IT導入でつまずく会社の共通点
「うちの会社の場合、絶対に現場にITを導入するのは無理です」。先日伺った会社で古参の社員さんが言い放った一言です。この会社に限ったことではなく、多くの中小企業で耳にします。高齢者が多いから、IT嫌いが多いから、言ってもやらないからなど理由は様々ですが、そこに共通の問題点があることに気づきました。
1つは、自ら仕事を変えようという意識が薄いこと。会社の事情と自分の事情を分けて考える癖がついていて、会社の事情に従えと言われればやるけれど、自分の面倒が増えるようなことには何かと理由をつけて手をつけない。この現象は、新しいことをやって会社を進歩させようという人たちの気持ちを確実にくじいていきます。
もう1つは、社員が抵抗を示したら、その段階で改革の手を緩めてしまうことです。人材不足の昨今ですから、無理強いをして辞められたり拗ねられたりしたらたまらない。で、本来やるべきことに手をつけずに課題を先送りしてしまうわけです。
ここまで読むと、「やはり人の意識の問題ではないか」と思われるかもしれません。確かにその側面はあります。しかし私は、この問題を個人の資質や年齢のせいにしてしまうのは、本質を見誤る危険があると感じています。
なぜなら、同じ人が、環境が変わると驚くほど主体的に動き出す場面を、何度も見てきたからです。
IT導入がうまくいく会社に共通しているのは、壮大なDX計画があることではありません。むしろ逆です。社員一人ひとりが「本当に困っていること」に目を向け、その課題をITで解決してあげることから始めています。
例えば、毎日同じ数字を手書きで転記している作業。例えば、探し物に30分かかっている現場。例えば、報告書づくりに残業が発生している事務作業。そこに小さなITを入れて、「あ、楽になった」と実感できる成功体験をつくる。
これは地味です。派手なシステム導入でもなければ、新聞に載る話でもありません。しかし、この「自分が楽になった」という体験こそが突破口になります。
ITが嫌なのではありません。意味のわからない変化が嫌なのです。自分にメリットが見えない改革が嫌なのです。
小さな成功体験が生まれると、空気が変わります。「あれ、意外といいかも」という声が出てきます。その声が次の挑戦を後押しします。こうして、変化が特別なことではなく、日常の一部になっていきます。
IT導入を阻んでいる本当の壁は、「変化は上から降ってくるもの」「言われたことだけやればよい」という組織文化です。改善は誰か特別な人の仕事であり、自分の仕事は今まで通り正確にこなすことだと無意識に定義されている。
その文化のまま、「AIを入れよう」「デジタル化だ」と号令をかけても、現場の空気は動きません。
一方で、うまくいく会社には「変えてよい」という文化があります。小さな改善を歓迎する。試してみることを評価する。経営者自身が学び、使ってみせる。そして、「なぜやるのか」を語り続ける。
人を変えようとすると衝突が起きます。説得や教育に力を入れるほど、相手は身構えます。
ですが、文化を変えようとすると、やるべきことが変わります。
評価基準を変える。会議で改善提案を称賛する。小さな成功事例を全社で共有する。そうした積み重ねが、「ここでは挑戦していい」という空気をつくります。
IT導入が進まない会社の多くは、「人が問題だ」と言います。しかし本当に問うべきは、「この組織は変化を歓迎する文化になっているか」ということではないでしょうか。
人の意識を無理に変えようとするのではなく、意識が自然に変わる土壌をつくる。
その視点に立ったとき、IT導入は単なる効率化ではなく、組織進化のプロセスになります。
さて、あなたの会社ではどうでしょうか。
変わらない人に焦点を当てていますか。
それとも、変われる文化を育てていますか。
人を変えるのではなく、組織文化を変える。
その発想を、いまこそ持ちたいものです。
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