が構想している会社の将来像を文書で可視化して、これを示すことです。」

文書で可視化してこれを示す―そのイメージが掴み切れないA社長。私はA社長に続けて助言します。

「A社長は、お客様に対する独自価値に身体性を持たせ、価値の素晴らしさが伝わる状態にしましたね。それと同じことを、社内に対してもやるのです。価値は形を伴わなければ伝わらないように、会社のあり方も形を与えなければ組織に伝えられないのです」

これを価値創販方針の確立と言います。価値創販の思想-それは即ち量の追求ではなく、1人1人が質(付加価値)を上げていくことに注力する思想-を組織に埋め込むために、社長の思考を文書を中心に形にしていくのです。

それが結果として、1人あたり粗利3,000万円を実現する経営体質を形づくっていくのです。

独自価値、将来像、行動指針、業務・・・それらは無形です。姿形を伴わない思想・概念です。

しかし歴史は、無形の思想・概念を正確に他者に伝える方法を教えてくれます。それは「文書化・物体化」です。

太古の昔から、人は思考を書物、楽譜、絵、彫刻など様々な形で残してきたのです。それは同世代の人々への伝達を可能にしたばかりでなく、世代を超えた伝達すら可能にしてきたのです。

逆に、「文書化・物体化」されないものは殆ど残らないのです。残らないということは「伝わらない」ということです。口伝で伝えられることは、文書化・物体化で伝えられることに比べればほんの僅かしかありません。

組織に置き換えれば、「口頭ベースのやりとりは残らず、文書によるやり取りは決定事項として残る」ということです。

A社長は仰います。「常務とは一度腹を割って話し合う機会を設けたいと思っています」

私は社長の意図を尊重し、重ねて助言をします。「A社長、非常に良い判断です。ただしその機会を有効なものとするために、社長の価値創販方針を文書化してください。そして腹を割って話す時は、その文書をもって場に望んでください

A社長は会社の未来像、独自価値、行動指針、業務方針などを言葉にし、これを可視化していきます。忙しい中で文書を書き上げ、これを1つの価値創販方針書としてまとめ上げます。

その間も、本当にこれが正解なのか?という疑念と期待が渦巻いています。しかしA社長は自分を信じて書き続けます。

A社長は、いよいよ常務との話し合いの場に望みます。手元には、A社長がまとめ上げた価値創販方針があります。

この日はいつものように話がエキサイトしてしまうこともなく進んでいきます。A社長はB常務の心のうちを一通り聞いた後、自分自身の方針を伝えるため、この価値創販方針書を利用します。

いつもは喧嘩別れのように終わってしまう話し合いですが、この日は違います。B常務は社長の方針説明を聞き終えたあと、簡単に2~3言葉を交わし、場を後にします。

それから1か月後、再び私とお会いした時の言葉が冒頭の言葉です。A社長は続けます。

「B常務が本当にどう考えているかはまだ分かりません。ただ、他の社員の前で社長方針を否定するようなことはなくなりました。業務についても我流を押し通すことが減り、方針を守って進めてくれることが多くなってきています。

その直後に、社員に対しても方針説明会を行いました。常務のこともあり心配がなかったかと言えば噓になりますが、実際に発表してみると、それまで思っていたのとは裏腹に、協力的な姿勢を取ってくれる社員が多く、私自身がびっくりしています」

文書・書物には力があります。記録して固定するということは「相手から見た決定事項」なのです。

決定事項は、決めた自分がそう思っているだけでは決定になりません。相手から見て決定事項になっていなければ守られることはありません。守られなければ組織の力学を1点に集中させることはできません。

組織のトップである社長こそ、文書化・物体化・記録化を自身の武器として使うべきです。理由は明快です。社内で最も影響力の強い人物だからです。全てを決める権限を持っている人物だからです。

組織を独自価値の創造という一点に集中させていくために、社長の思想を文書として可視化する。それが、組織の迷いを消し、社員の力を一方向に集め、「1人あたり粗利3,000万円」という高付加価値経営を実現する一歩なのです。

あなたは、自らの意思に身体性を持たせ、組織を動かしていますか?

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