海外進出は「取引先探し」から始めてはいけません
海外ビジネスの構造設計 山本雄彦 SPECIAL

海外ビジネスコンサルタント。30年以上にわたり、事業開発と国際取引を手掛けてきた実績。自ら海外事業を展開する一方、300社を超える企業・団体の海外進出を支援。数千万円規模の輸出入取引から、数千億円規模の大型国際プロジェクトへの参画まで多岐にわたる。
数多くの事案を通じて、海外ビジネスの成否は「事業全体の構造」に左右されることを実感。現場で培った知見を体系化した独自の〈7つの構造設計〉を提唱し、企業が世界で勝ち続けるための海外事業の設計・構築を支援している。
「自社の商品やサービスを海外に展開したいのですが、取引相手や販路は、どうやって探せばよいでしょうか?」
海外ビジネスのご相談で、よくいただく質問の一つです。
インターネットで輸入会社や現地企業を探す。海外展示会に出展する。商社や公的機関に取引先候補を紹介してもらう。
いずれも、海外の取引相手を探すための有効な方法です。
ところが、海外進出を成功させるために、最初に行うべきことは取引先探しではありません。
まず「誰に、なぜ選ばれるのか」を考える
取引先を探し始める前に、少なくとも次の点を整理する必要があります。
- どの国や地域を狙うのか
- 現地の誰が商品を購入し、サービスを利用するのか
- どのような課題や需要に応えるのか
- 競合する商品やサービスと比べて、何が違うのか
- 現地で受け入れられる価格はいくらか
- その価格で、十分な利益を確保できるのか
これらが明確になっていなければ、候補企業を数多く集めても、実際の取引にはなかなか結び付きません。
反対に、対象とする市場、顧客、提供する価値が明確になれば、探すべき相手も見えてきます。
輸入会社と組むのか。卸売業者や小売企業へ提案するのか。販売代理店に任せるのか。現地メーカーとの協業を目指すのか。あるいは、現地のサービス事業者や専門家と連携するのか。
販路や提供経路は、商品やサービスの内容だけで決まるものではありません。
市場と顧客に合わせて設計するものなのです。
海外の取引相手を探す主な方法
海外市場における方向性を定めたら、実際に候補企業を探していきます。
代表的な方法をご紹介しましょう。
1.公的な支援機関を活用する
私自身、JETROの専門家として、企業へのアドバイスに携わってきました。
JETROでは、海外バイヤーとの商談会や海外展示会への出展支援など、取引先候補と接点を持つためのさまざまな機会が提供されています。
地域の商工会議所、自治体、金融機関などが、海外商談会を開催したり、取引先候補を紹介したりしている場合もあります。
こうした支援は、新しい市場や企業と出会うきっかけとして有効です。
一方、公的機関から紹介された企業だからといって、必ずしも自社に最適な相手であるとは限りません。
紹介を受けた後は、相手企業の販売力、信用力、取扱商品、提供サービス、顧客層、営業体制などを自社で確認し、取引の可否を慎重に判断する必要があります。
2.展示会・商談会に参加する
海外見本市や国際展示会は、多くの企業と短期間で接点を持てる貴重な機会です。
ただし、展示会へ出展すること自体を目的にしてはいけません。
成果を上げるためには、事前に現地候補企業を調べ、出展や商談の案内をし、展示方法や説明資料を対象市場に合わせて準備することが重要です。
サービスを海外へ展開する場合も、その内容や導入効果を相手に理解してもらえるよう、実績、導入事例、料金体系、提供方法などを明確に示す必要があります。
展示会の成果は、集めた名刺の枚数で決まるものではありません。
商談後にどのように相手との関係を深め、具体的な取引条件の検討へ進めるか。
その後の対応が、成果を大きく左右します。
3.企業データベースやオンライン情報を活用する
現在は、企業データベース、業界団体の会員情報、展示会の出展者一覧、LinkedInなどを通じて、海外企業の候補を探しやすくなりました。
候補企業が見つかったら、次のような情報を確認します。
- 会社の設立年と事業内容
- 主要な取扱商品や提供サービス
- 販売地域と顧客層
- 既存の取扱ブランドや事業実績
- 主要な取引先
- 事務所や倉庫などの事業実態
Dun & Bradstreet(D&B)などの海外の信用調査会社を利用すれば、財務情報や信用評価を入手できる場合もあります。
もっとも、国によって会計基準や情報開示制度は異なります。企業の自主申告に基づく情報が含まれている国もあるため、信用調査レポートの数値や評価だけで、相手企業の信用力を判断することはできません。
登記情報、事業実態、取引実績、主要な取扱先、事務所や倉庫の状況、担当者の対応、支払条件など、複数の情報を組み合わせて判断することが重要です。
可能であれば、最初から大きな契約を結ぶのではなく、小規模な取引や試験的な業務から始めます。
代金の支払い、連絡の正確さ、販売報告や業務報告、問題が起きた際の対応などを確認しながら、相手の信用力と実行力を見極めていくのです。
オンラインで企業を見つけることと、安心して長く取引できる相手を選ぶことは、まったく別の仕事です。
「紹介された会社だから安心」とは限らない
海外企業を選ぶ際には、販売力や信用力だけでなく、次の点も確認しなければなりません。
- 自社の商品やサービスをどれだけ優先して扱ってくれるのか
- 必要な営業活動や投資を行う意思があるのか
- 市場情報を継続的に共有してくれるのか
- 契約条件や役割分担を守れるのか
- 問題が起きた際に誠実に対応できるのか
最初に連絡をくれた会社や、最も熱心に話をしてきた会社が、必ずしも最適なパートナーとは限りません。
複数の候補を比較し、小さな取引を重ねながら、相手の対応力、信用力、販売力、業務遂行力を確認していくことが大切です。
取引先を探す前に、「売れる道筋」を描く
海外ビジネスでは、取引先を一社見つけることがゴールではありません。
まず考えるべきなのは、
- どの国や地域で
- どのような顧客に
- 自社の商品やサービスのどんな価値を届けるのか
- どのような方法で販売・提供するのか
という、海外で売るための道筋です。
この道筋が明確になれば、どのような機能や能力を持つ相手と組むべきかも見えてきます。
大切なのは、単に商品やサービスを「買ってくれる会社」を探すことではありません。自社が描いた海外展開の道筋を理解し、現地で一緒に実行できる相手を見つけることです。
海外進出は、
「誰か、うちの商品やサービスを買ってくれる会社はいないか」
と探し回ることから始めるものではありません。
「この市場の、この顧客に価値を届けるためには、どのような仕組みをつくり、誰と組むべきか」
を考えることから始まります。
市場を見極め、顧客と提供価値を定め、売れる道筋を描いたうえで、その実現にふさわしい取引相手を探す。
この順番こそが、海外進出を成功へ導く第一歩なのです。
コラムの更新をお知らせします!
コラムはいかがでしたか? 下記よりメールアドレスをご登録いただくと、更新時にご案内をお届けします(解除は随時可能です)。ぜひ、ご登録ください。
