現場の疲弊は”構造のせい”か“関係性のせい”か?
「また一人、会社に来なくなっちゃったんですよ」。とある企業に勤める友人が、雑談のなかでぽろっと言いました。そういえば、この手の話、最近どこでも耳にします。会社を休みがちな人がいる、長い休業を経てやっと戻ってきたと思ったら、また姿を見せなくなる。そして退職してしまう――。珍しい話ではなくなっています。
ハラスメント防止法の施行もあり、人間関係に起因するトラブルが表に出やすくなり、解決の道筋が用意されるようになりました。それ自体は前進ですが、問題の根っこは解決されないまま。くすぶり続けた火種が、また別のかたちで現場を疲弊させています。
現場が疲弊する背景には、必ずと言っていいほど「構造的な問題」があります。今回は、その構造に目を向けます。
まず挙げたいのが「過重労働」。昔のような“無茶ぶり”型の過重労働は、さすがに減ってきましたが、厄介なのは本人も上司も気づかない“意図しない過重労働”です。
特に多いのが、組織の仕組みや仕事の進め方そのものが、負担を増やす原因になっているケースです。
たとえば――
- 社長や管理職への依存度が高い。現場は自分で判断せず、上の顔色を見て動こうとする。
- 指示待ちが常態化し、期限直前に仕事が一気に押し寄せる。
結果として短期間で業務を詰め込み、過重労働になります。
さらに深刻なのが、指示や方針がコロコロ変わる会社です。経営環境が変化する今、トップの意思決定が揺れること自体は理解できます。でも現場からすれば、「せっかくやったことが無駄になる」体験が積み重なり、徒労感が募ります。「どうせまた変わるんだろう」という諦めが広がり、モチベーションはみるみる落ちていきます。
次に挙げたいのは、役割や責任の線引きがあいまいなことです。
“できる人”のところに仕事が集中する。逆に“抱え込む人”が仕事を止めてしまう。中小企業ではよく見られる光景です。本人は「自分がやらなきゃ」と必死に頑張っていますが、組織全体で見れば極めて不健全な状態です。知らないうちに負担が偏り、気がついた時には、誰かが倒れている…そんなケースも珍しくありません。
厚労省の調査によれば、2018年から2022年にかけて「休業または退職のあった事業所」の割合は約6.7%から13.3%に倍増。1か月以上の休業者が出た事業所は直近3年間で約10%にのぼります。
人材不足が課題のいま、現場の疲弊は会社にとって致命傷です。さらに怖いのは、疲弊は連鎖するということです。一人が倒れれば、周囲にしわ寄せがいき、また一人、そしてもう一人と疲れていきます。
こうした現場の疲弊を「もっと頑張れ」「気持ちで乗り切ろう」という精神論で済ませてはいけません。
必要なのは、「個人の頑張り不足」ではなく「組織の構造問題」として捉え直すことです。構造に手を入れなければ、同じことが何度でも繰り返されます。
とはいえ――
経営者やリーダーならこう思うでしょう。「そうは言っても、無理を承知でお願いしなければいけない時がある」と。
それは事実です。納期が厳しい案件、会社の命運をかけた大きなプロジェクト、突発的なトラブル…。現場に一時的に負担をかけてでも突破しなければならない時は、必ずあります。
このとき鍵になるのは、“日頃どれだけ関係性を築けているか”です。
普段から
- 判断の理由を伝え、
- 役割を明確にし、
- 負担が偏らないよう気を配り、
- 声を拾って改善につなげているか。
その積み重ねが、いざというときに「よし、一緒にやろう」と現場が腹をくくれる土台になります。
「今のやり方で、現場は力を発揮できているだろうか?」
「難題が押し寄せた時、全員で力を合わせられるだろうか?」
そんな問いを、自分に、そして会社に向けて、ぜひ一度投げかけてみてください。
コラムの更新をお知らせします!
コラムはいかがでしたか? 下記よりメールアドレスをご登録いただくと、更新時にご案内をお届けします(解除は随時可能です)。ぜひ、ご登録ください。

