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「辞めたい」と言われたら?社長が取るべき神対応5選

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銀行活用で新規開拓コンサルタント

株式会社結コンサルティング

代表取締役 

銀行活用で新規開拓の仕組みづくりを行うスペシャリスト。31年間の銀行員経験で、法人4,000社以上を担当、審査部担当者としての企業審査は1,000社超の実績を誇る金融のプロフェショナル。
売上が倍増した雑貨メーカー、バックメーカー、新事業を立ち上げた化粧品メーカー、更には海外進出に成功した事例など、累計で100社以上の会社を成功に導いた実績を持つ。

「辞めたい」と言われたら?社長が取るべき神対応5選

「社長、すみません。実は、退職を考えていまして…」

これは、ある建設業の経営者から寄せられたエピソードです。
入社して5年、現場を任せられるようになった若手社員から突然告げられたこの言葉に、社長は言葉を失ったといいます。
「えっ、なぜ?最近ようやく育ってきたところだったのに…」と混乱しながらも、無理に引き止めることはできず、ただ唖然とするばかりだったそうです。

最近はこのようなご相談が、製造業、飲食業、サービス業など、業種を問わず増えてきています。
「せっかく採用して育てたのに、なぜ辞めてしまうのか?」
「どう対応すれば、辞めずに残ってもらえるのか?」
このような悩みは、今や人材不足に直面するすべての中小企業に共通する経営課題と言えるでしょう。

もちろん、どれだけ大切にしていても、辞める人は辞めます。
しかし、そう言って諦めてしまえば、それ以上の改善はありません。

実は、「辞めたい」と言われた“そのとき”の社長の対応次第で、社員の気持ちは変わることがあるのです。

では、具体的にどう向き合い、どう行動すればよいのでしょうか?

本コラムでは、社員から「辞めたい」と言われたときに、社長が取るべき“5つの対応ステップ”を解説しながら、退職を「ただの損失」に終わらせず、会社の信頼と仕組みを強化する機会へと変えていく視点をお届けします。

はじめに

「社長、少しお時間よろしいでしょうか?」

この一言を前にして、経営者の多くは胸騒ぎを感じるはずです。案の定、続く言葉は「辞めたいんです」。どれだけ信頼してきた社員でも、この瞬間だけは距離を感じずにはいられません。

人手不足が深刻化する中小企業にとって、社員の退職は業務の混乱を招くだけでなく、会社の士気や信用にも直結する深刻な問題です。にもかかわらず、「ああ、そうか…仕方ないね」といった無難な対応で済ませてしまう社長も少なくありません。

しかし、本当にその場で失っていい人材なのか?と立ち止まって考えることが必要です。
辞めたいという申し出は、単なる個人の決断ではなく、「今の会社のあり方に対するメッセージ」であることも多いのです。

そして、このタイミングこそが、経営者にとっての“向き合い直し”のチャンスです。
ここでの対応次第で、「退職」という流れを変えることもできますし、仮に送り出すとしても、会社にとってプラスの関係性を築くことができます。

このコラムでは、社員から「辞めたい」と言われたときに、社長がどのように対応すればよいのか、その具体的な行動を5つのステップに分けてお伝えします。
それは“テクニック”ではなく、社員との信頼関係を再構築するための“姿勢”です。

辞めたいと言われた瞬間から、会社の未来が変わる。
そんな一歩を踏み出すためのヒントとして、ぜひ最後までお読みください。

1. まずは“受け止める”が最優先

社員から「辞めたい」と言われたとき、多くの経営者がまず抱えるのは“動揺”です。
「なぜ突然?」「裏切られた気がする」「どうしてもっと早く相談してくれなかったのか」——。頭の中に様々な思考が渦巻き、感情が先に立ってしまうのは自然なことです。

しかし、経営者として最初にすべきことは、感情を表に出すことでも、すぐに説得を始めることでもありません。
まず、社員の言葉をしっかりと“受け止めること”。これが最も重要な第一歩です。
社員の退職意向は、その裏側に必ず“何かの理由”があります。それを引き出し、真の課題に向き合うには、最初の対応が全てを左右するといっても過言ではありません。

1.1. 動揺しない社長が信頼をつくる

「辞めたいんです」と言われた瞬間、顔がこわばったり、声のトーンが変わったり、ため息が漏れたりする社長は意外と多いものです。
社員はその反応を見ています。そして、そこで受け取る印象が「話してよかった」なのか、「やっぱり話すんじゃなかった」なのかが、今後のすべてに影響します。

信頼を築くために、社長が最初にできることは、まず自分の感情を整えることです。
その場で言い返したり、慌てて引き留めたりするのではなく、一度深呼吸して言葉を選ぶこと。それだけでも社員の安心感はまるで違います。

社員の退職意思がすでに固まっているかどうかにかかわらず、まずは話す勇気を持ってくれたこと自体を尊重する。
その姿勢が、対話を可能にします。

感情的になった瞬間に、社員の心のシャッターは下りる。
「もうこの人には話せない」と感じさせてしまったら、引き返すことは難しくなります。

社長の安定した姿勢が「この人には本音を話してもいい」と思わせる土台になります。

1.2. 最初の一言は「話してくれてありがとう」

退職を申し出てきた社員に、あなたは何と返しますか?

「なんでだよ」「何が不満なんだ」「困るよ」——そのどれもが社長の本音かもしれません。
しかし、最初に発する一言としてふさわしいのは、そうした反射的な言葉ではありません。

最初にかけるべき言葉は、
「話してくれて、ありがとう」です。

この一言は、単なる挨拶や儀礼ではありません。社員にとって、「辞めたい」という言葉を社長に伝えるのは、極めて大きな心理的ハードルを伴う行為です。
勇気を出して踏み出したその行動を認め、感謝することが、信頼の前提になります。

「まず聞く姿勢をとってくれた」「ちゃんと受け止めてくれた」という実感が、社員にとっては大きな安心材料になります。
これは、今後の面談や引き止めの成否以前に、「この人となら冷静に話ができる」という前提条件を整える役割を果たします。

また、「ありがとう」の一言は、社長自身の心を落ち着かせる効果もあります。
一呼吸置いて感謝を伝えることで、自身の感情も整理され、冷静に事実と向き合えるようになります。

1.3. 評価・判断を一切しない

退職を申し出られると、社長の頭の中では瞬時に“評価”や“分析”が走ります。

「この程度のことで辞めるなんて、まだ甘いな」
「なんだ、他社に引き抜かれたのか」
「どうせ今の若いやつは根性がないんだよ」

このように、無意識のうちに「社員の退職=間違っている」「もったいない判断だ」と決めつけてしまう方は少なくありません。
しかし、これらの判断を口にしてしまうと、社員との間に「分断」が生まれます。

初動で“評価する姿勢”を見せてしまうと、社員は二度と本音を言わなくなります。

たとえ社長の見解が正しかったとしても、「聞いてもらえなかった」「否定された」と感じた社員の心は、その瞬間に会社から離れてしまいます。

だからこそ、最初の面談ではアドバイスも否定も封印し、「そう思ったんだね」「なるほど、そう感じていたんだね」と受け止める姿勢に徹することが大切です。

この「評価・判断をしない姿勢」があるからこそ、その後に真剣な対話ができ、辞めたいという申し出の本当の理由を聞き出すことが可能になります。

小まとめ

社員の「辞めたい」という言葉に対して、社長が取るべき最初の対応は、たった一つです。
感情ではなく、“姿勢”で受け止めること。

それができるかどうかで、今後の関係性は大きく変わります。
反射的な言葉は要注意です。
社員は“社長の一言”を、その会社の“本音”として受け取るからです。

まずは、社員が話してくれたこと自体に感謝し、どんな思いでその言葉を伝えてきたのか、評価せずに受け止める。
この最初のステップが、離職を防ぐかどうかの分岐点となるのです。

2. 本音を引き出す“聞く姿勢”

「辞めたい」という言葉の裏には、必ず理由があります。
ただし、社員がその“本当の理由”を素直に話してくれるとは限りません。

面談の場で語られる言葉の多くは、表面的なものだったり、社長に配慮して柔らかくされた言葉だったりします。
たとえば、「キャリアアップのため」「家族の事情で」などがそれに当たります。

もちろん、そうした理由が嘘というわけではありません。
しかし、その根底には「本当はこのまま働きたかった」「でも言えないことがあった」といった思いが隠れていることもあります。

その“本音”を引き出せるかどうかは、社長の“聞く姿勢”にかかっています。

2.1. 「本当に辞めたい」のか「迷っている」のかを見極める

まず確認すべきは、社員の“退職意志の強さ”です。
もう退職届まで書いているのか、それともまだ悩んでいるのか。
この見極めをせずに、一方的な引き止めや説得に入るのは非常に危険です。

「もう他社の内定が決まっている」「家族と相談して決めました」など、完全に決断している場合は、強引な引き止めは逆効果になります。
一方で、「最近ちょっと考えてまして…」というような相談段階であれば、丁寧な対話によって気持ちを整理し直してもらえる余地があります。

ここで大切なのは、社長自身が社員の状態を“白か黒か”で判断するのではなく、「今、どの段階にいるか?」という“グラデーション”で捉えることです。

「辞めたいです」と言われたときこそ、最初に“聞くべきこと”は、「もう決めたこと?」の一言。
この問いかけだけでも、会話のトーンが変わり、今後の方針が明確になります。

2.2. 話す内容よりも“話す空気”をつくる

面談においては、内容よりも“空気”の方が重要な場面が多々あります。

形式的なヒアリングシートや、会議室の真ん中に座っての堅苦しい雰囲気では、社員は本音を話しません。
むしろ、普段よりもフランクな場所、落ち着いて話せるタイミングを選ぶだけでも、相手の心の開き方がまったく違ってきます。

「聞いているようで、聞いていない」
「話しても変わらないと感じた」
このような“聴く姿勢の欠如”が、社員の本音を遠ざけます。

社長の表情、うなずき、沈黙の扱い方――すべてが社員の安心感を左右する「空気の要素」です。

聞くときには、否定しない、途中で遮らない、スマホをいじらない――この基本の徹底だけでも、印象は大きく変わります。
社員にとって「この人は本当に自分の話を聞こうとしている」と感じられるかどうかが、本音を引き出すか否かの分岐点です。

2.3. 「何に困っていたのか?」の掘り下げが重要

退職理由を聞いて「なるほど、分かった」と終わらせるのは早計です。

多くの経営者は、「待遇が不満か?」「人間関係か?」「仕事が合っていないのか?」と原因を外側で探しがちです。
しかし、本当に重要なのは、「なぜそう感じるようになったのか」という“プロセス”に焦点を当てることです。

たとえば、「仕事が合わない」と言われたとしても、単に能力の問題ではなく、
「上司とのコミュニケーションがうまくいかなかった」
「最初に期待された業務と実際の内容が違った」
といった背景があるかもしれません。

また、「給与が低い」と言われた場合も、それが問題の本質ではなく、
「頑張っても評価されていない」
「社長が自分の成果を見ていない」と感じていることが根底にある可能性もあります。

「どこが嫌だった?」ではなく、「何に困っていたの?」と尋ねることが本音への扉を開きます。

問題の“現象”ではなく、“心のひっかかり”に焦点を当てることで、社員は少しずつ心を開いてくれます。

小まとめ

社員の本音は、聞こうとしなければ語られません。
そして、聞く姿勢が整っていなければ、語ってもらえることもありません。

「辞めたい」と言われたときこそ、社長に求められるのは“話させる技術”ではなく、“聴き尽くす覚悟”です。

表面的な理由に飛びつかず、「どんな思いを抱えていたのか」を掘り下げること。
それができれば、辞めたいという意思も変わる可能性がありますし、仮に退職するにしても、会社にとって大きな学びを残してくれます。

聞く姿勢を整えることで、社員との関係性は深まり、会社の“内側”を変えるきっかけにもなります。
「辞めたい」の言葉を未来への一歩に変えるには、まず耳を傾けるところから始まるのです。

3. 社長の“理解力”が社員の信頼を左右する

「辞めたい」という言葉を真正面から受け止め、本音を引き出すことができたら、次に求められるのは、“社長の理解力”です。

ここで言う理解力とは、ただ「そうか、わかったよ」と受け入れることではありません。
社員の気持ちの奥底にある感情や背景に共感し、それを組織としてどう捉えるか、どう応えるかという“経営的理解”を含みます。

社員は「わかってもらえた」と感じた瞬間に、会社に対する信頼を回復します。
そのため、社長の反応が表面的なものであればあるほど、社員は「やっぱり伝わらなかった」と失望し、最終的な退職を選んでしまうのです。

3.1. 社長がズレていると、社員の心は離れる

面談の中で、社員が勇気を出して語ってくれた言葉に対して、社長が「でも、それは君の思い込みじゃないか?」や「それは誰にでもあることだよ」と言ってしまう場面は少なくありません。

もちろん社長には社長なりの視点があります。しかし、社員が「この会社はもう無理だ」と感じるのは、こうした“ズレた反応”が繰り返されるときです。

社員は、自分の感じたことを否定されたときに、「ここでは自分の気持ちは大事にされない」と判断します。

たとえ社員の感じ方が過剰であっても、それが事実とズレていたとしても、「そう感じた」という事実は否定できません。

共感しないまま、正論だけで上塗りすると、社員の心は完全に離れていきます。

社員の話に対して、「そんなふうに感じていたんだね」「そこまで思いつめていたとは気づかなかった」という一言があるかどうかで、その後の関係性が大きく変わってきます。

3.2. 「うちの会社はここが悪い」と社長が先に言う

多くの経営者が、“問題があること”を認めることに対して抵抗を感じています。
「経営者が会社の悪口を言ってはいけない」「問題を認めたら、社員に舐められるのではないか」と感じることもあるでしょう。

しかし、社員から「辞めたい」と言われている状況では、防御的な姿勢は逆効果です。
むしろ、社長自らが「うちのこういうところ、たしかに改善の余地があるね」と言うことで、社員は心を開き始めます。

社員は“問題がある会社”を嫌うのではなく、“問題を認めない会社”に失望するのです。

経営者が非を認めるという行動は、むしろ「誠実なリーダー」としての信頼を高めます。そしてそれは、社員にとって「この会社は変わろうとしている」という希望にもつながります。

3.3. “個”ではなく“組織”としての問題として捉える

退職の理由を「〇〇さんの人間関係がうまくいかなくて…」などと“個人の問題”に押し込めてしまうと、根本的な改善にはつながりません。

社員一人の意見のように見えても、その背景には組織の構造的な課題が隠れているケースが非常に多いのです。

たとえば、「上司との関係が悪かった」という表面的な退職理由の奥には、「上司が忙しすぎてフォローできない」「上司も育成されていない」という組織の問題があります。

あるいは、「仕事がつまらない」という理由も、実際には「目標が共有されていない」「裁量がない」「成長の機会が感じられない」といった経営側のマネジメント設計に問題があることも。

社長の理解が“個別対応”で終わると、同じ問題は必ず繰り返されます。

だからこそ、社員からの退職理由をヒアリングしたら、それを「会社全体の仕組みや風土にどう関係しているか」という視点で分析することが必要です。

この視点を持っている社長は、社員が「辞めたい」と言っても、その出来事を“会社の成長機会”として活かせるのです。

小まとめ

“理解しているつもり”になってしまうのが、経営者の落とし穴です。

社員の言葉を本気で受け止め、それを経営者として咀嚼し、組織の中で位置づけるという力――それが「理解力」です。

その理解力があるかどうかで、社員の信頼は決まり、会社の未来は分かれます。

「辞めたい」と言われたときこそ、会社に何が起きているかを見つめ直すチャンスです。

社長の理解力こそが、社員の声を“辞める理由”から“残る理由”へと転換させる力となるのです。

4. 社員の声を“行動”で返す

社員からの「辞めたい」という申し出に、社長が感情を抑えて受け止め、さらに本音を引き出し、深く理解する——。
ここまでできる経営者は、すでに相当信頼されている方だと言えます。

しかし、それでも社員が最終的に「残ろう」と思えるかどうかは、社長の“その後の行動”にかかっています。

いくら共感しても、理解しても、「何も変わらなければ意味がない」と社員は判断します。

つまり、「辞めたい」と言われたときの本当の勝負は、面談後から始まるのです。
ここでは、社員の声を確実に“信頼回復の行動”へとつなげていくための3つの視点をご紹介します。

4.1. 具体的な改善策をその場で約束しない

面談中、社員の話を聞いているうちに「それならこう変えるよ!」「今すぐ見直そう」と前向きな言葉を返したくなる気持ちは分かります。
ですが、その場での“即断・即決”は危険です。

なぜなら、社員にとっては、
「え? そんなに簡単に変えられるなら、今までなんで放置してたの?」
という不信感につながる恐れがあるからです。

また、面談中は感情が高ぶっており、状況を正確に捉えきれていないこともあります。
その場の雰囲気に流されて“改善の約束”をしてしまうと、あとで撤回が必要になり、結果として「口だけだった」と信頼を失うリスクがあります。

だからこそ、面談では「約束」ではなく、「持ち帰って検討させてほしい」が正解です。

しっかり受け止めた上で、「社内で状況を整理し、どのように改善できるかを本気で考える」と伝えることで、誠実さは十分に伝わります。

4.2. 翌週までに“アクション”で示す

面談で出た課題や要望に対して、社長が本気で受け止めたということを証明する最も効果的な方法——
それは「早期の小さな行動」です。

たとえば、
・問題のあった会議体の見直しを着手する
・現場の上司にヒアリングを始める
・社員の声をまとめたメモを回覧する
といったことで構いません。

重要なのは、完璧な施策を打つことではなく、「聞いたままで終わらせない」という意思を社員に見せることです。

特に、退職を申し出た本人に対しては、数日以内に「先日の話を受けて、今こういう対応を進めているよ」という“報告”を入れるだけでも、驚くほど印象が変わります。

社員の信頼は、言葉ではなく“行動”で取り戻すしかありません。

「動いてくれた」と実感した瞬間に、社員の気持ちは大きく揺らぎます。
「この会社で、もう少し頑張ってみようかな」と感じる余地が生まれるのです。

4.3. 全社員に還元する“仕組み化”を目指す

退職を申し出た社員の声は、個人のものではなく、組織の課題をあぶり出す“貴重なヒント”です。
その声に基づいて何らかの改善を行うのであれば、それは一人に対する“特別扱い”ではなく、全社員に関わる制度として落とし込むことが重要です。

たとえば、
・人事評価制度の透明性を高める
・1on1ミーティングの頻度を上げる
・新入社員へのフォロー体制を見直す
といった取り組みがそれにあたります。

社員の声を“共有知”に変えることで、組織は一歩成長します。

さらに、「●●さんの面談で出た意見をもとに、今回この改善を行います」と公表することで、社員たちは「あの人の声が、ちゃんと会社を動かしたんだ」と実感します。

それが、会社の“聴く文化”をつくる第一歩になります。

一人の声を活かして、全員に届く仕組みをつくる。
これこそが、社員が「辞めずに働き続けたい」と思える職場をつくるための本質的なアプローチです。

小まとめ

「辞めたい」と言われた後、最も多い失敗は、“良い面談”で満足してしまうことです。

確かに、受け止めて、本音を引き出し、理解を示す——。それはとても価値のあるプロセスです。
しかし、そこで止まってしまえば、社員の心は戻りません。

行動によってしか、人の気持ちは動かせない。
そしてその行動は、約束ではなく、“スピード”と“誠実さ”で判断されます。

面談から1週間以内に、何をしたかが、社長としての真価を決めます。

社員は、社長の背中を見ています。
だからこそ、聞いた声は行動に変え、行動は仕組みに変え、会社全体を一歩前へ進めていく。
それが、信頼される組織づくりの礎となるのです。

5. 辞める選択をした社員への“未来対応”

ここまで、社員から「辞めたい」と言われた際に、受け止め、聞き、理解し、行動で返す流れを解説してきました。
それでもなお、すでに退職を決意している社員が、会社を去ることもあります。

このとき、多くの経営者が感じるのは喪失感や無力感。
「こんなに努力しても辞めるのか…」という気持ちになるのも無理はありません。

しかし、辞めるからといって“無関係になる”わけではありません。
むしろ、退職者との関係性をどう締めくくるかは、会社の“人間力”そのものを表すと言っても過言ではないのです。

去り際の対応こそが、残った社員や社外の信頼をつくる土台となります。

この章では、社員が退職を選んだ際に社長がとるべき“未来対応”についてお伝えします。

5.1. 退職=裏切りではない

社員が辞めるとき、多くの社長はつい感情的になってしまいます。
「せっかく育てたのに」「うちでチャンスを与えたのに」——こうした思いが湧き上がるのは自然です。

しかし、その感情を社員にぶつけてしまうと、これまで築いてきた関係すら崩れてしまいます。
退職とは、あくまで“個人の人生の選択”です。

強い言葉をかけてしまえば、退職する本人だけでなく、周囲の社員にも悪影響を与えます。
「辞めると社長がああなるのか」「出ていきにくい会社なんだな」と受け取られ、結果として心理的な圧力になってしまいます。

退職を“裏切り”と見るのではなく、“節目”として受け入れることが、社長としての器を示す瞬間です。

そうすれば、退職者も会社に感謝を残し、周囲の社員も安心して働ける風土が築かれていきます。

5.2. 最後まで“丁寧に送り出す”姿勢が会社の品格

退職が決まると、つい「もうすぐ辞める人」として距離を置いたり、業務を外したりするケースがあります。
しかし、そうした対応は、本人にとっても、周囲にとっても“冷たい会社”という印象を与えます。

たとえ残りわずかな勤務期間であっても、社員として迎え入れてきた責任を、最後まで全うする。
この姿勢が、会社の信頼や評判をつくります。

「辞める人にも、ここまで丁寧に接するんだ」——この印象が、社内の士気や文化を底上げする力を持っているのです。

退職日には送別のメッセージを送り、業務の引き継ぎも丁寧にサポートする。
本人が希望すれば、社内への挨拶やスピーチの機会を設けるのも良いでしょう。

こうした対応は、社員の信頼だけでなく、取引先や外部からの企業イメージにも大きな影響を与えます。
「人を大切にする会社」という評価は、一朝一夕では築けません。
だからこそ、退職の場面でこそ、“その会社の本質”が試されるのです。

5.3. 「戻ってこられる会社」にしておく

いま辞めた社員が、数年後に「やっぱりもう一度働きたい」と思ったとき、その扉が閉ざされている会社と、歓迎される会社。
どちらが魅力的でしょうか?

「出戻り」=失敗ではありません。
むしろ、経験を積んだ元社員が再び戻ってきてくれる会社こそ、柔軟で成熟した組織と言えます。

そのためには、退職時に不快な思いをさせないこと、そして「またいつでも戻ってきてくださいね」と一言を添えることが大切です。

「また働きたいと思える会社であり続ける」ことは、究極の離職対策でもあります。

加えて、退職者が取引先になったり、採用候補者に「いい会社だった」と紹介してくれることもあります。
これはお金では買えない“信頼資産”です。

たとえ社員が辞めても、“会社のファン”でいてくれること。
それが、持続可能な企業文化の核になります。

小まとめ

辞める社員に対して、最後にどんな言葉をかけるのか。
どんな対応をするのか。
その一つひとつが、社長としての品格を映し出します。

人は、去るときの扱いを一生忘れません。

そして、その姿を周囲の社員も、取引先も、静かに見ています。
辞めた後に「あの会社は本当に良い会社だった」と思ってもらえる対応こそが、経営者にとっての“最終戦”とも言えるでしょう。

退職者を敵にせず、未来の味方に変える。
その発想がある経営者が、長期的に信頼と人材に恵まれた会社をつくっていくのです。

まとめ

社員から「辞めたい」と言われる瞬間は、経営者にとって最も胸がざわつく出来事のひとつです。
しかし同時に、それは“会社の何かを見直すべきサイン”でもあります。

本コラムでは、以下の5つの対応ステップをお伝えしてきました。

まずは“受け止める”が最優先
→ 感情的に反応せず、まずは「話してくれてありがとう」と伝える。
本音を引き出す“聞く姿勢”
→ 表面的な理由ではなく、真の退職理由を丁寧に聞き出す。
社長の“理解力”が社員の信頼を左右する
→ 否定せず、共感し、組織全体の課題として捉える。
社員の声を“行動”で返す
→ 約束よりも、早期のアクションと仕組み化で信頼を示す。
辞める選択をした社員への“未来対応”
→ 最後まで丁寧に対応し、将来また戻れる関係性をつくる。
これらのステップを実践することで、退職の申し出は“別れ”ではなく、信頼再構築の入口になります。

退職の申し出を受けたとき、感情的に詰め寄ったり、すぐに引き止めたりしても、状況は改善しません。
むしろ、社員の本音を閉ざしてしまい、会社としての改善の機会を失うことにもなりかねません。

一方で、丁寧に受け止め、誠実に向き合い、早期にアクションを起こせば、
社員の気持ちが変わる可能性は十分にあります。
それどころか、「辞めたい」と言っていた社員が、数年後に幹部として会社を支えてくれる――そんな未来もあり得るのです。

また、退職を完全に防げなかったとしても、そのプロセスを通して得た気づきは、次に活かす“経営の財産”になります。

社員の「辞めたい」は、会社が進化するチャンスです。
逃げずに、誤魔化さずに、誠実に向き合えば、必ず組織は強くなります。

さあ、次に「辞めたい」と言われたそのとき、あなたはどう向き合いますか?
未来の離職を防ぎ、信頼を深める経営へ、はじめの一歩を踏み出していきましょう。

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