AI時代に必要な「行動する組織」へのバージョンアップ
先日、ある起業家と話をしていた時のこと。「AIがやるべきことは全て組み立ててくれる。でも全て仮説の選択肢ばかり。試してみてどれが当たるかは自分でやってみるしかわからない。」という話題で盛り上がりました。
アメリカではエッセンシャルワーカーの給与が爆上がりし、日本でもホワイトカラーから高レベルのエッセンシャルワーカーへの労働移動が議論され始めています。バーチャルの世界でできることは、人類の知を集めたAIの方が格段に優れている。そうなると、人がAIよりも優れている領域はますます絞られてきます。
残されたのは、現実世界で行動し、フィードバックを受け取り、そこから次の最適解を探り当てる力。この点だけは、人にしかできません。
では、こんな時代がすでに始まっているとしたら、私たちはどのように事業を進め、生き残りを模索すべきなのでしょうか。
「なぜ多くの人が行動をためらうのか。」――まず考えたいのは、この単純な問いです。
失敗が怖い――この言葉の裏側には、いくつもの感情があります。
①「評価を下げられるのでは」という恐れ
中小企業では距離が近い分、「失敗=評価の低下」と感じやすい。「怒られるのでは」「無能と思われるのでは」という不安は、行動の速度を奪います。
②「迷惑をかけたくない」という遠慮
同僚との関係が密であるほど、「自分の失敗がチームに迷惑をかける」と考え、挑戦を控えがち。
③「前例がないことへの不安」
新しい取り組みほど、正解がない。“正解探し”に慣れてきた人ほど、この不確実性に心が揺さぶられます。
④「成功しなければいけない」という完璧主義
「やるなら完璧に」という思いが強いほど動けない。完璧主義は行動の初速を奪う代表的な心理です。
このように「行動できない背景」は決して能力不足ではなく、多くは“心理的な抵抗”です。だからこそ、会社として“挑戦を許容する文化”をつくる必要があります。
AI時代は、これまでの「正解を探す仕事」をAIが肩代わりする時代でもあります。
となれば、人間に残る価値は次の4つです。
・行動する
・挑戦する
・失敗する
・学び活かす
ところが多くの中小企業には、「失敗を避ける文化」が根強く残っています。波風を立てないことが“賢明な立ち回り”とされてきた背景もあり、行動より安定を選びがちです。しかしAIの進化は、この価値観を一気に時代遅れに変えてしまいました。
「失敗しないこと」よりも「行動しないこと」の方が、はるかに大きなリスクになる。これが今まさに起きている変化です。
起業家との議論で出た3つのポイントは、実は事業成長の本質そのものです。
①仮説に納得できなくても、とにかく行動する
AIが示す仮説は“最適解”ではなく“試すべき候補”。どれを選ぶかは、現場で動いてみないと分かりません。ここで大切なのは、「行動には必ず価値がある」という視点です。成功すれば成果に、失敗すれば学びに変わる。どちらも次の一手を生む“資源”です。
②行動で得た点をつなげ、ビジョンに向かう
行動は点、ビジョンは線です。ビジョンが曖昧な組織は、どれだけ動いても成果が散らばります。だからこそ、トップがビジョンを語ることが欠かせません。社員がどこに向かって行動すべきかが分からないまま、行動量だけ増えるのは危険です。
③プロセスを楽しみつつ、片目でマネタイズを見る
挑戦は、楽しめなければ続きません。一方で収益化の視点を欠けば、企業活動として成立しません。AI時代の働き方は、この“二刀流”が必要不可欠です。
社員が挑戦できない理由の多くは、スキルではなく心理です。その心理を溶かせるのは、経営者が発するメッセージしかありません。だからこそ、トップが言うべき言葉は明確です。
「会社の意思に沿った行動であれば失敗してもいい。」
「失敗を恐れて行動しないより、リスクをとって動いた人を評価する。」
このメッセージがあるだけで、社員の行動量は目に見えて変わります。文化のバージョンアップとは、突き詰めればトップが何を大切にするかを示すことなのです。
AIは膨大な知識から無数の可能性を示します。しかし、どの仮説を選び、どの順で試し、何を学び、どう活かすか。この“現実世界の判断”は、人にしかできません。だからこそ、行動する文化をつくることが、中小企業の生き残り戦略そのものです。
さて、貴社はいかがでしょうか。
コラムの更新をお知らせします!
コラムはいかがでしたか? 下記よりメールアドレスをご登録いただくと、更新時にご案内をお届けします(解除は随時可能です)。ぜひ、ご登録ください。

