第67号:ホルムズショックで日本のオーナー経営は二極化する ~供給網を制する者が市場を制する~

数日前、ある地方銀行のご紹介で、
一人の工務店オーナー社長からご相談を受けることになりました。
地方都市にある従業員約20名の工務店です。
コロナショック時に実行したゼロゼロ融資の返済負担も重なり、
元本返済停止について金融機関へ相談せざるを得ない状況に陥っていました。
相談内容を聞いた瞬間から、
「おそらく原油由来原材料の調達の問題だろう」と直感しました。
なぜなら、ホルムズショックが現実味を帯びる中、
私のもとへ寄せられる相談内容も、原材料価格高騰や調達難による収益性悪化、
あるいは売上計上遅延に関するものが増えているからです。
その社長はこうおっしゃいました。
「仕事はあるんです。」
「でも完成できないんです。」
原因は屋上防水の仕上げ材の入荷が滞っていることでした。
建物本体は完成している。
内装も終わっている。
設備も入っている。
しかし、屋上防水の仕上げ材だけが入ってこない。
その結果、最後の工程が終わらない。
最後の工程が終わらなければ引渡しできない。
引渡しできなければ請求できない。
請求できなければ入金いただけない。
この会社は仕事が無いから苦しいのではありません。
原油由来の原材料が入らないため売上が立たないのです。
この会社は20名規模の工務店です。
仕入先から見れば一定規模の工務店と言えます。
そのため、防水材以外の建築資材は何とか供給されています。
ところが屋上防水の仕上げ材だけが入ってこないのです。
購買担当者がどれだけ交渉しても納期は未定。
いつ入荷するのか誰にも分からない。
私はこの話を聞きながら、「また同じ供給順位問題か」と思いました。
ホルムズショックで、こうした問題に直面しているオーナー社長の多くは、
「不足しているのは原材料だ」と思っています。
しかし、本当に不足しているのは原材料ではありません。
供給順位なのです。
ホルムズショック後、多くのオーナー社長は
「原材料が足りない」「新しい仕入先を探さなければならない」と考えます。
また、一度も本格的な調達交渉を経験したことのない“にわかコンサルタント”に相談すれば、
「調達先を多様化しましょう」「新規仕入先を開拓しましょう」といった
絶句するような無責任な助言をされるのかもしれません。
しかし、ホルムズショック時に、そのような考え方が通用するのでしょうか。
答えは否です。
なぜなら供給不足時代に最も優先されるのは新規顧客ではなく既存顧客だからです。
東京商工リサーチによれば、2025年の全国企業倒産は1万300件となり2年連続で1万件を超えました。
負債1億円未満の倒産は7,892件で全体の76.6%を占めています。
また倒産原因を見ると、販売不振だけではありません。
人件費上昇、原材料価格高騰、エネルギー価格上昇、ゼロゼロ融資返済開始等の影響が複合的に重なっています。
つまり、ここ数年の倒産は、
人や金、原材料の手当と言った環境変化への対応に耐えられるだけの資金力が無いために、
破綻に至るケースが増えているのです。
一方、苦しいのは供給側も同じことです。
帝国データバンクの調査では、企業の52.2%が正社員不足を感じており、
建設業では約70%、運輸業では約74%が人手不足を感じています。
物流2024年問題の影響も重なり、
日本ロジスティクスシステム協会によれば2024年度の売上高物流コスト比率は5.44%と高止まりしています。
供給側も既に、ここ何年かで起きた環境変化により、余裕が無くなっているのです。
そんな状態で、ホルムズショックのようなショックが起こったため、
自社が生き残るためにも、
「自社の将来の成長を担保してくれる得意先はどこか?」を重視し、
供給順位を明確にした企業行動を取らざるおえないのです。
一般的には、ホルムズショックのようなショック時に優先される企業は、
長年取引してきた企業、支払い条件の良い企業、利益率の高い企業、売上高の高い企業だと言われます。
しかし、実態は、そのような経済的な要素だけでは仕入順位は決まらないのです。
実際の危機時に最後に効いてくるのは、
「この会社と組むことで自社の将来が担保されるはず」という信頼関係です。
私は、これまで35年にわたる調達経験を通じて、
多くの仕入先オーナー社長と交渉を重ねて参りました。
供給不足に陥った時こそ、
仕入先オーナー社長は経済合理性だけでは説明できない意思決定を行います。
常日頃よりトップ同士の対話は図られている。
困った時に直接電話できる関係が構築されている。
互いの経営課題を理解している。
互いのビジョンを共有している。
こうした関係性がある企業へは、供給側も何とかして商品を回そうとします。
なぜなら、こうした情報の非対称性を軽減する活動には、
仕入先オーナー社長は将来を預けられると思える力が備わっているからです。
だから私は、ホルムズショックで二極化するのは、
仕入先を持つ企業と持たない企業ではないと思っています。
その命運を分けるのは、仕入先と真の信頼関係を構築している企業と、構築していない企業です。
そして、このような会社同士の信頼関係構築は購買担当者の仕事ではありません。
オーナー社長の仕事です。
私はこれを「トップ主導型調達」と呼んでいます。
供給不足時代における調達活動とは、単なる経済条件の交渉ではありません。
会社と会社の信頼関係構築活動です。
だからこそ、ホルムズショックに必要なことは、
新規調達先探しではなく、既存供給先との関係再構築なのです。
しかし、ホルムズショック後に本当に怖いのは原油高ではありません。
ホルムズショック時に供給順位を明確にしたという事実は、事実として残るからです。
納期遅延程度であれば回復できます。しかし強引な値上げや商品ストップによる信頼関係の破綻は長く尾を引きます。
原油価格はいつか下がります。
しかし供給順位を明確にしたことで失った信頼関係は簡単には戻りません。
ホルムズショックの影響は、自社と仕入先との関係だけではありません。
自社とお得意様との関係にも影響します。
ショック時に低い仕入順位を付けられた顧客が離れる。
そして、売上が落ちる。利益が減る。資金繰りが悪化する。
その結果、仕入先に対する購入量が減り、仕入先から見た重要度も下がる。
そして、せっかく築き上げた供給順位が維持できなくなる。
こうした悪循環に入るのです。
だからこそ、ホルムズショック時に最も守るべき経営資源は商品ではありません。
仕入先との供給順位、お得意様との供給順位なのです。
そうすれば、ショック後の反動は最低限に抑えられるのです。
また、ホルムズショックのようなショック時に必要な関係構築は、
仕入先との関係構築だけではありません。
お得意様に対しても、正しい供給順位を決められた企業は、
競争相手の顧客を奪うことができるのです。
危機が起きますと、多くの経営者は守りを考えます。
しかし、ホルムズショックのようなショックの時こそ、
攻めの調達を考えるべきなのです。
なぜなら供給不足時代は市場シェア再編の時代だからです。
東京商工リサーチによれば、2025年の建設業倒産は2,014件となり、
12年ぶりに2,000件を超えました。
製造業倒産も1,186件に達しています。
倒産した企業の顧客も一緒になくなる訳ではありません。
供給能力を維持し、生き残った企業へ流れるのです。
供給順位の高い企業には、ショック時でも商品が入荷します。
商品が入れば納期を守れます。納期を守れれば顧客を守れます。
さらに、ショック後には、競争相手の顧客まで獲得できます。
私は35年にわたる調達経験を通じて、
過去の供給不足局面で何度も同じ現象を見て参りました。
供給不足時代とはコスト上昇の時代ではありません。
市場シェア再編の時代なのです。
そして、その勝敗を決めるのが供給順位なのです。
供給順位はトップ同士が未来を共有することから生まれます。
一般的には、供給順位は購入量、利益率、支払条件で決まると言われています。
しかし私は、それだけでは説明できない場面を何度も見て参りました。
オーナー社長であれば、
「どの企業も取引企業より取組企業を大切にする」ということは理解できるのではないでしょうか。
もし経済条件だけで全てが決まるのであれば、
同じ購入量、同じ利益率の企業は同じ仕入順位になるはずです。
しかし現実は違います。
私は35年間の調達経験の中で、
「北島さんの会社だから回します」「北島さんのところなら何とかします」
という場面に何度も助けられて参りました。
なぜ、そんなことができたのでしょうか。
トップ同士が対話できる関係を構築していたからです。
経営課題を共有していたからです。
互いのビジョンを共有していたからです。
供給不足時代に仕入先オーナー社長が見ているのは現在の数字ばかりではありません。
この会社と組めば自社の未来も良くなるという“自社の未来像”です。
供給順位とは購買力だけによって築かれるものではありません。
未来共有力によって築かれるものなのです。
「利は元にあり」という言葉がございます。
まさにオーナー経営の収益性は、調達の成否によって決まります。
ホルムズショック後に最も重要性を帯びる企業活動は調達活動です。
なぜなら供給順位を決めるのは担当者が行う購買活動ではなく調達活動だからです。
そして、オーナー経営において調達活動を成功させることができるのは社長直轄の調達チームです。
帝国データバンクによれば企業の52.2%が正社員不足を感じており、
建設業では約70%、運輸業では約74%が人手不足を感じています。
また、日本ロジスティクスシステム協会によれば2024年度の売上高物流コスト比率は5.44%と高止まりしています。
この数字が示していることは、日本全体が余裕を失っているということです。
このように、余裕が無くなりますと、企業は選別を始めます。
顧客を選別する。
取引先を選別する。
その結果として起きるのが供給順位の二極化です。
ホルムズショックは、多くのオーナー経営にとって厳しい試練になるでしょう。
しかし、それ以上に、自社の本当の強みを見つめ直し、
次の時代へ向けた経営基盤を築く絶好の機会になるはずです。
大事なことなので、もう一度お伝えします。
ホルムズショック後にオーナー経営の二極化を促すのは、
原油価格上昇が引き起こすショックに耐えられたか否かではありません。
ホルムズショック時に供給順位を維持できたか否かです。
ホルムズショック時に供給順位を高めるという仕事は購買ではなく調達の仕事です。
従って、供給順位を維持する仕事は、オーナー社長直轄の調達チームが担うべき仕事です。
だからこそ、ホルムズショックの今こそ、既存供給先との関係を磨き上げ、
自社の供給順位を高め続けなければなりません。
この供給順位を高めるオーナー社長直轄の調達チームもまた、
キラー経営資源になりうるのです。
そして、こうした仕組みを磨き上げることは、
永続不滅のファミリービジネス群を構築するための重要なカードとなりうるのです。
また、ホルムズショック後に起こる事業環境の激変を乗り越えるためには、
こうした社長直轄の調達チームをエンジェル税制認定企業とすることで、
その独立性と機動力を十分に発揮させるという選択肢も取り得るでしょう。
その場合、エンジェル税制認定企業は、
現在の事業を守るだけでなく、新たな成長へと導く事業ミックスの転換を促すことにも貢献することになるのです。
供給順位を高める有力な選択肢の一つになりうるのが、
エンジェル税制認定企業を活用した永続不滅のファミリービジネス群構築なのです。
供給網を守り、既存事業を守りながら、新たな事業ミックスへの芽を育てることこそが、
次の時代を生き抜くオーナー経営の条件になるのです。
なお、本コラムでお伝えした内容について、さらに詳しく知りたい方は、
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一人でも多くのオーナー社長が、
ホルムズショックという危機を乗り越え、
供給順位を高めるための仕組み作りという新たなキラー経営資源を確立し、
永続不滅のファミリービジネス群構築を実現されますこと、心より願っております。
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