年末にこそ考えたい、脱炭素への備え
「西田さん、そうすると今後は今よりもっと企業に対して環境に関する対応要請が厳しくなるんですかね。」先日、支援先の責任者を交えた意見交換会に参加された経営者の方から席上で頂戴したご質問です。窓からは師走とは思えないあたたかな光が差し込んでいました。
私の答えは当然イエスです。アメリカがパリ協定を離脱してもさほどの揺れ戻しになることはなく、日本では着実に企業に対する環境対応要請、もっと言うと CO₂ 対策がかつてないレベルで求められるようになってゆくからです。すでに欧州では気候変動を巡る規制や報告制度が高度化しており、日本企業もその潮流から逃れることはできません。
そして、これは単なる予想でも期待でもなく、すでに実施予定に織り込み済みの決定事項であることを改めてご認識いただきたいと思います。サステナビリティ基準委員会(SSBJ)がまとめた新基準では、第一陣として株式時価総額 3 兆円以上の企業が 2027 年 3 月期から有価証券報告書で GHG 排出量などの気候関連情報を開示することが義務付けられています。第二陣となる 1 兆円以上の企業はその 1 年後から適用されます。つまり、上場企業にとって「自社の排出量がいくらか」「気候変動リスクをどう管理するか」などを明確に示すことが、法的義務として避けられないものになったわけです。
さらに、この開示要請は段階的に拡大され、2030 年代にはプライム市場全体に適用されるとされています。現状で推計すると、およそ 2,100 社が対象となる見込みです。スタンダード市場以下についても、海外投資家の動向や ISSB 基準との整合性から、近い将来同様の開示が求められるという観測が根強くあります。企業規模を問わず「うちは関係ない」と言い切れる環境ではもはやなくなってきました。
この流れを受けて、サプライチェーンを遡って情報を集める動きも間違いなく強まります。第一陣に含まれる企業が 2027 年 3 月期から開示するということは、裏を返せば 2026 年度初頭から実質的な情報収集が始まるということです。第二陣である 1 兆円企業も、その一年後に義務化されるとはいえ、実務に備えて 2026 年度から予行演習的に取り組みを始める例が多くなるのではないでしょうか。なぜなら、排出量の算定も、社内体制の整備も、外部保証への対応も、決して一朝一夕にはできないからです。
こうした動きが想定される中で、年末の今こそが対策を考える絶好のタイミングだと言えます。来年 4 月から始まる新年度を前に、顧客から求められそうな情報開示にどう向き合うのか、そして自社としてどの程度の準備を進めるのかを整理しておく。ここで一歩先回りできるかどうかが、2026 年以降に相次いで押し寄せる情報要求に振り回されるか、それとも冷静に対応できるかを分けることになります。
実際、GHG 排出量の算定は、やってみると想像以上に手間がかかります。電気や燃料の使用量といった「分かりやすい排出源」だけでなく、出張、物流、外注加工、さらには仕入れ先が排出した CO₂ まで問われるケースもあり、社内の業務部門や協力企業との連携が欠かせません。だからこそ、早めに着手して「どこに情報があり、誰が関わり、どれくらい時間がかかるのか」を把握しておくことが大きな強みになるのです。
しっかりと見通して、きっちりと準備すること。この考え方を体現していたのが、かの一倉定先生の「社長は年単位でものを考える」という言葉です。年末という節目は、ただ一年を締めくくるだけでなく、次の年にどんな布石を打つかを考えるうえで絶好の時間です。今年のうちに、来年どのように気候関連情報開示へ対応するのか、顧客や取引先に対してどのレベルの説明責任を果たすのか、ぜひ一度整理してみていただければと思います。
環境対応は義務であると同時に、企業価値を高めるチャンスでもあります。先んじて準備を進めた企業から順に、顧客との関係性は深まり、サプライチェーンの中でも存在感を高めてゆくことでしょう。年の瀬の今こそ、未来に向けた一歩を踏み出すタイミングなのです
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