第95号:「削る決断」ができない経営者が、薄利多忙から抜け出せない理由
「シライ先生、決断で一番難しいのは、”削る”ですね」こう仰るのは製造業を営むB社長です。
弊社はB社長にお伝えします。「そうです。それができるようになれば、B社長が心から望んでいた”ゆとりと安定”が手に入りますよ」と。この一言に、B社長は深くうなずきます。
分かっているのにできない。その葛藤こそが、多くの中小企業経営者が抱える、最も本質的な苦しさです。できない理由は意志の弱さではありません。決断を支える「土台」が整っていないからです。
B社にはいくつかの取引先があり、依頼される部品も多岐にわたります。受注には波がありますが、今は比較的多い時期です。
しかしお金が残りません。それがなぜかも「分かるようで分からない」。その状況を打ち破るために考えることは大抵共通しています。
生産設備を増やす、社員を増やす――です。しかしここでそれをやることが、先の見通せない不安から解放されることのない「薄利多忙」への道を、自ら選んでしまうことになるのです。
仕事が増えてもお金の不安が消えない――それは厚利安定事業に必要な要素が絶対的に欠けているからです。
B社の1人粗利益は700万円です。弊社が最低ラインと位置付ける1千万円には届いていません。その原因は、粗利の低い仕事で稼働が埋まっているからです。
B社の顧客構成はここ10年ほぼ変わっていません。受注量は大きく、時間粗利は小さい取引先が多い状態です。時間と人を投下している仕事が、儲からないのです。
そこで人や設備を増やそうとします。より高付加価値を実現できる設備の導入ならまだしも、既存設備のリプレイスや追加では、単純に儲からない仕事を捌く量を増やす以上のことにはなりません。
「量を増やす発想」が先立つと、本当に欲しい「将来の安定」が遠のいていきます。これが薄利多忙の怖いところです。量を増やすことで安心しようとする――その思考パターン自体が、問題の構造を温存し続けているのです。
では何が重要か。顧客や受注内容を、儲けの大きなものに「入れ替えて」いくことです。
量を増やすことが主眼ではありません。入れ替えることが重要です。時間当たり粗利をこれまでより高く取れる仕事に、能動的に入れ替えていくことです。
そのためにはまず「削らなければ」なりません。入りきらない器を嘆いて器を広げようとするのではなく、器の中身を見直すのです。そして「削る決断、取捨選択する決断」は、文字通り怖いのです。
その怖さを克服する要素が「数字構造」です。
削れば一時的に「量」が減る―多くの経営者はその点しか見ていません。
しかし「量」の減少は、数字構造を構成する数ある変数の一つに過ぎません。「量の思考」に囚われている社長にとっては、「量」が全ての判断材料になります。だから決断できないのです。
価格を上げることも同様です。価格を上げれば、量が減るリスクは絶対になくなりません。しかし重要なのはそのリスクの有無ではありません。
重要なことは、「一時的に量が減るかもしれないという事象が、将来的なお金や利益をどう変動させるか」を設計できるかどうかです。
量が減っても、利幅が上がることで将来の数字構造はどうなるのか?
減った稼働の中に、新たな価格で受注できる仕事を、確率論で獲得できるようになっているか?
自らの価値と価格を説明可能な仕組みができているか?
それが「上げる決断」「削る決断」を進める確かな土台です。土台なき決断は恐怖でしかありませんが、土台ある決断は確信になります。
量でしか物事を解決できない考え方を変えることです。価格は簡単に下げるのに、量が減ることは極端に恐れる――それでは正しい決断はできません。少なくとも安定は手に入りません。
薄利で多忙で持続性の弱い事業を変えていくのは、量による決定ではなく、数字構造全体で決定していく仕組みを作ることです。
貴社は、まだ「量」の亡霊に追われて、望まぬ薄利多忙を続けますか?
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