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社員が辞めると言った瞬間、経営者に問われていること

SPECIAL

マインドポジション経営コンサルタント

株式会社アトリオン

代表取締役 

マインドポジション経営コンサルタント。社員と顧客の心に占める貴社の位置づけ―「マインドポジション」をアップし、業績向上を目指す仕組み構築のスペシャリスト。30年にわたる中小企業のブランディングと組織開発の経験を背景に、マインドポジション経営実践プログラムをオリジナル開発。時代に合わせて組織を刷新したい経営者や、2代目、3代目社長、社員の力を引き出して社内の体制を再構築したい経営者に高く評価されている。新しい切り口に基づく事業の見直しと組織の再開発を通して業績の2ケタ成長を実現するなど、持続可能な企業の成長に向けた力強い支援に定評。株式会社マインドポジション経営研究所代表取締役

「とうとう辞めると切り出したのですが、引き継ぎが完了するまであと3ヶ月はいて欲しいと引き止められてしまいました」。ある企業に勤める知り合いがボソッと言いました。

「今、人手不足なので、そういうケース多いですね」と答えたわけですが、こう切り出された社長の心のうちをしばし考えてしまいました。

辞めると言われた社長の頭の中には、おそらくいくつもの計算が同時に走ったはずです。現場が回らなくなるリスク、取引先への影響、採用にかかる時間とコスト、残された社員の動揺。感情と同時に、経営判断としての損得勘定が一気に浮かび上がる。そう考えると、「引き継ぎが終わるまでいてほしい」という言葉自体は、極めて合理的な要請にも見えます。

一方で、辞めると切り出した社員側の心境はどうでしょうか。

ようやく覚悟を決めて口にした言葉に対して返ってきたのが、「では、あと3ヶ月」という条件付きの了承。これは法的には問題がなくても、心理的には微妙なラインに立たされます。辞める自由はあるはずなのに、どこか後ろめたさを感じる。会社に迷惑をかけているという罪悪感を引き受けながら、残りの時間を過ごすことになるからです。

ここで一度、整理しておきたいことがあります。
社員が「辞める」と言った瞬間に、経営者が直面しているのは感情の問題ではなく、意思決定の問題だという点です。感情は自然に湧きますが、それをそのまま判断に使ってしまうと、後で歪みが残ります。怒りに任せて「明日から来なくていい」などと言ってしまうと、のちのち面倒なことになりかねません。

この場面で、経営者が最初にやるべきことは「引き留めるかどうか」を決めることではありません。まずやるべきなのは、情報を取りに行くことです。

辞める理由は、大きく分けて三つに分解できます。
仕事内容や待遇といった仕事の問題。
人間関係や職場の空気といった関係性の問題。
そして、本人の将来像や生活の事情といった個人の問題。
この三つのどこに重心があるのかによって、打つべき手はまったく変わります。

ここを確認しないまま、「人手が足りないから」「今は困るから」と引き止めてしまうと、判断基準が会社都合一色になります。その結果、社員は「必要とされている」のではなく、「都合よく使われている」と感じてしまう。これは短期的には引き留めに成功しても、長期的には組織への信頼を確実に削ります。

では、引き継ぎのために一定期間残ってもらうことは、常に間違いなのでしょうかーー実は、そうではありません。

業務の整理がどこまでできていて、どの部分が本人にしかわからないのか。その期間をどう位置づけ、本人にどんな負担をかけるのか。そして何より、その協力に対して、会社としてどう報いるのか。
……これらを言語化せずに「あと3ヶ月」と言ってしまうと、それは交渉ではなく、圧力に近いものになります。

社員が辞めると言ったとき、経営者は二つの役割を同時に担っています。一つは、事業を止めないための責任者としての役割。もう一つは、働いてきた一人の人間と、どう区切りをつけるかを決める立場としての役割です。

この二つを混同すると、判断は必ずブレます。だからこそ、感情は脇に置き、構造で考える必要がある。

社員の退職は、経営者に失敗を突きつける出来事ではありません。むしろ、会社の仕組みや関係性がどこで無理をしていたのかを教えてくれる、数少ない機会です。そのサインを、単なる「社員のワガママの問題」として処理するのか。それとも、次の組織づくりに活かす材料として受け取るのか。

さて、もしあなたの会社で同じことが起きたとしたら、どんな対応をするでしょうか。

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