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「赤ちゃんと羊羹」式ヒットの作り方

SPECIAL

商品リニューアルコンサルタント

株式会社りぼんコンサルティング

代表取締役 

商品リニューアルに特化した専門コンサルタント。「商品リニューアルこそ、中小企業にとって真の経営戦略である」という信念のもと、商品の「蘇らせ」「再活性化」「新展開」…など、事業戦略にまで高める独自の手法に、多くの経営者から注目を集める第一人者。常にマーケティング目線によって描きだされるリニューアル戦略は、ユニークかつ唯一無二の価値を提供することで定評。1969 年生まれ、日本大学芸術学部文芸学科卒。

商品リニューアルのご相談を受け、東京郊外にあるカフェの商品会議に参加しました。仮にA社としましょう。A社はもともと和菓子屋を起源としており、和菓子店併設のカフェで提供するスイーツの商品会議です。テーマは「羊羹」です。既存商品ですが売上減が続いており、かつての主力商品を何とかして復活させたい。カフェで羊羹を使った新しいデザートメニューを開発をしヒットさせ、さらに売店の羊羹商品群をアピールにつなげたい、ということです。

案内された事務所の会議室には、様々な羊羹スイーツが並びました。直感的に面白いな、と感じたのが入社三年目の女性が考案した「羊羹とチーズ」を組み合わせたデザートです。ターゲット層は20代後半から30代、40代の女性です。彼女の説明では、その地域は超高齢化世帯が相続の関係で転出、高層マンションや新興住宅が増え、そこに若い世代が転入し客層が若返り始めているとのこと。企画書を作り直近の和菓子に対する意識調査を含めて様々な裏付けデータをつけての提案です。自信を持って提案する彼女の表情と対照的なのが経営者の渋い顔。

60代半ばの二代目経営者は、理解できない、といった様子で黙り込んでいます。「羊羹とチーズ」に抵抗感がある。とのこと、企画書で説明をしても試食しても、経営者は首を縦にふりません。違和感があるの一点張り。詳しい説明を求めると「羊羹ってシニアの食べ物だよね。若い世代にニーズあるだろうか? 企画に無理があるのでは」ということです。

商品リニューアルの実務において、必ず出てくる「ニーズ」をめぐる問題です。

ご相談いただく企業の多くは中小企業です。弊社にオファーがある、ということは、自社で既存商品のリニューアルが難しい、考えたこともなかった、どうしたら良いのかわからない、という状態です。過去にたくさん勉強してきた経営者もおられます。

商工会などで企画される無料の勉強会、士業先生主催のセミナー、ビジネススクールでの勉強会でマーケティングを学んでおられます。もちろん、新聞雑誌、書籍などの紙媒体、ネット、SNSのタイムラインで販売されている「マーケティング商材」で自学したという方も多いです。本当に、今、中小企業の現場ではマーケティングを勉強されてきた経営者がたくさんおられます。よって、部下たちの提案に対して「市場にニーズはあるか?」とか「マーケットインの発想で」とダメ出しされます。

現場は現場で、経営者相手に理論武装が必要で、本業以外に企画書を作ることに追われ、会議の席では、企画書を片手に「ニーズはあります!」と裏付けデータを元に延々と説明することになり、終日「ニーズの話だけで終わった」ということも多いのではないでしょうか。経営者も現場も共に残念な状況であり、企画に飛躍が生まれない象徴的な事例です。

メーカー在職の約15年、年賀状と婚礼印刷のトップメーカーと、その後転職した大手洋菓子メーカーの実務の現場では、経営者の発想は常に「プロダクトアウト」です。もちろん、市場調査を含めマーケティングリサーチ、自社内での分析は入念です。しかし経営者には「ニーズ」から商品サービスを創っていく、という姿勢は全くありません。どちらの会社においても、創業者である社長は「ニーズも含めてデータは傾向として見ておくよ」というのが口癖となっていて、参考程度にとどめていました。需要があるのか、マーケットがあるのか、そしてないのか。傾向として確認していくプロセスは必要不可欠であり、闇雲な発想ではヒットは生まれません。しかし「ニーズ」を見ることは通過点であって、それが商品サービスの方向性を決める判断基準とすることは危険だということです。

理由はシンプルです。私たちがニーズと呼んでいるものは、すでに顕在化している人の意識を数値化、または言葉にしたものであり、私たちの頭の中から抽出した「既成概念」そのものだからです。ご存知の通り、私たちが「ある」と意識できるものを「顕在意識」と呼び、人の意識全体の10%と言われています。顕在意識は意識という世界の氷山の一角であり、90%は潜在的な「無意識」に支配されています。つまり顕在化されている需要から考えるということは、たった10%のマーケットで考えている、ということに他なりません。これは非常に危険な姿勢です。

会議中、A社社長は「でも、こういうのを若い人が食べるのかどうか・・・」となかなか納得されません。「羊羹はシニアのお菓子だ」という、長年経営者自身が肌で感じてきた感覚を手放すことができないのです。これをお読みになっている方も、常識的に考えて「羊羹」はシニアが日本茶でいただく和菓子、頭の中でそんなイメージが映像として浮かんだのではないでしょうか。

しかし、それは幻想です。そのことは、今から数年前の出来事、生後9ヶ月の息子が教えてくれました。産休中、地元ママ友と「おウチパーティー」を開きました。わが子を含めて5人、ハイハイを覚えたばかりの赤ちゃんが勢ぞろい。にぎやかに遊んでいたかと思うと、静寂が。ママたちが目を離した隙に、部屋の隅に隠しておいたママ用おやつで、切り分けてあった羊羹をわしづかみにし必死に頬張っているのです。5人の赤ちゃんが輪になってワシワシと羊羹を食べている。手づかみで羊羹まみれになりながらどんどん口に入れていく光景、勢い、うっとりとした赤ちゃんの表情。ママ友みんなが「赤ちゃんも羊羹たべるんだー」と妙に納得したものです。「羊羹は大人の食べ物である」とどこかで思い込んでいましたが、一掃されました。

さて、A社の若き担当が開発したメニューに戻りましょう。

試食して非常に面白いメニューです。大きめのスクエアの白い皿に並べられたバケット。濃厚で深いコクのある羊羹を薄くスライスしマスカルポーネチーズをトッピング、軽く温め、ピンクペッパー、黒胡椒、白胡椒でアレンジ。蕎麦のガレットにアイスクリームと小さなキューブ型の羊羹、生クリームをトッピング、、、斬新な組み合わせで、口に含んだ瞬間に「こういうのが食べたかった!」と直感しました。目の前に商品として「カタチ」になって体験してはじめて「こういうのが食べたかった!」と自分の中にある需要に気づくことができたのです。

私の体験談と試食したときの率直な印象をお伝えし、A社社長は納得してくださいました。具体策として「限定メニュー」として、期間限定商品としてリリースしテストすることを提案しました。新しい羊羹デザートの登場なので、ネーミングを社内募集することにしました。社長から現場スタッフまで、ひとり10案のネーミングを持ち寄れば100案以上が集まります。何より、現場のモチベーションもアップにもつながります。

社長、「ニーズ」という言葉が出てきたら要注意です。

商品リニューアルで既存商品を再生したいのであれば、グッと視点を上げてください。9割を占める「無意識」を含めて発想することが要請されています。

今日から「ニーズはある?」の考え方を封印してください。消費者の10%の顕在意識をみていても商品リニューアルは成功しません。視点を上げましょう。消費者の意識、人の意識はとても奥深い世界です。90%は眠っているのです。リニューアルする、再生させる、ということは、今まで眠っていた消費者の「90%の潜在意識」を見つめることです。新しい意識を目覚めせること、発掘することです。言葉を変えれば「新しいジャンル」を創ること、とも言えます。独自性につながっていきます。それが商品リニューアルの醍醐味であり、売上利益拡大への打ち手となっていきます。

9割の意識世界は手つかずの新世界です。そこに「宝」が眠っています。そこに向かって攻めてゆくことです。そのためにも、堂々巡りしている状況をしっかりと受け止め、既成概念を打破しましょう。まことしやかに言われている常識を疑いましょう。経営者自身が思考を商品リニューアル化することです。

変化することを恐れずに「商品リニューアルマインド」を一緒に作ってゆきましょう。

豊かで楽しくて、エキサイティングな独自の世界を創ってゆきましょう!

 

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