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“ネガ”から入るネーミングの突破力

SPECIAL

商品リニューアルコンサルタント

株式会社りぼんコンサルティング

代表取締役 

商品リニューアルに特化した専門コンサルタント。「商品リニューアルこそ、中小企業にとって真の経営戦略である」という信念のもと、商品の「蘇らせ」「再活性化」「新展開」…など、事業戦略にまで高める独自の手法に、多くの経営者から注目を集める第一人者。常にマーケティング目線によって描きだされるリニューアル戦略は、ユニークかつ唯一無二の価値を提供することで定評。1969 年生まれ、日本大学芸術学部文芸学科卒。

商品リニューアルにおいての生命線はズバリ「ネーミング」です。ざっくりと言えば、名前が決まればジャンルが決まり、ジャンルが決まればその後のプロモーション設計が決まってゆきます。

先日もある家電メーカーのリニューアル商品のネーミングについてご相談がありました。時短、家事効率化の流れの中で、時間短縮訴求の「調理家電」のリニューアルです。製品カタログのリミットが迫っている中、社長曰く「名前が今ひとつ決まらない」ということで困っていらっしゃいました。プロジェクトチームでは時間がないし、ネーミングは従来のままで良いのではないか、という声が出ているそうです。組織が大きくなればなるほど「現状維持」のバイアスが働くことはよくある話です。

この会社では、ネーミングについて話が出てくるだけまだ良い状況です。一般的には「ネーミングをリニューアルする」という、そもそもの発想がありません。この背景には「ネーミング」を専門的で特殊な作業、という思い込みがあります。社内外に専属のコピーライターがいればまだしも、中小企業の多くが「誰に頼んだら良いのかわからない専門分野」とし、自分たちでは作れないと棚上げしてしまうのです。

一方「ネーミングを変える必要がある」と気づく幸運もあります。大抵の場合、経営者ご自身が生活圏で出会うエンドユーザーの声や、ご自身の家族の声です。何気ない会話の中で、事業とは関係のなく暮らす純粋な生活者が「この商品て、良さはわかったけど、ネーミングがフツウすぎるよねー」といった、意見なのか、感想なのか、ただの雑談なのかわからないような、何気ない指摘です。このようなことを社内で耳にすれば身内の「素人発言」にいちいち腹立たしく感じたりするものです。が、エンドユーザーなら素直になれる心理が働きます。そして、ネーミングを改めて考えはじめるケースが多いです。

この商品のネーミング「普通」だったんだ。フツウのネーミングじゃダメなんだ・・・。そして、ここから改めて商品の「いいこと探し」が始まります。従来から改良したリニューアルのポイントは何か、競合他社にはない「強み」「持ち味」「魅力」の洗い出し・・・しかし、そうそう突出した「強み」が出てこない。なぜなら競合他社の商品サービスもまた、成熟し、ある一定のレベル以上の商品サービスだからです。

こうして時間ばかりが過ぎてゆき、次第にツール関連のリミットが迫ってきます。社内では「そこそこ従来のネーミングで認知されているのだから、ネーミングはそのままでゆけばいい」とか「この名前で一度ヒットのだから変えなくてもいいんじゃない」という空気感になります。

ネーミングのリニューアルの必要性に気がついて「どこにでもある名前」「フツウのネーミング」を突破したい。もう一度復活させ、ヒットさせたい。考え方は間違ってはいません。問題なのは「商品サービスの強みを打ち出す」という既成概念です。リニューアルした商品の「強み」を深掘りしてしまう“垂直思考”が問題なのです。「商品サービスの強みを打ち出す」は、商品サービスの競争が今ほど激しくない前の時代、モノや情報が少ない時代において王道でした。時は進み、進化しています。

閑話休題、

昨年から大ヒットしているフェイスマスクがあります。その名も「サボリーノ 目ざまシート」です。BLCカンパニーという会社が手がけ、シリーズで2億枚以上を売り上げる美容マスク、32枚入り1,300円です。

サボリーノはSaborinoと表記し、キャッチフレーズが「サボった時間で何をする?」です。商品名のショルダーコピーに「オールインワン時短コスメ♪」という文言がついています。これが商品コンセプトになります。このコンセプトは「サボリーノはただの美容マスクじゃない! “時短コスメ”という新しいジャンルの美容マスクです!」と表明しているのです。

この商品背景には、20代30代OLの「朝は1秒でも寝たい」「顔を洗うのがめんどうくさい」、子育て中の女性であれば「子供が泣いてるのが優先で顔を洗うのはムリ!」といった、人にはとても言えない本音があります。開発者の話では「洗顔、スキンケア、保湿の3ステップを1回で済まし、いかに朝の準備の時間を短縮するかに焦点を当てた」と(参考:日経MJ 8月24日号 5面)。共働き世代が急増する中、まさにトレンドと合致した商品です。

着眼すべきは「サボリーノ」というネーミングです。「さぼる」から派生した造語ですが、10人いれば9人は「さぼる」というワードに「ネガティブ」「マイナス」「後ろ向き感」を覚えるのではないでしょうか。ターゲット層である女性たちは、時短のために「洗顔をさぼる」ことに、少なからず罪悪感が生まれます。そして、この罪悪感をポジティブに変換しサボることを肯定したい!という心理が働きます。この「マイナス」から入ったネーミングこそが、この商品の勝因なのです。

サボリーノの「強み」を強調したネーミングだとすれば、ここまでヒットしたでしょうか。おそらく「他社とさほど変わらない」とか、逆に「名前ほど大したとはない」などと比較の中でポジションをとることになります。やがて高付加価値美容マスク、あるいは低価格美容マスクというジャンルでの競争で淘汰されてたかもしれません。「さぼる」というマイナス、ネガティブから入ったからこそのインパクト。そして、“サボった時間で楽しもう!”という世界観を生み出し、「時短マスク」という新しいジャンルで市場を拡大することができたのです。

商品戦略において、マーケットにアピールすべきは御社の「強み」である。強みは何ですか?と未だに問われ続けています。しかし、様々なジャンルでテクノロジーが進化している今、ほとんどの商品サービスは「強み」「長所」「魅力」満載で、ある程度の品質を保ち、欠点を探す方が難しいものです。自社商品の「いいこと探し」は「普通のこと探し」となり迷走します。

商品サービスの「いいこと探し」という深い穴を掘ってしまった時に、そこから視点を引き上げる仕組みがあるかどうか。そして、垂直思考をやめて、横に新しい穴を掘ってみる、新しい考え方にリセットできるプロジェクトチームの仕組みがあるかどうか。ネーミングというアクションもシステムのひとつとして組み込むことができているかどうか。こうした俯瞰的な設計視点が非常に重要です。ネーミングの着手に飛びつく、といった思いつきではなくて、今の時代にフィットした商品戦略を仕掛け、仕組みとして定着させることが大ヒットを生み出し、ロングセラーへとつなげる本質への道です。

売れなくなった主力商品サービスをリニューアルし、復活させるた商品リニューアル戦略。くり返しますが、中でも、ネーミングのリニューアルは大ヒットにつながる大事なポイントです。ネーミングを変える必要があるのかないのか、ネーミングのどこをどう変えるのか、変えた後にどうするのか・・・。入口の設定によって、方向性の全てが決まり、売れなかったものが復活したり、その逆もあります。「いいこと探し」はしなくても良い。むしろ、敢えてマイナスから入ることで、突破していくパワーネームを仕掛けてゆくことです。そして、パワーネームを生み出しヒットに乗せる仕組みづくりが、今求められています。

 

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