社長や組織の求心力を高める ~信頼を、組織運営の実利に変える回路⑥~
信頼の具体化・共有と判断基準への落とし込みにより、採用・配置・育成・評価にかかる組織コストを下げることが、実利の創出を下支えする力になります。
「信頼や誠実さを大切にしているけど、組織運営はなかなかしんどい」
そんな感覚を持ったことはないでしょうか。
価値観を重視して採用しているはずなのに定着しない。
1人ひとりに丁寧に向き合っているのに負担が一部に集中する。
各人の働きぶりを数字だけで測りきれず、もやもやが残る。
人や信頼を大切に考える会社ほど、
「人の話をコストで語るのは違う」
「組織の話は、想いや関係性の問題だ」
と考え、こうした違和感を仕方のないものとして受け止めてしまいがちです。
けれど実際には、こうした組織運営のひずみは、
目に見えにくいかたちで、確実に経営の負担になっていきます。
今回は、信頼を大切にしてきた会社だからこそ見落としやすい
組織運営にかかる摩擦に目を向け、
それがなぜ起きるのか、どうすれば減らせるのかを考えていきます。
■なぜ、信頼を大切にするほど組織は重くなるのか
先ほど挙げた違和感は、
人や信頼を軽んじている会社よりも、
むしろそれを大切にしてきた会社の方が抱えやすいものです。
理由は単純で、信頼や誠実さを重視する会社ほど、
判断や期待を「暗黙の了解」に委ねやすいからです。
この人なら分かってくれるはず。
ここは言わなくても伝わるだろう。
丁寧に向き合えば、自然と共有できるはず。
こうした前提のもとでは、判断基準や期待されている役割が、
はっきりと言葉や形にならないまま運営が進みます。
その結果、
採用では、価値観が合っている“つもり”で迎え入れたものの、
実際に何を期待されているのかが伝わらず、早期のすれ違いが起きる。
配置では、何となくできそうな人、任せやすい人に仕事が偏り、
結果として負荷や責任のバランスが悪くなっていく。
育成では、基準を理解している人に判断や調整が集中し、
他の人は「様子を見る」側に回ってしまう。
評価では、数字に表れにくい貢献を感じてはいるものの、
何をどう評価しているのか説明できず、もやもやが残る。
こうした状態は、漠然とした信頼感のもとで、
基準を外に出さなくても何となく回ってしまっているだけなのです。
ただ、その「回っているつもり」の運営のもとでは、
知らないうちに説明・調整・判断の負担が特定の人に集まり、
経営からは見えないところにひずみを蓄積させます。
その結果、組織全体としての重さが増していくのです。
信頼を大切にしてきた会社だからこそ、
一度立ち止まって考える必要があるのは、
その信頼が、どこまで具体化されているかという点です。
■信頼は「空気」ではなく「基準」にする
前節で見たような組織のひずみは、
信頼が足りないから起きているわけではありません。
むしろ逆で、信頼を大切にしてきた会社ほど起きやすい構造的な問題があります。
それは、信頼を強調する一方で、判断の形が具体化されていないということです。
信頼を大切にする会社・経営者は、よく次のような状況を作ってしまいがちです。
- 人を疑うようなルールは作りたくない
- 現場を縛るより、任せたい
- 数字に出ない部分も大事にしたい
この、人を信じる姿勢自体はとても共感できます。
ただ、この姿勢がそのまま組織運営に使われてしまうと、
判断の軸が曖昧なまま、現場や個人の考えに委ねられてしまうことがあります。
たとえば、
- どこまで任せてよいのか
- どこからは経営判断なのか
- 何を優先し、何は切り捨ててよいのか
こうした線引きが、
「信頼しているから」「分かってくれているはずだから」
という言葉のもとに置きざれてしまう。
その結果、
- 判断に時間がかかる
- 人によって対応が変わる
- 個人がモヤモヤを抱え、不満や負担があとから噴き出す
といった摩擦につながるのです。
ここで強調したいのは、
信頼を重視すること自体が問題なのではないという点です。
問題は、会社としての信頼が
- 判断基準
- ルール
- 優先順位
といった「具体」にまで分解されていないことにあります。
つまり、
- 守るべき価値は何か
- 譲ってはいけない一線はどこか
- 判断に迷ったとき、何を基準に立ち戻るのか
これらが、会社として守るべき「信頼」として言葉として共有されていて
はじめて、信頼は組織の判断を軽くする力になります。
この整理が行われないまま、善意、空気、暗黙の了解を頼りに、
判断を預けてしまうと、その曖昧さに現場が振り回されることになります。
信頼は、経営が現場に丸投げするための免罪符ではなく、
むしろ守るべきルールや外してはならない中核価値に
明確に分解可能な旗印であるべきなのです。
■信頼の基準と人材マネジメントとのつながり
信頼を組織の力に変えるためには、
人を無条件に信用するのではなく、判断を目に見える形にする必要があります。
人材マネジメントの、採用・配置・育成・評価の観点から語るとすれば、
次のような「決めごと」を持つかどうかが分かれ目になります。
採用|「信頼できそう」ではなく、守るべき判断基準を共有しあう
苦労して採用したはいいが、自社とマッチしない、辞めてしまう。
このような場合は組織として大きなコストが発生していることになります。
信頼を採用に活用し、このような事態を避けるためには、
「信頼できそう(≒いい人そう)かどうか」ではなく、
- どんな判断は、自社ではNGなのか
- どんな状況でも、優先してほしい基準は何か
を具体化した上で、採用する側・される側に明示することです。
たとえば
「短期利益のために説明を省く判断はしない」
「安全や品質に関わる違和感は、立場に関係なく止めていい」
といった判断ルールを示したうえで選ぶ。
もちろん、採用する側・される側双方が、採用プロセスの段階で
相手のことを100%正確に理解することは不可能なので、
これで全てがうまくいくわけではありません。
それでも、入社後に「思っていた人/会社と違う」というズレは
起きにくくなります。
配置|「信頼できる人に任せる」から「業務単位で任せる」へ
配置で起きがちな問題は、
判断ができる人に仕事と責任が集中することです。
その結果、中核メンバーへの負荷増や、他メンバーの遊休が発生し、
不必要なコストが生じることになります。
これを防ぐには、それぞれの業務が
- どのような仕事か
- どんな能力が求められるか
- どこまで現場判断でよいか・どこからは上げるべきか
こうした点を、業務ごとに明確化する必要があります。
「この内容なら、この人でもできる」
「この条件までは自分で決めていい」
「ここを超えたら必ず相談する」
という判断範囲を決める。
一見、細かすぎる管理のようにも見えますが、
その方が、現時点で中心メンバーになり切れていない人にも
成長・活躍の場を与えることにもなりますし、
組織をより効率的な配置ができるようになります。
育成|「丁寧に教える」ではなく、判断の型を渡す
人財育成の場面では、
丁寧に教えているのにいつまでたっても一人前にならない、
といったことが起こりがちです。
育成にも、それに携わる人の労力も含めコストが発生しますが、
その投資効果が発揮されないことも少なくありません。
その一因は、「一人前になるには何をどう考えればいいか」が
言語化されていないことにもあるかもしれません。
ここでやるべきなのは、
- 迷ったときに戻る優先順位
- 判断を誤ったときの修正の考え方
を型として共有することです。
手順だけではなく、
「この会社では、これを大切にしているのでこう考える」
という判断の順番も同時に教える。
そうすると、手取り足取り教えこむよりも、
一人で抱え込まずに判断できる人が増えていきます。
評価|「数字以外も見る」ではなく、何を守ったかを見る
評価において、会社と従業員との間でのすれ違い、モヤモヤは
必ずと言っていいほど起こります。
その多くが、本人が「大事にしているはずの行動」が、
会社のそれとズレており、評価に反映されないことから生まれます。
信頼を大切にする会社であれば、それが具体的に何かまで言語化し、
- 売上よりも、どんな判断を守ったか
- トラブル時に、何を優先したか
を評価項目として言語化することが有効です。
結果だけでなく、会社として大切にしているものを伸ばす・守るうえで
「判断として正しかったか」を評価に含める。
信頼を守る・信頼を裏切らない行動を評価し続けることが、
その判断軸を組織に根付かせる第一歩です。
いかがだったでしょうか。
信頼をどう実利につなげるための6つの回路の最後の1つとして、
今回は組織における実利の観点をご紹介しました。
信頼を大切にすること、それ自体は非常に共感できる取り組みだと
筆者は考えていますが、場合によっては
組織のゆがみを生じさせたり、動きを鈍くしてしまうこともあります。
自社が大切にすべき「信頼」を、言語化し、
具体的な基準に変えて、人材マネジメントに落とし込む。
これを愚直に実施することが、社長の求心力や組織の結束力を
高めていくことになるでしょう。
コラムの更新をお知らせします!
コラムはいかがでしたか? 下記よりメールアドレスをご登録いただくと、更新時にご案内をお届けします(解除は随時可能です)。ぜひ、ご登録ください。

