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脱炭素は「人が辞めない会社」をつくる戦略です

SPECIAL

循環経済ビジネスコンサルタント

合同会社オフィス西田

チーフコンサルタント 

循環経済ビジネスコンサルタント。カーボンニュートラル、SDGs、サステナビリティ、サーキュラーエコノミー、社会的インパクト評価などへの対応を通じた現状打破と成長のための対案の構築と実践(オルタナティブ経営)を指導する。主な実績は、増客、技術開発、人財獲得、海外展開に関する戦略の構築と実現など。

 「西田さん、まさに今は脱炭素が採用に関係する世の中なんですね。」少し前のことですが、支援先の担当者とインターンシップの話をしているときに頂戴したコメントです。年が明けるとまた2026年のインターンシップの準備を始めなくてはなりません。

 

 この一言をきっかけに、改めて考えさせられました。脱炭素の話をすると、多くの場合「環境のために大事ですよね」という理解に落ち着きます。それ自体は間違いではありませんが、私が本当に伝えたいのは、脱炭素は「環境の話」以前に、「人が辞めない会社をどうつくるか」という経営の根幹に関わるテーマだという点です。しかし残念ながら、この視点はまだ十分に共有されているとは言えません。

 

 一方で、若い世代の会社の見方は、確実に変わり始めています。給与や福利厚生、ネームバリューといった従来の基準に加えて、「この会社は社会や未来に対してどんな姿勢を持っているのか」という点が、新しいものさしとして使われるようになってきました。その象徴的なテーマの一つが、脱炭素やSDGsです。

 

 こうした価値観の変化の背景には、時代の空気があります。近年、クマの出没が話題になり、コメの不作や価格変動が続き、毎年のように大規模災害が発生しています。これらすべてを単純に結びつけることはできませんが、温暖化の影響ではないか、という見方が広がっているのも事実です。若い世代は、こうしたニュースを「遠い世界の出来事」ではなく、「自分たちの将来に直結する問題」として受け止めています。

 

 その一方で、企業側に目を向けると、人手不足はすでに慢性化し、深刻さを増しています。採用が難しいだけでなく、せっかく採用できても定着しない。これは多くの経営者が実感されている課題ではないでしょうか。

 

 若い世代の側にも、もちろん課題はあります。価値観の変化とともに転職への心理的ハードルが下がり、職場を移ること自体は珍しいことではなくなりました。その結果、腰を据えて一つのテーマに取り組み、深い知見を積み上げる機会が得にくい、という側面もあります。企業にとっても本人にとっても、決して望ましい状況とは言えません。

 

 ここで、脱炭素との接点が見えてきます。脱炭素への取り組みは、一朝一夕で成果が出るものではありません。だからこそ、じっくり腰を据えて取り組む必要があります。そして実は、ここにこそ人材育成と定着のヒントがあります。一定の社会貢献を実現するには一定の時間をつぎ込む必要があるからです。炭素を減らすという行為は、単なるコストではなく、長期的には企業の価値を高め、収益につながる可能性を秘めています。環境負荷を下げる技術や仕組みは、やがて競争力となり、新しい取引や市場を生み出します。炭素と価値は、確実につながっているのです。

 

 若者は、その動きをよく見ています。表面的なスローガンではなく、「本気で取り組んでいるかどうか」を敏感に感じ取ります。脱炭素やSDGsへの姿勢が、企業選択に影響する時代になりつつある、というのは決して大げさな表現ではありません。そしてそこで居場所とやりがいを見つけた若者は、おいそれと転職を考える行動はとらないのです。

 

 採用の場で理念を語ること自体は、決して難しくありません。しかし、その理念が日々の実務と結びついているかどうかは、想像以上に見られています。現場での意思決定、投資の方向性、評価制度。そうした一つ一つが、理念と整合しているかどうかを、若い人たちは冷静に観察しています。

 

 では、企業はどう対応すればよいのでしょうか。答えはシンプルです。脱炭素を「環境施策」として切り出すのではなく、「人材戦略の一部」として位置づけることです。誰のために、何のために取り組むのかを言語化し、現場の仕事に落とし込んでいく。そのプロセス自体が、人を育て、人が辞めない組織をつくります。

 

 この考え方は、経営理念の見直しとも自然につながります。理念を書き換えることは目的ではありませんが、時代とずれたまま放置された理念は、採用や定着の足かせになりかねません。人事戦略と環境戦略を整合させることは、もはや選択肢ではなく、経営にとって極めて重要な課題です。

 

 脱炭素は、未来のための話であると同時に、今この瞬間の経営課題への答えでもあります。人が集まり、育ち、辞めない会社をつくる。そのための現実的で、前向きな戦略として、脱炭素を捉え直してみてはいかがでしょうか。

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