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インフレ時代の中小企業がやるべき“価格転嫁+利益率維持”の技術

SPECIAL

銀行活用で新規開拓コンサルタント

株式会社結コンサルティング

代表取締役 

銀行活用で新規開拓の仕組みづくりを行うスペシャリスト。31年間の銀行員経験で、法人4,000社以上を担当、審査部担当者としての企業審査は1,000社超の実績を誇る金融のプロフェショナル。
売上が倍増した雑貨メーカー、バックメーカー、新事業を立ち上げた化粧品メーカー、更には海外進出に成功した事例など、累計で100社以上の会社を成功に導いた実績を持つ。

インフレ時代の中小企業がやるべき“価格転嫁+利益率維持”の技術

「最近、仕入れ価格も人件費も上がり続けていて…もう限界です。価格を上げたいけれど、お客様が離れるのが怖くて踏み切れません。利益率もじわじわ下がってきていて、正直このままでは厳しいです」―これは、当社の個別相談で、建材卸売業を営む社長からいただいた切実な声です。

実際、原材料費やエネルギーコストの上昇、さらに人件費の上昇が重なり、多くの中小企業が「価格をどう扱うべきか」に頭を悩ませています。
「値上げすれば顧客が離れる。でも、据え置けば利益が削られる」
―このジレンマの中で、多くの経営者が動けなくなっています。

そして、いまだに「価格転嫁は最後の手段」「価格で勝負するのが中小企業の宿命」と思い込んでいる経営者も少なくありません。ですが、本当にそうでしょうか?

実は、インフレ時代において“価格転嫁”と“利益率の維持”は両立できます。
しかも、それは大企業だけでなく、中小企業にとっても十分に実現可能な戦略なのです。

本コラムでは、「顧客に納得してもらえる値上げの技術」と「利益を削らずにビジネスを続けていく仕組み」について、具体的に解説していきます。どうぞ最後までお付き合いください。

はじめに

「仕入れ価格が上がっているのに、値上げしたらお客様が離れてしまいそうで怖い」
最近、食品加工業を営む社長からそんな声をいただきました。

エネルギー価格の高騰、円安、物流費の上昇…。インフレの波は確実に中小企業の原価を押し上げています。しかし、それに見合った価格転嫁ができず、利益率を削りながら「なんとか回している」企業が少なくありません。

「売上は上がっているのに、なぜかお金が残らない」
こうした状態が続いているのであれば、見直すべきは“売上”ではなく“利益構造”です。

今、中小企業経営者に求められているのは、顧客の支持を得ながら利益を守る戦略的価格改定の技術です。

価格を上げるだけでは、顧客の不満や離脱を招く可能性があります。一方で、我慢を続けても資金繰りはどんどん苦しくなり、社員の給与も上げられない。その板挟みの中で経営判断が求められるのが、今のインフレ時代です。

「値上げは悪いこと」ではなく、「価値に見合った対価をいただく」こと
これを社内外にどう伝え、どう実行に移すかが、これからの経営の勝負所です。

このコラムでは、価格転嫁に踏み切る前に確認すべき視点、顧客に受け入れられる値上げの進め方、社内体制の見直し、そして経営者としての決断まで、5つのステップに分けて具体的にお伝えします。

インフレという外的要因を“危機”ではなく“成長のチャンス”に変える視点を、ぜひ本コラムから掴んでください。

1. 値上げの前に「原価構造」を見直せ

インフレの影響で原材料費や物流費、人件費までもが上昇し続ける中、多くの中小企業が「値上げをすべきかどうか」で悩んでいます。しかし、値上げを実行する前に必ずやるべきことがあります。それが、自社の原価構造と粗利構造を正確に把握することです。

単純に「仕入れが上がったから値上げする」という反射的な対応では、かえって顧客離れを引き起こす可能性があるばかりか、利益改善にもつながらない場合があります。
まず取り組むべきは、自社が本当に儲かっているのは“どの商品”で、“どの顧客”なのかを見極めることです。

この章では、原価と利益の関係性を「見える化」し、戦略的な価格転嫁を可能にするための思考と実践法を整理していきます。

1.1. 価格転嫁の前提は「粗利構造の理解」から

多くの経営者が「売上は増えているのに、利益が増えない」と悩んでいます。その原因のひとつが、粗利構造の不明瞭さです。

そもそも粗利とは、売上から変動費(仕入原価など)を引いた金額のこと。つまり、会社が「売ることで稼げる原資」です。この粗利がなければ、人件費も地代家賃も払えません。

インフレによって原価が上がれば、粗利は圧縮されます。にもかかわらず、それを精緻に把握せずに「とりあえず3%上げよう」などと値上げしても、その数字に根拠がない限り、社内にも顧客にも納得感は生まれません。

まず着手すべきは、以下のような粗利分析です。
・商品ごとの売上・原価・粗利額・粗利率の一覧化
・顧客別の利益貢献度の可視化
・販売チャネルごとの収益性の比較
このデータがなければ、値上げの根拠も戦略も成り立ちません。

粗利構造を理解することは、値上げの“理由”を見つけるだけでなく、“不要な値上げ”を避ける判断にもつながります。
根拠ある分析が、値上げの説得力を高め、社内外の納得を生みます。

1.2. 見直すべきは「利益貢献度の低い商品」

よくある間違いが、「すべての商品を一律で値上げしてしまう」ことです。これは一見手っ取り早く感じられますが、実は非常にリスクの高い方法です。
なぜなら、値上げによって顧客の反発を招く商品と、価格が上がっても離脱されにくい商品があるからです。

まず注目すべきは、「自社の利益にほとんど貢献していない商品群」です。
たとえば、手間がかかる割に粗利率が低い、リピート率が低い、キャンセル率が高い…そういった商品が意外と多く存在します。

値上げするかどうか以前に、まずは「扱うべきではない商品」「強化すべき商品」の見極めを行うことが利益率向上の第一歩です。

特に次のような商品は要注意です。
・単価が低いが、手間とコストがかかる商品
・販売数は多いが、粗利率が著しく低い商品
・クレームが多く、対応コストがかかる商品
このような商品は、価格転嫁の対象ではなく、“取扱い停止”や“廃番”の検討対象となる場合が多いのです。

逆に、粗利率が高く、顧客の満足度も高い商品は、価格改定を行っても支持されやすい傾向にあります。
このような商品を主軸に据えることで、利益構造は確実に安定していきます。

1.3. 「見せかけの売上」に騙されない

売上高は会社の“見栄”のようなものです。高ければ見栄えが良く、取引先や銀行の評価も上がるかもしれません。
しかし、経営にとって本当に重要なのは「いくら売ったか」ではなく、「いくら残ったか」です。

例えば、年商5億円を超えているにもかかわらず、営業利益が毎年数十万円という会社も珍しくありません。
よく調べてみると、利益が出ていない商品が全体の売上の半分以上を占めていた、ということもあります。

このような「見せかけの売上」を維持するために、広告宣伝費や人件費をかけ続けていると、資金繰りはますます苦しくなります。

むしろ、売上を減らしてでも、粗利率の高い商品だけに絞った方が、資金が残り、会社は強くなる。これは多くの成功企業が証明している事実です。

売上に惑わされず、本当に利益を生み出している商品のみを伸ばしていくこと。それが、インフレ下での価格転嫁戦略の出発点なのです。

小まとめ

値上げはあくまで“手段”であり、“目的”ではありません。
その前提となるのは、自社の粗利構造を正しく把握し、利益を生まない商品やサービスを見直すことです。

本当に見直すべきは価格ではなく、あなたの会社が“何で、誰に、どれだけの価値を提供しているか”という全体構造なのです。

それが見えて初めて、値上げが「会社を守る手段」として機能するようになります。次章では、その値上げを顧客に受け入れてもらうための具体的な技術について解説します。

2.「値上げの仕方」にも技術がある

原材料費や人件費が高騰する中で、「値上げしなければ利益が残らない」状況にある中小企業は少なくありません。しかし、値上げは「すればいい」というものではありません。
むしろ、“どのように伝えるか”“どのタイミングで実行するか”“顧客にどんな印象を与えるか”によって、成功と失敗が大きく分かれます。

値上げそのものが問題なのではなく、伝え方や実行の仕方次第で、顧客は離れることも、納得してくれることもあるのです。

この章では、値上げにおける実務上の注意点と、顧客との信頼関係を壊さずに価格改定を進める技術について、3つの視点から解説していきます。

2.1. 値上げは“額”より“伝え方”が9割

多くの経営者が、「値上げ=顧客離れ」と考えがちです。しかし、実際には値上げそのものではなく、「値上げの理由が曖昧なまま伝わること」が、顧客の不満や不信感を生む主因です。

たとえば、ある印刷業の経営者は、用紙代やインク代の高騰により、全商品を一律10%値上げしました。
ところが、その際に「コスト上昇により価格を改定します」とだけメールで通知した結果、取引先から「一方的で納得できない」と複数の苦情が寄せられたそうです。

一方で、同じ業界の別の経営者は、以下のような流れで伝えました。
・まず、コスト増加の具体的数値を資料にして説明
・どの部分の価格を何%改定するかを明示
・これまで価格据え置きで頑張ってきた背景を誠実に共有
・今後も品質向上・納期遵守に努めると宣言
結果として、大きな反発は起きず、むしろ「値上げしてでも御社にお願いしたい」と言ってもらえたと言います。

お客様は“価格”よりも“誠意”を見ています。
納得できる背景があれば、むしろ応援してくれることもあるのです。

2.2.「3段階」で価格を上げるステップ設計

一度に大幅な価格改定を行うと、顧客の心理的ハードルが一気に上がります。
特に長年付き合いのある既存顧客に対しては、「いきなり値上げされた」と感じると感情的な反発を生みやすくなります。

そのような場合には、段階的に価格を上げていく“ステップ設計”が有効です。
たとえば、
・予告段階(1〜2ヶ月前)
 「今後、価格改定を検討しています」とあらかじめ伝え、心の準備をしてもらう
・初期段階(軽度の値上げ)
 全体の1割〜2割の商品だけを対象に、まず5%ほどの値上げを実施
・本格段階(全体への適用)
 顧客の反応や市場状況を見ながら、段階的に全商品に展開していく
このように時間をかけて「馴染ませる」ことで、値上げのインパクトを心理的に緩和し、顧客の離脱を防ぐことができます。

また、価格を変更する際には「◯月◯日から新価格に変更させていただきます」という明確な期日を事前に通知し、顧客の準備期間を確保することも重要です。

価格改定は一度きりのイベントではなく、戦略的に段階を踏んで「慣れさせる」ことが成功への近道なのです。

2.3. 品質を高め、価格改定の納得感をつくる

値上げをする際には、「高くなる」ことばかりが顧客にフォーカスされがちです。
そこで、価格改定と並行して「体感価値の向上」をセットで実行することで、納得感を演出することが可能になります。

たとえば、
・納期を1日早くする
・電話対応の品質を上げる(つながりやすさ・丁寧さ)
・商品同梱の案内や提案書の質を高める
・Webでの注文・発注の利便性を強化する
・包装資材や店舗の見栄えを改善する
「値段は上がったけど、前より使いやすくなった」「以前より安心して任せられる」
そう思ってもらえたとき、価格改定はただの“負担”ではなく“進化”として受け入れられます。

ある建築会社では、価格を5%上げる代わりに、アフターサポートの回数を2倍にしました。結果、顧客満足度が向上し、紹介による新規案件が前年比130%になったという事例もあります。

価格は「数字」ですが、満足度は「体感」です。
その体感を高める工夫こそが、値上げ後の継続率を左右します。

小まとめ

「値上げします」という事実だけを伝えるのではなく、どのように伝えるか、どの順番で実行するか、顧客にどんな価値を返すかまで設計することで、値上げは“ネガティブな出来事”ではなく、“信頼を深める機会”になります。

値上げとは、ただ価格を変える行為ではありません。それは、顧客との関係を再定義し、経営の質を問われる瞬間です。

この技術を磨けるかどうかが、インフレ時代を乗り越えられるかどうかを分ける分岐点となります。次章では、値上げに伴い「顧客をどう選別するか」について踏み込んでいきます。

3. 顧客を“選別”せよ

値上げに踏み切る前後で、経営者が直面する課題の一つが「顧客離れの恐怖」です。特に「価格に敏感な顧客」が多い業種では、値上げをきっかけに契約を打ち切られるのではないかと不安になる方も多いでしょう。
しかし、ここで改めて考えるべきことがあります。

すべての顧客と“付き合い続けること”が、果たして本当に会社の利益につながっているのかという視点です。

経営は限られた経営資源(人・時間・お金)を「どこに集中させるか」の連続です。値上げ局面だからこそ、顧客の見直しと再分類を行い、「本当に大切にすべき顧客」に集中するチャンスでもあります。

3.1. 値段にしか反応しない顧客は、いずれ離れる

値段でしか取引先を選ばない顧客は、いくら頑張ってもいつかは離れます。

「他社より1円でも安ければOK」というスタンスの顧客に、どれほど品質や対応力で応えても、その価値は価格競争の中に埋もれてしまいます
こうした顧客との関係は、売上は上がっても利益率を圧迫し、従業員の疲弊を招き、長期的には会社の体力を奪います。

ある中小製造業の事例では、大手企業からの大量発注があったものの、価格交渉で大幅な値引き要求を受け続けていた結果、粗利率は5%を下回っていました。その企業は、「量があるから仕方ない」と対応を続けていたものの、値上げ交渉のタイミングであっさり契約を打ち切られてしまいました。

値引きだけでつながっている関係性は、いつか必ず崩れます。
であれば、最初から「価格だけで判断する顧客」は、自社の戦略から外していくという選択があってもいいのです。

3.2. 粗利率の高い「優良顧客」に集中する

すべての顧客が平等ではありません。
同じように見える顧客の中にも、会社にとって「利益を生み出す顧客」と「利益を圧迫する顧客」が存在します。

粗利率の高い商品を安定的に購入し、支払いもスムーズ、クレームや返品も少ない—そうした顧客は、会社の継続的な成長にとって非常に重要な存在です。

こうした顧客層を特定するには、以下のようなデータ分析が有効です。
・顧客別の売上・粗利率・支払い状況の一覧化
・受注頻度やリピート率の確認
・営業工数(商談回数や要対応時間)の可視化
このような情報をもとに「優良顧客リスト」を作成し、経営資源を利益を生む取引先に集中させるという判断が必要です。

「付き合いが長いから」「昔からの取引だから」という情ではなく、「これからの会社の利益構造にとって重要かどうか」で判断する視点が求められます。

3.3. 評価してくれる顧客と関係を深める

値段ではなく、提供価値で選んでくれる顧客と出会い、関係を深めていくことこそが、価格競争に巻き込まれずに経営を安定させる最短ルートです。

たとえば、IT企業であれば「納期が早い」「セキュリティが強い」「保守対応が手厚い」など、価格以外の差別化ポイントを明確に伝えることで、価格以外の部分で信頼を勝ち得ることができます。

その際に重要なのは、自社の価値を“自分たちで言語化”できているかどうかです。
「うちは誠実な対応をしています」「お客様第一です」といった抽象的な価値では、顧客には伝わりません。実際の事例・実績・データをもとに、具体的な価値として提示できているかどうかが、信頼構築の基盤となります。

そして、その価値を理解してくれる顧客と対等に関係を築くこと。値引きしなくても納得して付き合ってくれる顧客を増やすこと。それが、利益率を守りながらビジネスを成長させるために必要な視点です。

小まとめ

値上げを検討する際、つい「誰も離れてほしくない」と思ってしまいます。しかし、それは経営資源を分散させ、結果的に会社を疲弊させる要因にもなり得ます。

本当に残すべきは、“価格”で付き合う顧客ではなく、“価値”で付き合える顧客です。

そのためには、既存顧客を数字で見直し、営業戦略を再設計する必要があります。「誰と、どんな取引をして、どんな未来を描いていくのか」—この問いに真剣に向き合うことが、インフレ時代の値上げ戦略において最も重要な経営判断と言えるでしょう。

次章では、価格転嫁と並行して社内体制やマインドをどう変えていくべきかをお伝えします。

4. 社内意識とオペレーションを変える

価格転嫁は経営者だけで完結するものではありません。お客様に接するのは現場であり、営業であり、スタッフ一人ひとりです。いくら社長が適正価格の必要性を認識していても、社内が「売上重視」のままでは、利益率を守る戦略は浸透しません

インフレ下での利益確保を成功させるためには、社内全体の意識改革とオペレーションの見直しが不可欠です。

この章では、売上至上主義から脱却し、適正価格を全社で守る文化をつくるための3つの具体的アプローチをご紹介します。

4.1. 「利益率重視」の社内KPIに切り替える

多くの企業では、営業も現場も「売上額」を第一目標としたKPI(評価指標)で動いています。
例えば、「月間売上1,000万円を達成すること」や「前年比○%増」などがそれにあたります。

しかし、これらの指標は「売上さえ伸びればよい」という誤解を生みやすく、結果的に値引きに走ったり、利益率の低い案件ばかりを取ってくる行動を助長します。

いま求められているのは、「売上」ではなく「粗利額」や「粗利率」を基軸としたKPIへの転換です。

たとえば、以下のような指標設計が有効です。
・「粗利率25%以上の案件獲得数」
・「営業1人あたりの粗利総額」
・「1商品あたりの原価構造改善率」
・「価格据え置きによる利益減少の抑制効果」
このように利益を“見える化”し、数字で共有することで、現場の行動は変わっていきます。

また、KPIの変更は単なる評価制度の話ではありません。社員に「何が評価されるのか」を明確に示すことが、意識と行動を変える最短ルートです。

4.2. 営業現場が「価格に自信を持てる」教育をする

多くの現場営業マンが、「この価格で本当に売れるのか?」という不安を抱えたまま、値上げ後の商品を提案しています

その背景には、商品・サービスの価値や原価構造を十分に理解していないという問題があります。
「なんとなく高くなったから、なんとなく申し訳ない」と感じている営業が、堂々と価格を提示できるはずがありません。

そこで重要になるのが、社内研修や社内共有の場です。以下のような取り組みが現場力を大きく変えます。
・原材料や人件費の上昇率など、値上げの根拠を共有
・自社の商品が他社と比べてどのように優れているかを整理
・「高くても選ばれている」成功事例を営業同士で共有
・クレーム対応ではなく、納得してもらう“説明の仕方”を習得する
・ある建設会社では、値上げ後の営業ロールプレイングを全営業社員で実施。
結果、受注率がむしろ向上し、「自信を持って話せるようになった」という声が多く挙がりました。

価格に自信が持てなければ、顧客に価値は伝わりません。
教育を通じて「この価格は妥当である」という確信を社内で共有することが、価格戦略を成功させる前提条件です。

4.3. 社員全員で“価格を守る文化”をつくる

「値上げ=悪」というイメージを社内から払拭しない限り、どれだけ戦略を練っても現場でブレーキがかかります。

営業だけでなく、事務や製造、カスタマーサポートなどすべての部門が、「適正価格はお客様への誠実さである」という認識を持つ必要があります。

たとえば、以下のような社内活動が有効です。
・月次で「値上げ後の成果報告」を全社で共有
・「価格を守った成功事例」を社内報や朝礼で紹介
・お客様からの感謝の声を掲示・シェアして自信に変える
・社員の提案から「価格以外の付加価値改善案」を募る
これらを継続的に行うことで、「価格は守るもの」「利益はチーム全体で作るもの」という文化が社内に根づいていきます。

値上げ戦略の本質は、単に価格を上げることではなく、「その価格で会社を支える組織をどうつくるか」にあります。

小まとめ

適正な価格を実現するためには、営業や現場だけでなく、会社全体で「利益を意識する文化」へと移行していくことが不可欠です。

売上至上主義から脱却し、利益を軸に据えたKPIに切り替えること。
そのうえで、現場に価格の背景と自信を与え、全社で価値と価格を守る体制を整える。
これこそが、短期的な値上げ成功ではなく、長期的に利益を守り続けるための真の戦略です。

次章では、この取り組みをさらに加速させるために、経営者自身がどのような決断と覚悟を持つべきかを解説します。

5.「利益率を守る経営者の覚悟」を持つ

ここまで、価格転嫁や粗利の改善、顧客選別、社内体制の整備についてお伝えしてきました。しかし、どれほど仕組みや手法を整えても、最終的に意思決定を行うのは経営者自身です。

利益率を守れるかどうかは、「戦略」ではなく「覚悟」にかかっています。
逆風の中でも利益を確保し続ける企業は、例外なく「経営者が損得以上の決断」をしています。

この章では、利益を守るために経営者が持つべき3つの視点と、その実践について具体的にご紹介します。

5.1. 社長が「儲からない売上」を切る勇気を持つ

「売上はあるけど利益が出ない」という状態を放置していないでしょうか。

多くの中小企業では、売上を追いかけるあまり、利益の薄い案件も惰性で受け続けてしまうケースが後を絶ちません。
「昔からの取引だから」「量があるから」「取引先との関係を壊したくないから」—そのような理由で、粗利の低い仕事を抱え続けると、じわじわと会社の体力が削られていきます。

ある製造業の社長は、年商3億円のうち、実は半分が粗利10%未満の案件で構成されていることに気づきました。その結果、人件費や設備負担が集中し、黒字化が極めて難しくなっていたのです。

そこで社長は、最も利益率が低い上位3件の取引を勇気を持って打ち切る決断をしました。一時的に売上は落ちたものの、数ヶ月後には利益率が改善し、資金繰りが劇的に楽になったといいます。

「売上が減っても、利益が増えるならその方が正解」—この感覚を持てるかどうかが、これからの経営の分かれ目です。

5.2. 「選ばれる会社」になる努力をやめない

価格競争に巻き込まれるのは、価格以外に選ばれる理由がない場合です。
つまり、他社と比較され、値段でしか差がつかない状況を自らつくっているのです。

一方で、世の中には「価格が高くても、この会社にお願いしたい」と言われる企業が確かに存在します。そうした企業は、営業トークではなく、「価値を伝える力」を持っています。

それは、単に商品力の問題だけではありません。
・提案の精度が高い
・対応が早い
・トラブル時のフォローが丁寧
・担当者が信頼できる
・アフターケアが手厚い
こうした「価格以外の満足」が積み重なっていくと、顧客は「多少高くても納得できる」と感じます。

比較されない会社とは、“高いけど安心”と言われる会社です。
そして、その地位を獲得するには、日々の業務改善や社員教育、顧客対応の一つひとつが問われます。

「価格を上げても、選ばれる会社になる」ための努力を、経営者が先頭に立ってやめないこと。それが、安定した利益を生む経営の基礎となります。

5.3. インフレを成長のチャンスと捉える

原価高騰、物流費上昇、人件費の上昇。確かにインフレは経営にとって逆風です。
しかし、こうした局面こそが「選ばれる会社」と「淘汰される会社」が明確に分かれるタイミングでもあります。

多くの経営者は、インフレを「外的な脅威」として受け止めがちです。しかし、見方を変えれば、価格転嫁を通じて自社の価値を見直し、利益構造を再構築するチャンスとも言えます。

たとえば、
・「なぜこの価格で提供しているのか?」を社内で議論する
・「顧客はどの価値に一番喜んでいるのか?」を再確認する
・「手間はかかるが儲からない業務」をやめる検討を始める
・「人に頼りすぎた業務」を仕組みに置き換える
こうした取り組みを通じて、インフレは単なるコストアップではなく、自社を一段階上に引き上げるきっかけになります。

変化のときこそ、改革の絶好のタイミングです。停滞するのではなく、踏み出す側に回ることが、結果的に会社の未来を明るくするのです。

小まとめ

値上げは戦術であり、「利益を守り抜く」という覚悟がなければ継続できません。
そして、その覚悟は現場の実行や仕組みづくりよりも先に、社長自身が強く持つべきものです

儲からない売上を手放す決断。
・選ばれる会社を目指す努力。
・そして、変化をチャンスと捉える視点。

これらを経営の土台に据えることで、インフレに打ち勝つ企業体質を手に入れることができます。

次の「まとめ」では、ここまでの5つの戦略を再確認し、具体的に何から始めるべきかを整理していきましょう。

まとめ

インフレ時代において中小企業が生き残り、さらに発展していくためには、単なる値上げではなく、戦略的かつ全社的な利益構造の見直しが求められます。

まず取り組むべきは、値上げの前に「自社の原価と利益構造」を徹底的に見える化し、どこで利益が出ているのかを明確にすることです。
そのうえで、顧客に受け入れてもらえるよう「段階的かつ丁寧な価格改定」を設計し、伝え方を工夫することが欠かせません。

売上があるだけでは、会社は強くなりません。本当に守るべきは、売上よりも利益率です。
そのためには、「値段でしか選ばれない顧客」ではなく、価値を正当に評価してくれる顧客との関係を強化する発想が必要です。

さらに、適正な価格を実現するためには、社内の意識改革と行動の変革が不可欠です。営業現場が価格に自信を持ち、全社員が「価格は守るもの」という共通認識を持つことで、価格戦略は初めて機能します。

そして最後に、すべての起点となるのが経営者自身の「覚悟」です。
儲からない売上を手放し、選ばれる会社になる努力を続け、インフレを成長の機会として捉える視点こそが、企業の未来を明るく照らします。

今が変わるタイミングです。
価格転嫁は“言い訳”ではなく、“企業価値の再設計”です。
あなたは経営者としての「覚悟」が持てましたでしょうか?
今日から、自社にとっての「利益を守る一歩」を踏み出してみてください。

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